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では、どのような流れで一つのプロジェクトをすすめるのでしょうか?

まず最初に名乗りをあげてくださったのが、近畿大学、2001年5月のこと。夏休み返上で準備を続け、美術展は10月に実現しました。だから彼らが作り上げた手順が、基本的な流れになっています。「アーツにスーツ、スーツにアーツ」というのも彼女たちがつくった合い言葉なのです。僕も最初は小難しい企画書を書いていたんだけどズバリ、言い当てた。若い人、実際にアーツをやってる人の柔らかい感性に、はっとさせられました。
基本的な流れとしては、学生たちで構成する実行委員会を組織し、企画書を受け取り、趣旨が合致すれば、僕ら実行委員会と、使える場所の交渉に入ります。これが、1−2カ月程前にならないと分からないので、スケジュールがなかなか決まらない。そうして、ゆっくりゆっくり信頼関係を築いていくんです。知り合ってから実施までだいたい半年近くかかるかなぁ。企業の効率とは正反対でしょ?だから、「スローアーツ」ですね(笑)。

たしかに、企業の論理で言えば、あるまとまった額のお金を出せば、誰かがイベントを請け負ってくれて、社内ではノータッチで済み、効率は良いだろう。だが、OBPアーツでは、学生も、松下の社員さんも一緒になって手探りで形をつくっていっている。

具体的にはどのような展示や公演があり、それに対してどのような反応が?

例えば美術の展示では、部屋に砂を敷き詰めて、サラリーマンやOLの人たちに靴を脱いで入ってください、というのがあったんだけど、これなんかやっぱり仕事で疲れている彼らには、癒しでよかったみたい。あと、プリクラもおもしろかったなぁ。これは吹き抜け空間を使ったんだけど、デジカメで写真とってコンピューターに取り込むでしょ、そしてコンピューターの中で背景を選べて加工できるんですよ、砂漠とか、南国、カマキリとかいろいろ。それをプリントアウトして、参加者にあげるの、もちろん無料です。お昼休みに来た人が、帰りがけにも友達つれて来たりして、列ができてた。また、学生の作品を買いたいという人が出てきたのと(通常はお金のやり取りは禁止している)、学生の中にも売ってみたいという声があがってきたので、「学生芸術家屋台」というフリマ形式で個人で参加できるようなものも企画しました。これも運営は学生の代表者に任せて。音楽では、去年の暮れにやったクリスマスアーツフェスティバルがものすごく良かった。クリスマス用のステージを借りて、10日間。その一つに、ゴスペル教室の生徒さん70人が唄うというのを企画したんだけど、そこに松下興産の専務さんや松下電器の社員も一緒に入って唄ったんですよ。皆さんほんとうに楽しんでいて、また来年もやろう、って。

私もいくつかのプロジェクトに足を運んだが、学生による取り組み、というのが、社会人たちのアーツへの敷居を低くしているように見受けられた。例えば、プロのキュレーターによる、プロのアーティストの展示ならば、「芸術は難しいから…」という思いとともに通り過ぎるかもしれないが、‘まだプロでない=評価の定まっていない’学生には、「これは何?」「何をしているの?」という疑問を発する余地を、来訪者は気軽に見出すことができる。つまり、OBPアーツプロジェクトは、アートマネージャーと、観客、両方の「インキュベーター(孵卵器)」になっているともいえるだろう。

 

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