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 その『夫婦善哉』の柳吉役は松尾さんのお母さんだったらしい。そして、松尾さんのお嬢さんは3歳の時、すでに駒香姐さんのファンだったとか。

お姐さん「その時の写真がテレビに映りましたんや。あの頃は今のおばんとえらい違うな思うてね(笑)」
おりき姐さんは写真見てたらえらいキツそうな感じですけど…。
お姐さん「呑んだら面白いよ。よう呑みはった呑みはった。みなね、私もよう呑んだ呑んだ。こんな二日酔いしたら明日行かれへん、もう頭上がれしまへんねん。せやけど、行かないかんから行きまっしゃろ?ほたらまた同じお客さんが来はりますねや」
師匠「ああ」
お姐さん「ほいだら、あかん今日は三日酔いになる、言うても、呑んだら治るから呑んでみ言われたら、そうでっか言うてまたカーッと呑みまっしゃろ。ほたらまた、シャーッとなりまんねや」
師匠「二日酔いの迎え酒やね」
お姐さん「ほいでまた散財(お座敷遊び)したら、あくる日四日酔いする時あってね(笑)。世の中のんびりしとりましたからな」
師匠「ねえ。そら…。戦争中なんかはやっぱり、酒はないは食べもんはないは。あんな時代は、あれ、どないしてましたんやろな」
お姐さん「いえな、私も今日ふっと思い出したんがね。ここのうちにね、あの、ここの近所、南森町より向こうに丸石製薬いう薬屋はんがあったんどすねん。そこへ<挺身隊>(身を投げうつ覚悟で組織された部隊)に行ったんどすねん。戦争でね、もう芸者でけへんから言うてね。ほいでもうこれで、芸者やめぇ言いはった時にね、もうよう呑んで呑んで散財したったんですねん。もう明日から呑まれへん思うてね。それから挺身隊行かんならんのでね。私が分隊長になってね」
師匠「へえへえ」
お姐さん「最初松下はんとこ行くいうことなっとったんですけど、もう松下はんとこ、ようけ(=たくさん)で困って(笑)。芸者の挺身隊かなわん思うてはったんやろ、もう取りはれへんかって。しゃあないし、丸石製薬行ったわけでんねやな」
師匠「ふうん」
お姐さん「みなアンプルにな、CかEか貼りますねや。夏はええけど、ちめとうおまんね。ほいでな、お国の為お国の為言われたらしゃあない、やってまんねんけど、もうしんどうなって。朝6時でっしゃろ?帰ってくんの5時ですやん。空襲警報鳴ったらえらいこっちゃ。一人死にました、やっぱり」
師匠「へえ…」
お姐さん「仲居さんも一緒でしてん、お茶屋の。仲居さん死にはった…」
ああ…。
お姐さん「ほいだら、ところが、生産がようでけた言うて、そこの女の工場長さんが喜んでくれはってな。今日は宴会する言わはったんが、ここでさしてもうたん」
師匠「ほう。相生楼で」
お姐さん「ふっと思い出して。ここの上でやってもうたん」
その頃言うたら、相生さんは場所はちょっと違うかったんかな。
お姐さん「このへんやと思いましてんけどな」
相生楼、菅南小学校の前にあったんや。鳴尾町のむかいっかわにあった…。
お姐さん「そうらしいでしたなあ。せやから、結局行ってるとこあのへんやからね。さあ、もう、その日は仕事が早いねん(笑)。晩呑まんならんからな。ほんでもう、呑みたい呑みたいいうのばっかりですがな、もう、さっきおっしゃったように、お酒あらへんし」
師匠「あらへん時分や」
お姐さん「一升瓶が来るっちゅうのでえらいこっちゃ。それから、ま、皆がそれガブガブ呑んで、酔うてきたら、やれーっ!言うて派手で、三味線持って。散財してん。見はったことないがな、その工場長なんか、そんな踊り」
師匠「そらそうやね」
お姐さん「喜んでくれはってな。それがはじめ一班に行った子が、いけずしまんねや。ムカムカ腹が立つけど、二班の分隊長やから皆が‘姐さん言うて’言うて、よっしゃよっしゃ言うてるけど、言うてみてもしょうがおまへんわなあ。今死ぬか生きるかわかれへん。せやけど、酔うたまぎれでその宴会で言うたってん。もう明日死ぬかわかれへんからな、皆におせえ(=教え)たってや頼むさかい言うて、で、グャーッと一緒に呑んだんだ。ほしたら、それが仲良うなって」
師匠「ほう!(笑)酒というもんはええもんやけど」
お姐さん「ええもんでんねん。せやからね、もう、カーッと怒ったらカーッと呑み、カーッと泣くしね。おかしなもんでんな、せやけど」
師匠「いや、ほんまやあ。そらそういう機会を設けたら皆仲良うなってまうねん」
お姐さん「そうでんねん。そやから、このうち(相生楼)忘れられんねん」

 棚橋さんは天満宮で結婚式挙げて相生楼で披露宴をしている。そして、米朝師匠にも浅からぬ縁が…。

師匠「うちの双子がおりまんねやが。小米朝の下に男の子の双子がおりまんねん。どっちもねえ、ここ(天満宮)で婚礼やって相生楼で披露宴やって。もう十何年前のこっちゃね」
お姐さん「そうでんの。ご縁がありまんねんな、やっぱり」
師匠「うちの家内が、天満やから。で、ここでやりたい言うてね」
お姐さん「なかなかねえ、ご縁というのはわからんもんでんな、せやけど」
師匠「で、その丸石薬局ちゅうのは、もうなくなりましたん」
お姐さん「もう、せやからね、爆弾落されて…。そんなんで、ぜんぜん音沙汰おまへんねんけどな、会社はある思いまんねんけど。せやから、あの時分、もう、(爆弾)落されたらもうさっぱりやからね。いつ死ぬやらわかれへん。皆死ぬ死ぬ言うてね」
師匠「そや…」
お姐さん「嬉しかったな、あの散財した時。あくる日からしんどうてしんどうて(笑)」
師匠「あくる日はもう(笑)」
そういう時代に散財するいうことは稀少価値ありますからね。
お姐さん「そうでっせぇ」
師匠「そらあ、あの、はっきり言うて、うんと偉い人はね,毎晩のように酒呑んでたんや」
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