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公共性、未知のもの、都市…

大学との共同プロジェクトにしているのは、特別な意図があるのですか?

一つは僕自身が日本アートマネジメント学会に入会していて、その関係で、関西部会長である小暮宣雄さんをはじめ、各大学の文化政策を研究していらっしゃる教員方と交流があり、先生方が学生の受け皿を探していたこと、また松下のメセナ事業であるということで、「青少年の育成」という狙いは企業内での理解を得られやすかったということがあります。
何より、もっとも大きな狙いは、ビジネスパーソンも新しいアーツを知って「未来は定まっていない」ことを知る−「心の保健室」みたいなものを提示したかった。つまり、ちょっと風穴みたいなものを明けたかった。大阪って、大学が極端に少ない街なんです。僕自身東京の大学に行っていたから、違う大学同士の学生の出会いが楽しかったのに、大阪にはそういう場が少ない。京都や神戸に比べても、大学自体が極端に少ない。そういうことも考えると、アーツ好きな学生たちの交流の場、溜まり場があれば、と思った。アメ村は若者の町、なんていってるけど、若者はコンシューマー(消費者)として扱われているだけでしょ?そういうのでなく、都市のクリエイティヴィティみたいなものを、ささやかなりにも創っていけたら、という思いはあります。つまり、大阪の街を、もっとおもしろくしたい。
また、一番大事なことですが、OBPアーツは、非営利のプロジェクトですから、非営利団体である大学とリンクすることで、社会的公共性を維持したいという基本的な方針があります。そうしないと、あるアーティストがやってきて、「僕の作品は素晴らしいんです、ぜひ展覧会をやらせてください」なんていう申し出があったときに、どうするか…。こちらは企業の自主事業として社会的に公平な立場でやっている以上、個人の私的な利益には応えるわけにはいかない、というのが方針なんです。

なるほど。ですが、大企業というと、逆に価値の定まったものへの支援の方が理解を得やすいかと思うのですが、どのようにして現代美術、価値の定まっていない若者の芸術活動への支援が理解されたのでしょうか?

それは、芸術そのものではなくアートマネージャーの支援である、これは教育的プログラムである、としたことが理解されたのだと思います。それが結果的に現代芸術を支援することにつながると思うのです。ただね、ここで見せるアーツの質の向上というのは、今後の課題でもあるんですよね…だから学生たちには「人に見てもらうんだから恥ずかしくないものを見せろよ」とは言っていますが。

たしかに、学生たちの展示作品には、評価という判断を下しにくいものが多い。だが、社会倫理に反しない限り、一応‘なんでもあり’な状況に持っていけているのは、マネージャー支援に徹底するという姿勢から導かれたものだろう。実際、松下の担当者の皆さんは、きちんとしたプロ意識でもって各プロジェクトに対応されているので、参加学生との間には緊張感のあるパートナーシップが育まれているのが見受けられる。

他に企業内で説明されていることはありますか?

ビル側には、普段とは違う人が集客できますよ、と説明しています。OBPで働くようになって感じたのは、歩くスピードが速いこと。商用で来ている訳だから。アーツの人も来て、未知のものが生まれて、「まち」になると思う。集客はあくまで結果として、ということ。アーツの若者が集って風景が変わるんですよね。
風景ということでいえば、あとやはり、OBPって、大阪の街の中でも特化した街なんですよ。いわゆる泥臭さがなくて、良くいえばスッとしていて、悪くいえば、無機質で。そんないわばエグゼクティヴな価値の定まった街で、わけのわからないものが生まれてくるって、楽しいじゃないですか。


それでは、逆に支援するアートマネージャーの質は、問うのでしょうか?いままで申し出のあった学生で、落としたことはありますか?


やりたいといってきた学生を落としたことはないですね。声をかけるときには、時間がかかること、ボランタリーであることを何度も言っているので、興味本位の人、自分のしたいことが他にあって時間が割けそうにない人などは、最初から乗り込んでくることはないようです。だから、結果的にやる気のある人なら、誰でもということになって、おもしろいことができる。

 

   
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