log osaka web magazine index


時代の動きとともに、作家たちの作り方が、変わってきているということですね。
大阪でも、いろいろな映画を作りたい若い人たちが、いっぱいいます。映像を撮っています。だけど、それが映像から映画になっているかどうか。「映画」になる、ってどういうことなのか。彼ら彼女らは、当たり前のように、映像を受け入れているかもしれないが、そこから映画になってゆく瞬間は、やはり大きなものがあると思います。そうした若い映画人たちに、何かメッセージをいただけませんか?


たとえば、親しい仲間が集まって自主制作の映画を作る、しかも簡単にできてしまう。そのことが問題なのです。その出来上がった作品を、誰に見せるのか。仲間同士で見る、あるいは見せ合うだけであれば、自己満足的な、閉ざされた映画になってしまう危険がある。この場合、ぜひ考えなければならないのは、映画を作った人間と、作られた映画との関係です。
たとえ映画を作った人間であっても、それはこういう意味の映画ですと、表明することができない。それが映画なのです。それでは誰が映画の意味を決定するのか、それは観客ですというしかありません。文章であれば、「私はあなたを愛します」と書き、句読点を打ったとき、ただちに意味が成り立ちます。しかし映画の場合は、男優と女優によるラブ・シーンであっても、あるいは素人の若いカップルに出演してもらったにしても、二人をクローズ・アップで撮り、男性に「私はあなたを愛します」といわせたとしても、その映像を見る人に意味が伝わるかどうかわからない。見る人によっては、映っている男性の眼の色から、女性を真剣に愛しているようには感じられない、嘘を言っていると思われるかもしれない。このように100人の人が、ひとつの映像を見ても、そこにひとつの意味だけを読み取るとはかぎらないのです。映っている女の子を見て、「自分の好きなタイプじゃない」と観客が思ってしまえば、もうラブ・シーンが成り立たなくなるのが映画です。このように映画は、それを作った人間にも意味が決定できない、かぎりなく開かれたメディアです。そして意味を決定する観客が、そこにいなければ、映画はいまだに完成されていないと言わざるを得ないのです。
みずからの映画を観客の眼にさらすこと、そして批判を浴びることによって、その作品が何であったのか、ようやく意味がわかってくる。そのとき、映画ははじめて命を吹き込まれ、息づくことになるのです。若い世代の人たちも、映画を作る場としてではなく、映画を見せる場、他者と出会う場として拡げてゆくことを、期待したいですね。

そのために、我々「コミュニティシネマ」も、若い人の映画上映にも取り組んでいきたいと想います。ありがとうございました。

吉田喜重

[略歴]
1933年 福井県福井市生まれ。
55年 東京大学文学部フランス文学科卒業。
松竹大船撮影所に助監督として入社。木下恵介監督に師事する。
60年 映画『ろくでなし』で、映画監督デビュー。
64年 女優、岡田茉莉子と結婚、松竹を離れる。
66年 独立プロ「現代映画社」を設立する。
74-78年 テレビ番組『美の美』シリーズを製作。
79-82年 メキシコ滞在。
84年 著書『メヒコ 歓ばしき隠喩』(岩波書店刊)により、メキシコ政府よりアギーラ・アステカ賞を贈られる。
87年 映画『人間の約束』により、芸術選奨文部大臣賞を受ける。
90-95年 フランスのオペラ・ド・リヨンで『蝶々夫人』を演出。
95年 同オペラをサンフランシスコで上演。
98年 著書『小津安二郎の反映画』(岩波書店刊)により、芸術選奨文部大臣賞を受ける。
2003年 『鏡の女たち』公開。フランス政府から、芸術文芸勲章・オフィシエ賞 「OFFICIER DES ARTS ET DES LETTERS」を贈られる。

[フィルモグラフィ]
60年 『ろくでなし』(松竹)
『血は渇いてる』(松竹)
61年 『甘い夜の果て』(松竹)
62年 『秋津温泉』(松竹)
63年 『嵐を呼ぶ十八人』(松竹)
64年 『日本脱出』(松竹)
65年 『水で書かれた物語』(中日映画社)
66年 『女のみづうみ』(現代映画社)
67年 『情炎』(現代映画社)
『炎と女』(現代映画社)
68年 『樹氷のよろめき』(現代映画社)
『さらば夏の光』(現代映画社)
69年 『エロス+虐殺』(現代映画社)
70年 『煉獄エロイカ』(現代映画社・ATG)
71年 『告白的女優論』(現代映画社)
73年 『戒厳令』(現代映画社・ATG)
86年 『人間の約束』(西武セゾングループ・キネマ東京・テレビ朝日)
88年 『嵐が丘』(西友・西武セゾングループ・MEDIACTUEL)
03年 『鏡の女たち』(グルーヴコーポレーション・現代映画社・ルートピクチャーズ・グルーヴキネマ東京)

※主なドキュメンタリー作品として、『BIG_1物語 王貞治』(77)、『狂言師 三宅藤九郎』(85)、『幕末に生きる 中岡慎太郎』(87)、『愛知の民俗芸能 聖なる祭り 芸能する心』(92)、『愛知の民俗芸能 都市の祭り 芸能する歓び』(93)、『吉田喜重が語る小津さんの映画』(94)、『夢のシネマ 東京の夢 明治の日本を映像に記録したエトランジェ ガブリエル・ヴェール』(95)がある。

第35回奈良県芸術祭
『鏡の女たち』と吉田喜重監督・岡田茉莉子ご夫妻の講演
日時:11月6日(土)
    pm2:30〜上映・pm4:50〜講演・(入替え)・pm6:00〜講演・ pm6:30〜上映 
会場:ならまちセンター
入場料:1500円
主催:奈良シネマクラブ
お問合せ:田中 0745-78-5799  http://www.naracinema.jp


<< | 1 | 2 | 3 | 4 |
HOME