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世界に誇る地下鉄の技術


公営地下鉄が開通したのは昭和八年(一九三三)五月二十日、梅田〜心斎橋間の三・一キロだった。所要時間は五分三十秒。駅構内のタイル装飾、高天井にシャンデリア、エスカレーターまで備えた豪華設備が目を見張らせた。昭和十年(一九三五)には難波、十三年(一九三八)には天王寺まで延伸して、一日の乗客が九万人を超える。昭和十二年(一九三七)には、その上に大阪を代表するメインストリート御堂筋が完成した。
 昭和四十一年(一九六六)、万国博覧会関連事業として、御堂筋、谷町、四つ橋、中央、千日前、堺筋の六路線、六十四・二キロの地下鉄網建設が四十五年(一九七〇)の博覧会開催に照準を合わせて計画された。猛スピードで工事は進み、四十五年三月に予定どおり完了。四十五年度には一日の乗客数が約百九十万人になり、地下鉄は都市交通の主役になった。名称も当初の1号線、2号線から、四十四年には御堂筋線、谷町線などの愛称で呼ばれ、日常の交通手段として親しまれるようになる。
 地下鉄は一区間が短く、車両編成が長く、高速で走る。他の鉄道と比べて高度な技術が求められる。大阪の地下鉄は誕生期のころから最新の技術導入で、時代の先端を行く電車を開発してきたと辰巳さんは言う。
「世界的にも誇れるものです。例えば、安全運転のためのATS(自動列車停止装置)装備が義務づけられたのは昭和四十年代に入ってからですが、大阪では戦前から付いていたんです。電気式ではなく機械式ですが、非常ブレーキで赤信号の前で止まる装置を装備していた。現場の私たちはトレインストッパーと呼んでいましたよ。日本で最初に電気制御式の空気ブレーキを取り入れたのも大阪地下鉄です。昔は空気圧でブレーキを制御していましたが、長編成の車両だと伝わるのに多少時間かかる。電気なら伝達は瞬時です。大阪独特の技術だというのでOEC(大阪エレクトリックコントロール)と名前を付けました。いい技術をたくさん取り入れたり、車体を頑丈で安全なものにすると重くなりますが、電力消費やレールの傷みを考えて安全性を損なわない程度に軽量化も追求しました。騒音や座席など乗り心地の面からみても大阪の地下鉄は優秀ですよ」
 平成二年(一九九〇)の国際花と緑の博覧会に合わせて開通した長堀鶴見緑地線は、日本初のリニアモーターカー地下鉄として誕生。建設コストを軽減し、走行性にも優れているなど未来の地下鉄と呼ばれた。
 今年は市営交通百年。市電から地下鉄へ、走るランドマークは姿を変えながら都市の風物詩として愛されている。

地下鉄開通の初日、梅田駅には多くの人が詰めかけた。
ラッシュでごった返す心斎橋駅ホーム。
(上)昭和10年、梅田〜難波間開通のポスター。
(下)地下鉄開通の2年後、梅田本駅完成を告げるポスター。 
昭和四十五年の御堂筋線新大阪〜江坂間開通、北大阪急行と相互直通運転開始は、万国博のアクセスに大きな力を発揮。
京橋〜鶴見緑地間五・二キロの鶴見緑地線が開通。リニアモーターの採用で、トンネルも車両もコンパクト。

「大阪市電・地下鉄」ヒストリー ●=市電 ▼=地下鉄 ◆=ニュートラム

《明治》
 36年(1903)●9月12日 大阪市営電気鉄道開業(花園橋〜築港桟橋間)
 37年(1904)●7月7日 2階付き電車営業許可
 41年(1908)●8月1日 第2期線(南北線、東西線)開通、花電車を運転
 42年(1909)●12月21日 第3期線一部開通
 43年(1910)●6月17日 散水車使用開始 ●12月28日 第2期線完成

《大正》
 元年(1912) ●5月1日 堺筋線開通
  3年(1914)●6月1日 車内広告開始
  5年(1916)●3月27日 第3期線完成
  7年(1918)●4月25日 野田線(玉川町3〜野田阪神電車前間 最初の期外線)開通
 14年(1925)●9月1日 急行運転を開始(大正15年8月31日廃止)

