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パフォーマー
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会場
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公演日
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スイッチが入った |
平加屋吉右ヱ門 |
天井からずらりと並べて吊られた糸は、AI・HALLの高い天井と小さな舞台から見れば広い空間を、小さな空間として区切り、この舞台が狭い旅館の一室で行われていることを示す。 炬燵、布団、文机と黒い電話、火鉢、謡曲、鼓の音。 太宰を題材にした次の映画の脚本を旅館に缶詰となって書いているのだが、映画監督には仕事を先に進める気配がない。映画監督は言を左右にし、若い脚本家兼助監督を翻弄する。やる気の無い映画監督がいい。話の主導権を握るために、朝鮮人や女性に対する差別的な話までも使う。脚本を進めたくない老監督と何とか期日通りに本を完成したい若い脚本家のやりとりが続く。 神野弥生が尋ねてくる。 この監督と太宰は女の姉をめぐって関係があったことがわかる。しかし姉は既に肺炎で亡くなっていた。 この3人の距離感が素晴らしい。監督と脚本家の間にいきなり初対面の女が入ってくる。監督はうろたえるが、女は物怖じしない。女が部屋に入って、太宰とこの監督が女の姉を取り合い、監督が手を引いたこと、しかし実のところその姉は、監督に思いをよせていたことが分かってくる。劇の前半で監督が脚本を進めなかったわけが、一つ一つ明らかにされていく。女が入ってきたことで、脚本家と監督が交わす会話の、初めに観たときに感じたこととは違う面、本当の側面がフラシュバックして見えてくる。監督はかつて自分から行動しなかったことへの後悔にさいなまれる。女の気持ちはわかっていたはずなのに。年老いた男は残り少なくなった自分の人生の中にあって女を思う。 「この恋や思いきるべきさくらんぼ」「花に嵐のたとえもあるがさよならだけが人生だ」監督は断腸の思いに涙する。 舞台の中央に、花びらが一片落ちてくる。
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