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吉朝さんてね、噺が終わって引っ込みはる時も、なんかこう、知ら〜ん顔して引っ込みはんねん

吉朝「あれ、どう思う?」

どう思うって何がです?

吉朝「いや、よう人から言われんねんけどな。どうなんやろ、と思て」

味方「能もそうやけど、退場するとこが見えるでしょ?今までのはフィクションですよ〜って、“オチ”を付けて元の世界に戻して引っ込む。でも、まるっきり素になったはるわけやなくて、(お客さんに)見られてるという意識はあるんですよね」

吉朝「うん、うん」

余裕綽々って感じに見えるんが、これまた恰好ええと思うんやなぁ

 

 鮎が焼けてきた。
 黒っぽくて大きな土の器に柳の葉っぱが敷いてあるのが涼しそうだ。
 6月だから、まだ幾分小ぶりな鮎で、頭から全部食べられる。
 パクッ。
 くぁ〜っ、たまりませんな。
 こんなん、ふたくちで食べてしまうやん。
 「焼酎くださ〜い。芋です、芋。おいしいのんロックで!」

 

吉朝「せやけど、味方玄って変な人やね(笑)なんか僕、能を見る目が変わりそう(笑)」

ああああ、ごめんなさいぃ〜。しゃべると、こんなんですけど、舞台の上ではこんなんちゃいますから!

味方「あっ、何言うてんの!僕のお弟子さんは、お稽古の時のフリートークを楽しみに来てはんねやで(笑)」

そんなん、お弟子さんに訊いてみんとねぇ(笑)でも、能の人って面白い人が多いんですよ。粟谷菊生(あわや・きくお/シテ方喜多流/人間国宝)さんなんか、東京の人やけど、ぜったい話に“オチ”付けはるし(笑)

吉朝「粟谷菊生さん!去年、大槻能楽堂で見させてもうた『鞍馬天狗(くらまてんぐ)』、めちゃくちゃよかったなぁ…。足許から雲が湧いて出てきてたよね」

そうそう!天狗さんが帰ってゆく時に、モクモクモクって湧いてきた!

吉朝「僕ね、菊生さんて、噺家で言うと、志ん生さんみたいな人やと思うねん」

味方「ああ、なるほど、そんな感じですよねぇ」

吉朝「あの人、ほんまにええ顔してはるわ」

味方「そう言えば、僕、菊生先生に褒めてもうたことあるよ」

いつです?養成会か何かで舞うたん褒めてもらったの?

味方「ん?前に京都で、何かの会の後やったと思うんやけど、菊生先生が‘今、謡会の後のお楽しみ抽選会の景品考えてんだけどね、“あとより恋の責めくれば”で<麩(ふ)>っていうのと、“功成り名遂げて身退くは”で<だし昆布>っての、なかなかいいでしょ’って言わはるから…」

吉朝「へぇ、面白いねぇ」

なに?それ、どういうこと?

味方「謡に因んだ物を景品に出して、で、その文句が景品につけたある。因んだ物というても、そのまんまやなくて、ちょっと捻ってあって。<麩>を撒くと、池の<鯉>がダーッと集ってくるやろ?<恋>に<鯉>がかけたあんね。で、『松風(まつかぜ)』の“あとより恋の責めくれば”(笑)。それから、『船弁慶(ふなべんけい)』の“功成り名遂げて”は、昆布って出汁とったら引き上げるやん?せやし、“身退く”。そんな具合」

ほぉん、面白いなぁ。そういえば、謡の新年会の時に、そういう抽選会ようやってはる

味方「で、僕は、‘『紅葉狩(もみじがり)』の“とりどり化生(けしょう)の姿を現はし”で、クレンジングクリームっていうの、どうです?’って言うたん。そしたら、菊生先生が‘面白い人だね、キミは’って」

化生(=化け物)の姿が現れるのを、女の人がお化粧を落とすのに懸けてんの?

味方「な?ブラックでええやろ?(笑) 」

ふははは(笑)、さすが…て、二人とも噺家ちゃうやん!何を褒められたんかと思えばこれやから(笑)。菊生さんなんか、観世銕之丞(=観世暁夫)さんと井上八千代(=片山三千子)さんの結婚披露宴の時のスピーチが、‘今日の肉は片山!よく観世食べてください’ですよ?落語やなくて能の人間国宝やっちゅうのに(笑)

吉朝「やっぱり僕、能を見る目変わりそう(笑)」

ああああ、しまった〜(笑)

 

 せっかくええ感じで能の話になりかけてたのに、なんでこうなるの。
 「ん〜、鮎、食べ足りひんなぁ…大将〜、鮎、まだある〜?あるだけ焼いて〜」
 吉朝さんとはじめてお会いしたのは、散りかかる桜越しに観た丹波篠山の春日能だった。
 もう何年も前になる。
 ずっと話してみたいと思っていた人だった。
 何度か落語を聴きに行って、この人は、絶対、能の世界に通じるところのある人や、と思っていた。
 一つは、芸人としてのポリシーみたいなものが…というと、「そんな、アンタたいそうな」と吉朝さんに笑われそうだが…

 
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