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喪失 平加屋吉右ヱ門
 人は成長するにしたがって、大きく変わっていく。セミが殻を脱ぎ捨てるように、それまで大切に身に付けていたものを捨てていく。逆にそれを大切に抱きながら生きていく人もいる。また時としてサナギから蝶になれずに死んでしまうものもある。青年から大人になる時の苦しみ、残酷さがよく描かれている。
 レスリング部の三人を通して青春を三方、別々の面から立体的に演じられる。観客は人によって正面から、また別の人は側面から、またある人は上部から舞台を捕らえる。自分と同化できる方向からの観かたができる。そしてその形は丸とも四角とも、場合によっては三角にも見える。身を乗り出している人、眠っている人、ハンカチから手を離せないひと。それぞれの味わい方で楽しめる2時間が過ぎる。
 肉体を使って体全体から搾り出されるような表現が舞台に爽快に炸裂する。それは単なる激しい動きではなく、彼らが表現したいことがその動きから伝わってくる。言葉と同じレベルでメッセージが発せられる。
 髭の子チョビン氏の、犯罪を犯した後と、その前のレスリング部での演技の落差が素晴らしい。全く別人が座っているようだ。体から発散している空気の色までが違って見えた。肉体派で激しい動きを持ち味とするこの劇団の中で、ひときわ際立った効果が出ている。この劇団の可能性を示しているともいえる。それぞれのメンバーの個性が十分に出た演出になっている。全員にそれぞれの持ち味と出番があり、幅広い題材をこの劇団で取り上げることができる可能性を感じる。真正面から自分たちの芝居を観客へぶつけ、それを観客も受け止めている。


キーワード
■愛情 ■青春
DATA

同公演評
混迷を深める現代の愛 … 西尾雅

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