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終わらない終末の悪夢 西尾雅
まず不満はキャパ400の本多劇場で初日を開けた芝居が、大阪はなぜ1100の芸術ホールなのかってこと。近鉄劇場と小劇場の閉鎖がここにも影を落とす。見やすい小中劇場のないことが、旬の劇団の招聘や関西の劇団のステップアップの障害とならねばいいとあらためて憂う。

アサスパ主宰の長塚は現代を代表する物語作家。若手随一のストーリーテラーであり、同時に紡ぎ出す自らの物語を信じていないことで抜きん出る。絵空事と知りつつ物語ることをやめない宿業に憑かれた男と言い換えてもいい。終末を迎え死に瀕してもなお話し続ける稀有の存在なのだ。

かつて北村想は「寿歌」で核戦争後を描き、終末を自覚的に捉えて小劇場史に残るエポックメイキングをなす。時代が終末の予兆を孕むことに気づいた観客は、それを明るく受け入れる舞台にさらに驚く。鴻上は「天使は瞳を閉じて」で、終末後に残された人類を絶望の淵から引きあげようと試み、阪神大震災そしてオウム事件後に深津篤史は「うちやまつり」、岩崎正裕は「ここからは遠い国」で終末を見据え、希望を手探りする。手でさわれるほど近くに私たちは終末を経験した。けれど、長塚は終末を当然と受けとめ、もはや終わった世界から振り返るように今を剥ぎ取る。まるで現実が廃墟で演じる芝居であるかのように。

農薬不使用の理想も叶わず倒産したリンゴ農園。原因は農薬だけでなく、従業員の無能や味に渋さを求める社長の方針にあるよう。サボってばかり、元引きこもり、あるいは風邪で寝込むヘンな従業員を前に社長(中村)も妙に熱い。農薬のせいで片目を失明した妹・涼(志甫)を省みず、まだ農薬に固執する兄・蜜雄(松村)が押しかける。蜜雄の持ち込んだ農薬を実の弟が誤って飲み苦しむ。風邪ひきの従業員がその弟(池田鉄洋)、妹のことで兄と袂を分かち、反農薬派に泊り込んで働いていたのだ。

元引きこもり・望(中山)の弟・愛(伊達)が農園に帰って来るが、酒酔い運転するトラックは事務所に突っ込む。ヒッチハイクで乗せてもらった車には、とんでもない荷物が載せられている。放射性廃棄物らしいそれはサリンほどの毒性があり運転手(長塚)は車ごと海に闇投下する予定で報酬を手にしていた。借金まみれの農園を救おうとその金に目がくらんだ愛の車強奪が悲劇を招く。農薬どころではない毒にふれた望の顔や腕はたちまちただれる。

社長が目指す渋い味のリンゴとは。轢き逃げされた妻子を看取る際、病院で彼が口にしたリンゴ、その再現なのだ。話を聞いた望は感動のあまり引きこもりをやめ、農園を手伝う。そして、もうひとりの従業員(池田成志)こそ轢き逃げを告白しかねている犯人。愛の留守中、浮気した涼の相手(富岡)は鎌で刺されて血まみれ、毒が漏れ続ける農園は息絶え絶えの人間が転がる修羅場と化す。かまわず毒を呑み食らう社長にリンゴの味が甦る。アダムとイブも口にした禁断の味は、死の苦さそして得るやすらぎの甘さ。永遠の命と引き換えてこそわかる知恵の渋みなのだ。

登場するのは悪党ばかり。轢き逃げや強盗、不法投棄はむろんだが、毒性に目をつぶり農薬を使う農家や仕事怠慢、浮気も無実ではない。誰もが何かしら罪を犯す、それはソドムの昔と変わらない。それがアダムとイブの原罪を背負った末裔の証。神を目指し手に入れたはずの知恵。生命と引き換えたそれが人間を滅ぼす。核や細菌、毒ガスなど大量殺戮兵器あるいは公害や産廃、地球の温暖化となってみずから寿命を縮める。身につかぬ浅知恵とは良く言ったもの。

「はたらくおとこ」というタイトルにエデンの園を追われ、働かざるを得なくなった人類の不幸が象徴される。人が営々と働き築き上げた成果が、未だ戦争も飢えも病気もなくなる気配すらないこの世界なのだ。長塚はそれを当然と受け入れ物語を紡ぎ続ける。滅んでしまった過去を弔うかのように。


キーワード
■終末
DATA

同公演評
赦しの先にあるもの … 栂井理依

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