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日々是ダンス。踊る心と体から無節操に→をのばした読み物


15 京都の夏の体感温度 4

《京都の暑い夏 Hot Summer in Kyoto》講師インタビュー Vol.4

                               聞き手:宮北裕美
                               インタビュー構成:森本万紀子 [dance+]
 

 
大谷 燠(いく)
大阪生まれ。1991年TORII HALLプロデューサー就任。1995年より舞踏を再考し、関西に舞踏の新しい現場を作るべく「OSAKA DANCE EXPERIENCE」をプロデュース。翌年「DANCE BOX」を立上げ、ジャンルを超えたコンテンポラリーダンスの公演・WSを年間約30本企画制作する。2002年DANCE BOXをNPO法人化。大阪・新世界フェスティバルゲート内に「Art Theater dB」を開設し、アーティストの育成と地域社会とアートの新しい環境づくりに力を注ぐ。Performing Art Messe in Osaka運営・企画委員。近畿大学国際人文科学研究所講師。神戸大学国際文化部非常勤講師。(千日前青空ダンス倶楽部のディレクターでもあり、レパートリークラスに講師として参加)(photo: photo: Peggy Kaplan )


 
  千日前青空ダンス倶楽部(振付家:紅玉)2000年結成。〈身体〉を予め用意されたイメージを表現するための媒体と考えるのではなく、個々ソロ活動も行なう踊り手の〈身体〉それ自身に記憶されている風景や歴史を引き出すことにより作品を創っている。代表作「夏の器」は大阪・東京・フランス・ニューヨーク・モントリオール・チリ・韓国等で上演。平成17年度「大阪市咲くやこの花賞」受賞。(提供:京都の暑い夏)
 



 今回のワークショップでおもしろかったことは何ですか?

大谷 参加された方が全然まだ体に落ちていない状況の中でいきなりレパートリーをやると、あまり考える暇なく体を動かさないとならない。そういうものから逆に面白いものが出てくるということがあるので、それが何人かの中にあって面白かったですね。
 わずか2日でしたが、体操にしても少しずつ慣れてくるのと、舞踏の動きの考え方がある程度分かってくるので、そうした時にそれぞれが持っている体の特性とか歪(いびつ)さ、ちょっとした体の歪みとかが今日すごく見えてきて面白かったですね。全く体の使い方が逆なものもあるので、おばあさんの形なんかは全然できない人がいたりして。でもその人が「これでもいいんだ」と……。昨日は緊張している感じがあって、舞踏とはこうでなければならないという感じの構え方があったのが、1日で今日の方が随分みんなほぐれてきたなと。

 どんなダンサーを良いダンサーと思いますか?

大谷 自分のカンパニーのダンサーを見ると、何か経験してくると上手になりますし、何かメソッドそのものをなぞるようになってしまうことがある。そういうことから、いつも「自分はなぜ踊っているのか」という非常に根元にあるところに立ち返ることができる人ですね。自分自身というものには、フィジカルな五臓六腑がある体としての自分と、意識としての体がある。これはダンサーでなくとも皆さんその2つを持ってると思うんです。その意識としての体と物理的な体をいかに行き来しながら、例えばある時は自己放棄したり、投げ出したりできるか。それを客観的にできるダンサーが優れたダンサー。いつも正確に自分を追い込んでゆける、正確に狂える(笑)というのが優れたダンサーかなと。

 舞台での緊張をどう利用したらいいですか?

大谷 何故緊張するのかというと、「恥ずかしい」ということが一つあると思うんです。それはすごく大事な要素で、例えば舞台に上がること、要するに人に見られるということが先ず恥ずかしい。それを平気でシュッとやっちゃう人よりも、「なんか嫌やな、恥ずかしいな」と思いながらやってる人の方が、その後に強くなるんですね。だからビギナーの人がドキドキできるってことは、ビギナーの特権。さっき言ったことにも重なりますが、初めの緊張感は非常に大事なんで、何故自分が踊っているのかということの一番根元にあるものをやっぱり大事にしてもらいたいと思う。
 ただビギナーの場合は上手くいくことも随分あって、それを経験しちゃうと、それをなぞってゆくということに陥った時に、初めだから面白かったものが面白くなくなってゆく。要するに、様式化してゆくことに対してどうやって闘ってゆくか。何かある世界ができたら次にはもう途端にそれを壊してゆくことを僕は考えてしまうんです。そういうことは、ダンスをやる人にとってはすごく大事な要素だと思ってて、考えるより体がスッといってしまうことがありますね。

