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日々是ダンス。踊る心と体から無節操に→をのばした読み物


09 空腹の技法 その2 山下残

<ダンスを「書く」こととダンスの作家であること 『透明人間』>


 


 
 
 
画像左:『透明人間』チラシ 宣伝美術:納谷衣美 写真:河上隆昭   右:『透明人間』パンフレット デザイン:納谷衣美

言葉とからだの動きの変換については、『透明人間』のリハーサルを見学させてもらったときに、こんなに重ねられている、と驚いたんです。そのとき面白かったのは、見学している人、スタッフさんかな?に動きを見てもらって、「これを言葉にしてみて」って出てきた言葉を山下さんが「面白い、面白い」ってメモしていたことなんですけれども。変換のプロセスに山下さん以外の人の言葉が入り込んでいて、でも最終的にテクストを決めるのは頑として山下さんだと言う。

山下:たぶんそれぞれの作品に布石があって、そこから話すと、『そこに書いてある』がパークタワー公演だったように、『透明人間』はその半年前に、横浜に滞在して藤田一くん(『透明人間』に出演した京都在住のダンサー)と一緒に作った作品だったんですね。それは、始めはフィリップ・ドゥクフレの作品に参加するということで生まれた機会に、どうせドゥクフレは昼仕事して夜はしないだろうから、夜の間に書いてつくれる作品をつくろうってことで。とにかく、ダンスを書きたいっていう欲求だけで横浜には行ったんですよ。

手書き?ワープロ?

山下:あのときはまだパソコン持ってなかったんで、手書きですわ。とにかく、部屋の中で小説家のように作品をつくりたいと思ったんですよね。もちろんそれは、藤田君が夏休みだったり、ドゥクフレに参加するっていう、実現のための要因はいろいろあったんですけれど。
 それでダンスを書くということはなかなかできなかったんですけれど、その時横浜のウィークリーマンションでわーっともだえながら書いた、私小説的な文章を、藤田君のダンスに結びつけて、それをなんとか1時間のダンス作品に構成したんですね。『透明人間』はその延長で、何人もダンサーを使ってやった作品なんです。

ではテクストは最初にあったんですね。

山下:最初にテクスト…うーん。
 まあ、もとのテクストにも藤田君がいて、そういう状況にいたっていうのもありますし。もひとつ、『透明人間』でも、ダンスから離れすぎてはいけないので、なるべく体から出るものにしようとはしました。で、群馬とか東京とかからもダンサーを京都の稽古場に呼んで、そこから出てくる動きについても、ノートを書きためていったんですよね。

途中でダンサーもメモを?

山下:それはしてないんじゃないかなあ。

わたしが見たのは、幻?

山下:したかなあ。

いや、してた。してて、「最終的にまとめるのはオレやから」って言ってはりましたよ。

山下:最終的にまとめるっていうのはあったでしょうね。そのときは、ほんとに何考えてたんかなあ。そのときは、記録していくことがオレにとっての振付だ、みたいな意識があったのかも知れない。どこを自分のオリジナルなものにするのかってことで、葛藤していたのかも知れないですね。

「書く」っていう行為の中で、踊ることとダンスの作家であることは接近する気がします。それが感じられたのは、言葉じゃないですが『コピュー』という作品での線の一筆書きのような振付でしたが。「作家性」みたいな考え方は、ダンスとはもの凄くなじみにくいのですが、表現の個性とかオリジナリティということでは、『透明人間』で山下さんの作品ということをすごく感じました。一方で、この作品の作家は最終的には山下さんかも知れないけれど、その過程で別の人の「書いたもの」が折り畳まれているのが面白かった。

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