log osaka web magazine index

日々是ダンス。踊る心と体から無節操に→をのばした読み物


09 空腹の技法 その2 山下残

<ダンスと言葉/テクスト 『そこに書いてある』>


 
  観客に配られた本の表紙ブックデザイン:納谷衣美製本:かなもりゆうこ
 
では書物3部作のお話に。山下さんのテクストは、作品づくりの方法、演出効果、そして記録と、作品の前、中、後すべてに関わっていて、それぞれの作品で、言葉あるいはテクストが違った使われ方をしています。作品ごとに、お聞きしていきたいのですが。

山下:まず「アイホール」での3部作の前に、新宿の「パークタワーホール」のステージで、1度振付をすべて言葉にするっていうことを、試みたんですよ。その時は、お客さんに配られる1枚の紙に、言葉としての振付を全部起こしていって、それを順番にやるっていう感じで。
 それで、振付を言葉に置き換えてテクスト化するということを、『そこに書いてある』ではじっくりやりたいなと思って、今度は1冊の本にしました。そのときに、振付のテクストを僕以外のメンバーが踊るっていうことと、もうひとつ、お客さんが本の頁を1枚1枚めくりながらダンス、振付が進行するというアイディアが出てきました。
 本にするとなったら、1画面にぼーんって言葉が置いてあるっていうところからふくらみがでて、自分の今までつくった作品のメモを押入から引っぱり出してきて、これも本になるわ、これも本になるわって。いちおうアイホールで初めてやる公演だったんで、集大成的な意味も込めて、僕のそれまで10年間くらいの作品ノートを全部抜き出してきて。このときこの振付にこういうメモしたなあっていう創作記録みたいなのは、すべて残してるんですよ。あと95年は震災があって、友達にインタヴューしたなあっていうような記事だとか。それこそダンスになんも関係ない自分の日記だとか。記録するのが好きなんですね。全部残っている。
 それらが本をつくっていく過程でどんどん脱線していく。いったんテクスト化されると、そういうテクストだったらダンスはこうしよう、とか。だから、ダンスがあって、それを言葉にして、本にして、本にするなら、こういうテクストも載せられる。こういうテクストを載せるならどういうダンスシーンにしようかという風に、ダンスから始まり、本を経過してダンスに終わる、みたいな作品でした。

作品作りの過程での言葉とダンスの変換の積み重ねは、そのときに始まっていたんですね。というか、『そこに書いてある』がいきなり集大成ですね。(笑)言葉はその過程で変わったりとかは?

山下:あまりなかったね。そのときは言葉の使い方は未熟だったというか。あんまりその自分の基準がわからなかった。まずは言葉を使ってダンスをつくるということに夢中で、言葉にもいろいろあると思うんだけれども、どういう言葉をっていうのはなかった。今は言葉に対する基準というか意識もいろいろ出てきたんですけれど。当時は記録というか、その人のダンスを見てぱっと言葉にする、その瞬発力のほうが大事でしたね。

『そこに書いてある』の公演で用いられた言葉はいろいろでしたね。例えば、本にはタイプされているだけじゃなくて、手書き文字、絵文字があったり、またそれらを、荒木瑞穂さんという書道をされる方が、叫んだり歌ったり。作品作りの中で新たに生まれた、言葉に対する意識といったものはあるのではと思うのですが。

山下:なかなか難しいけれどね。まあ、この作品づくりの機会になったプロジェクト名の「テイク・ア・チャンス」っていうのは、一か八かっていう意味らしくて、プロデューサーの志賀玲子さんは「とにかく思い切ったことをやってください」って、おっしゃるんですよ。で、僕の中でも毎回実験で、いろんな人の意見を聞いて、聞きすぎてもよくないし、聞かなくてもよくないっていう…、言葉を使うだけでも僕の中でかなり波があったんですよ。だから未だに整理できていない部分が多いんですけどね。うーん。何が面白かったのかなぁ…。
 『そこに書いてある』で思い出すのは、実は、言葉を使って作品をつくると無機質な感じになるかなと思っていたんですよ。まあ、ダンスをつくるプロセスみたいなものが見せられたらいいや、と思って。けれども、終わった後にお客さんが感動してくれているような雰囲気があったんですよ。それが一番僕には、衝撃だったかな。言葉を使ったダンスで、わりと挑発的なことをしているはずなんですよね。ところがそれがお客さんの情緒的な反応につながって、「泣くのを我慢していた」みたいな感想をもらって。その辺が意外だったし、こういう可能性があるんだなって思いますよね。そっからちょっと僕も、勘違いしてしまったところもあるのかも(笑)。

<< back page 1 2 3 4 5 6 7 next >>
TOP > dance+ > > 09 空腹の技法 その2 山下残
Copyright (c) log All Rights Reserved.