 自分の身体管理はどうされていますか。

大谷 うちは何もしていません。ダンサー個人ではみんなそれぞれ健康食品に凝ったり、色々やってるけど、僕は——不健康がいいという訳ではないのですが——健康なものってあまり好きではないんです。気持ち悪くて。健康なダンスって、なんかスポーツみたいになっちゃうでしょ。なんか嘘臭くて。だって人間ってみんな怪しいものを持っているのに、豆乳を飲んで、オーガニックな料理を食って……。それを何となく、ああ健康だなと思っているよりは、酒を飲んで潰れていた方がいいんじゃないかなと。極端な話、ダンサーなんか野垂れ死にすればいいんですよ。舞台芸術は全てそうですが、客の前に立って初めて成立する世界であり、最低客が一人いないと成立しない芸術だと僕は思っているので、その為にちゃんと立てるだけの体を管理しておく責任はあると思うけれども、方法としてはうちは野放しですね。
 僕はちょっとね、いま身体弱ってるから(笑)、ウコンを飲んでますけど。後は植物が好きなので、野菜を作ったり花を作ったりしてますね。雑草などもそうですが、そういう物に触れてる時間が好きで、おそらくバランスが取れてると思います。今ちょうどえんどうなどの豆類の収穫が終わって、夏野菜のトマトとかの植え付けの時季です。結果的に健康管理になっているものはそれぐらい。やっぱりほっとする時間ですね。

 京都の暑い夏のユニークだと思うところはどういうところですか?

大谷 クラスの数がすごく多いでしょ。地方の人が多くて、ゴールデンウィークにこれに向けて来る人が地方からたくさんいるのも面白いと思う。これはダンスボックスの大谷としての感想ですけれども、これだけ講座があるので、重複して幾つか受けれるというのが羨ましいなあと思います。10日できればいいなあ。
 お互い情報交換の場になっていたり。僕のクラスを受けていた子で、すごく人見知りで人付き合いが下手な子がいた。でもこういう所に来ると新鮮な出会いがあって、それがコミュニティを広げてゆくことになっている、というところがDANCE BOXとつながっていると思います。だんだんコミュニティが豊かになってゆけばいいなと思います。このフェスティバルも10年やっていらっしゃって、丁度DANCE BOXと同じなんですよね。

 京都の暑い夏と関わりをもったきっかけは?

大谷 昨年ニューヨークのツアーでモノクロームサーカスと千日前が一緒だったんです。その時に少しお話することができ、旅先なのでわりと普段よりゆっくり話ができて、その時に実際に千日前の作品を見てくれたのもあって、「まぁえんちゃうの」という感じで呼んでくれたのだと思います。
 僕は外人にワークショップするの大嫌いで、難しいんですよ。微妙な言葉のニュアンスが伝わらないので。“100m後ろに後ろ髪があって、そこを杭で打たれていて、そこからどうしてゆくのか”なんていうのは、やっぱり言葉の背後にあるイメージを喚起してもらわないと、面白い動きになってこないですよね。そのイメージを踊り手が創れるかどうか。それはあらかじめ決められたものではなく、踊りはちゃんと自分の体から生まれてくるものなんだよ、というところに本当は持ってゆきたいんです。それが自分ということの発見にもなるし。そういうことを、うちのメンバーも5年位やっているので、ようやくちょっとだけ分かるようになってきた。

 最後に言われていた「自分のことが分からないから踊るんだよ」というのは良い締めだなと思いました。

大谷 振り付けをしている時も同じですね。プロデュースでもそういうことはありますが、やっぱりダンスをやるところの醍醐味ってそこですよね。身体って抜き差しならないですからね。捨てるわけにはいかないし、いつもくっついているしね。そこを面白く、苦しく、楽しくやっていかないとね。

                                   (2006年5月3日 京都)

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