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関西演劇界胎動の新たな拠点 西尾雅
南河内万歳一座を中心に関西の劇団が結集した本公演をもって、いよいよウルトラマーケットの正式なお披露目となる。3月の万歳単独公演「二十世紀の退屈男」の仮オープン以降に加えられた改良に目を見張る。入口には夜目にも鮮やかな「um」のサイン看板。この日はあいにくの雨模様だが、入口表示がわかりやすくなったので受付も建物内に引っ込む。開場を待つ観客に屋内スペースが提供されたのも助かる。天井灯が増えて中も明るくなり、スプリンクラーの設置で消防法もクリアする。仮設から変身した堂々たる211人の劇場に観る側も思わず衿を正す。

前方数列は木箱ベンチシートに座布団の桟敷、後方は連結の椅子席で、中央通路以降は段差がありとても見やすい。正直、近鉄小劇場の固い木の椅子より座面に幅があり、座り心地も上。居心地良過ぎることが、ウルトラマーケット最大の欠点。静かなシーンで雨音やパトカーのサイレンが入口から漏れるが、OMSやウイングフィールドをしのぐ遮蔽性。天井の高さは本格的な劇場の資格十分。空調は不十分だが維新派など野外公演に比べれば雨露しのげるだけで天国(台風接近下の強風でテントが飛ばされたり、犬島では野生の虫に刺されて腕が腫れあがったり。自然との一体感もそれなりに楽しいが)。

居心地良過ぎることに不満も。その理由は1人1席確保の罪悪感、納まりの悪さ。消防法の前には万歳名物の「ヨイショ」(の掛け声に合わせて、観客同士が席を詰めること)が消滅するかと思えば哀しい。かつては靴を脱いで見知らぬ隣の人とくっついて観劇するはめに、よくなったもの。足の臭いなど少しの不満は逆に連帯感昂揚のスパイスともなる。それももう帰らぬ古き良き時代か。再演時のテント(91年3月)など、もっとわい雑な空間だったような気がする。カンテキで炙されるホルモン焼の煙で舞台も見えなくなり、焼肉の匂いが観客のお腹も鳴らせた記憶がある。

恐らくはそれもまた郷愁がもたらす甘美な幻想なのだ、開高健の世界を求めながらけっして出会えない青年の諦観と躊躇にも似た。青年は、内藤がテーマとした自分探しの旅の途中。それは関東出身の内藤が、関西の地で彷徨う姿に通じる。関西ネイティブでない異邦人が、演劇を通してアイデンティティの確立を図る。関西で活躍する演劇人の多くが、実は関西圏以外の出身という事実がそれを裏づける。福岡県出身のいのうえひでのり、愛知県出身の土田英生、三重県出身の岩崎正裕がそう。

主な配役    本公演             再演
フクスケ    山下平祐(Ugly duckling)    奇異保(第2空襲警報)
キム      木村基秀(南河内万歳一座)    古田新太(新感線)
キムの女房   ののあざみ(Ugly duckling)   田中容子
ラバ      宮腰健司            河野洋一郎
        (ランニングシアターダッシュ)  (南河内万歳一座)
トクヤマ    隈本晃俊(未来探偵社)      枯暮修(新感線)
トクヤマの女房 岡ひとみ(南河内万歳一座)    鴨鈴女(南河内万歳一座)
(役者名、所属劇団は当時)

再演は南河内万歳一座と新感線が中心だったことがよくわかる。91年3月といえば新感線は「髑髏城の七人」初演の千秋楽を2月に終えたばかり。本公演と時を同じくして厚生年金大ホールで「髑髏城の七人」が、同じ3演目を迎えるのも不思議なめぐり合わせ。内藤といのうえ2人の歩んだ道の違いが際立つ。この秋、東京は日生劇場と帝国劇場という商業演劇の頂点に進出する新感線、片や関西の劇団をまとめ、新たな劇場造りを目指す南河内万歳一座。公共や私企業(OMS、近鉄劇場など)、あるいは個人(ウイングフィールドなど)、劇団(俳優座、青年団など)やお寺が所有する劇場はあっても、公共の施設を借り複数の劇団で委託運営するのは画期的。劇場としてもともと機構が備わっていない弱点を持つが、そこを使う側のプロである劇団がどう工夫するかソフトが問われる。

大阪城ホールやOBPのある大阪城周辺こそかつて東洋最大の軍需工場だった陸軍砲兵工廠跡。空爆で灰塵と化した工場焼け跡に、戦後の混乱に乗じた盗難が頻発する。朝鮮戦争勃発で金属相場が上がったのにつけ込み、泥棒を再生事業と言いくるめる連中が夜な夜な出没。あまりの無法に当局も取締り強化を余儀なくされ、起死回生を狙う最後の強奪作戦も情報が漏れて賊は壊滅する。

神出鬼没で金属片を奪う彼らをアパッチと呼ぶ。これはアパッチに迷い込んだフクスケから見た世界。国有資産の強奪を、廃工場の後片付けと環境リサイクルにスリ替える彼らのたくましさに、私たちと同じ目線を持つフクスケは当初圧倒される。が、アパッチ内部の派閥や揉め事、前科や過去がしだいにわかってくる、彼らもまた同じ人間だと。内藤演出は、50人を超す役者それぞれに見せ場を用意し、アパッチの生活を生き生きと描き出す。ニュースにどよめく群集はエネルギーに満ち、アンサンブルの動きは波のように美しい。

開高の原作は平和憲法の下で再生を誓った日本がしだいに再軍備化し、その反対勢力が権力で圧せられる時代を重ねた。今回、内藤はそれを関西演劇の再生に読み換える。前田晃男や重定礼子など万歳主役陣がワキに回り、万歳からは高い身長で見栄えのする木村を抜擢、アグリーの山下とのの、ダッシュの宮腰とハンサム系を揃えて若返りを図る。組み合わせの新鮮さは関西演劇界の大きな新風。新劇場をスタートさせた各劇団の団結や交流は、今後想像もつかないほど大きな収穫をもたらすだろう。


キーワード
■野外
DATA

同公演評
日本三文オペラ … 松岡永子

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