《昭和》
  7年(1932)●7月26日 第4期線完成
  8年(1933)▼5月20日  大阪市営地下鉄開業(梅田(仮駅)〜心斎橋間)
 10年(1935)▼10月6日 御堂筋線梅田本駅完成 ▼10月30日 御堂筋線心斎橋〜難波間開通
 13年(1938)▼4月21日 御堂筋線難波〜天王寺間開通
 17年(1942)▼5月10日 四つ橋線大国町〜花園町間開通
 20年(1945)●3月13日 空襲による被災(車両119両焼失)
  ●6月1日 空襲による被災(各地の車庫、工場と車両174両焼失)
 25年(1950)▼6月17日 地下鉄、建設工事再開
 26年(1951)▼12月20日 御堂筋線天王寺〜昭和町間開通
 27年(1952)▼10月5日 御堂筋線昭和町〜西田辺間開通
 28年(1953)●9月12日 市電創業50周年
 31年(1956)▼6月1日 四つ橋線花園町〜岸里間開通
 32年(1957)●4月1日 市電最後の新線開通 森ノ宮緑橋線森ノ宮東之町〜緑橋間開通
 33年(1958)▼5月31日 四つ橋線岸里〜玉出間開通
 35年(1960)▼7月1日 御堂筋線西田辺〜我孫子間開通
  ●8月1日 港車庫前〜大阪港、大阪港〜三条通四間運転休止(市電全面廃止のさきがけ)
 36年(1961)▼12月11日 中央線大阪港〜弁天町間開通 
 39年(1964)▼9月24日 御堂筋線梅田〜新大阪間開通 
  ▼10月31日 中央線弁天町〜本町(仮駅)間開通
 40年(1965)▼10月1日 四つ橋線西梅田〜大国町間開通
 42年(1967)▼3月24日 谷町線東梅田〜谷町四間開通 
  ▼9月30日 中央線谷町四〜森ノ宮間開通
 43年(1968)▼7月29日 中央線森ノ宮〜深江橋間開通
  ▼12月17日 谷町線谷町四〜天王寺間開通(東梅田〜天王寺間全通)
 44年(1969)●4月1日 市電全廃
  ▼4月16日 千日前線野田阪神〜桜川間開通
  ▼7月25日 千日前線谷町九〜今里間開通
  ▼9月10日 千日前線今里〜新深江間開通
  ▼12月6日 中央線本町〜谷町四間開通(大阪港〜深江橋間全通)
        堺筋線天神橋筋六〜動物園前間開通
 45年(1970)▼2月24日 御堂筋線新大阪〜江坂間開通
  ▼3月11日 千日前線桜川〜谷町九間開通
              大阪市地下鉄網64.2キロとなる
  ▼8月26日 堺筋線60系車両ローレル賞受賞
 46年(1971)▼4月1日 御堂筋線全線CTC化完了
  ▼6月1日 四つ橋線玉出駅で初の自動改札実施 
 47年(1972)▼7月10日 第1次出札業務機械化実施
  ▼11月9日 四つ橋線玉出〜住之江公園間開通
 49年(1974)▼5月29日 谷町線東梅田〜都島間開通
 50年(1975)▼5月8日 車両に路線別ラインカラー表示
 52年(1977)▼4月6日 谷町線都島〜守口間開通
 54年(1979)▼6月20日 御堂筋線に冷房車導入
 55年(1980)▼10月 梅田駅に自動改札機導入
  ▼11月27日 谷町線天王寺〜八尾南間開通
               喜連瓜破駅に地下鉄初のエレベーター設置
 56年(1981)◆3月16日 ニュートラム開業(中ふ頭〜住之江公園間)
  ▼12月2日 千日前線新深江〜南 間開通
 58年(1983)▼2月8日 谷町線守口〜大日間開通 
  ▼5月20日 地下鉄開業50周年
 60年(1985)▼4月5日 中央線深江橋〜長田間開通
 62年(1987)▼3月15日 御堂筋線なんば駅新ホーム完成 
  ▼4月18日 御堂筋線あびこ〜なかもず間開通

《平成》
 元年(1989) ▼◆10月1日 地下鉄・ニュートラム回数券の磁気カード化
  ▼11月5日 御堂筋線梅田駅新ホームの完成
 2年(1990) ▼3月20日 鶴見緑地線京橋〜鶴見緑地間開通
  ▼8月24日 70系車両(リニアモーターカー)ローレル賞受賞
 4年(1992) ▼8月1日 地下鉄車内で英語放送の実施
 5年(1993) ▼3月4日 堺筋線動物園前〜天下茶屋間開通
 7年(1995) ▼7月1日 車両冷房100%達成
 8年(1996) ▼9月1日 御堂筋線オール10両編成化
        ▼12月11日 長堀鶴見緑地線心斎橋〜京橋間開通
 9年(1997) ▼8月29日 長堀鶴見緑地線大正〜心斎橋、鶴見緑地〜門真南間開通
         ▼12月18日 OTS線と相互直通運転開始
 11年(1999)▼12月21日 第8号線(井高野〜今里間)の建設工事着工
 13年(2001)▼7月1日 全駅(111駅)の冷暖房化完了
 15年(2003)▼5月20日 地下鉄開業70周年
         ●9月12日 市電創業100周年

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