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混迷を深める現代の愛 西尾雅
マカロニウェスタンで飛び交う銃弾、あるいはカルトホラーで流されるおびただしい血しぶき。グロテスクなまでに過剰な悲惨は乾いた美学に転じる。その伝統を受け継ぐタランティーノは「キル・ビル」で、残酷な映像を現実にはあり得ない美しさに昇華しスタイリッシュに進化させた。CG技術が発達した映画にそれは似合うが、生身の人間が登場する舞台は単純であればあるほど逆に美しい。半裸の男たちがおのれの肉体をぶつけるレスリングを通し心重ねる青春像。懐かしいテーマは必然的に保守的なスタンスを取る。

L字型の客席を挟む三角形の舞台。背景はタイトル「愛卍情」と大書されたゴム状のスクリーン。ロープとバケツ、やかんなど最小限の小道具以外は素舞台に男の肉体が炸裂する。素舞台や高校レスリング部の三角関係それもホモセクシャルな愛憎はつかこうへいを想起させる。劇団はつか作品を経て、本作が初のオリジナル、今回東京進出にあたっての再演という。

つかが原点の劇団といえば新感線とMOPがすぐ浮かぶ。音楽や照明につからしさが残る新感線は、吉本の笑いやロックの影響も多大。MOPはウェルメイドの緻密なストーリーが身上。つかをDNAに持ちながら今は別の道を進む両劇団。ひと回り以上若い世代の鹿殺しのつかリスペクトは、あらためて演劇史に残したつかの影響の大きさを知らしめる。

冒頭は死刑執行され三途の川を渡る女の回想。インターハイを目指す高校レスリング部の青春と、その10年後に起こった猟奇殺人事件を追う刑事の捜査が交錯する。近視ながら連続優勝を狙う栄司は、ほぼ失明している事実を隠していた。栄司を慕う雅夫。2人と仲良しの幸。3人は友情で結ばれていたが、栄司と幸に男女の愛が芽生える。雅夫にすれば栄司への思いは愛、けれど栄司は雅夫に友情以上のものを感じない。同性愛をまじえた三角関係は、けれど泥々でも陰惨でもなく、純粋でひたむき。その真剣な思いが悲劇を呼ぶ。

いっぽう、同時進行する猟奇殺人事件。連続殺人の死体は目玉をくり抜かれている。目玉を握り締めていた犯人はすぐ捕まるが、黙秘に取調べは難航する。男優5人、女優1人の舞台、2つの時空は瞬時に切り替わる。幸と犯人の女性役を同一人物が演じるが、実際に同じ人物であること、そして取り調べの刑事が栄司であることがしだいにわかってくる。高校生で出会った頃、既に失明していた栄司は犯人を見ても幸とはわからなかったのだ。

早い時期に角膜移植すれば視力を取り戻せるが提供者が現れることは望み薄、自棄になった栄司は、高校最後の試合を放棄する。栄司に愛を受け入れてもらえない雅夫は自殺を選び、自分の角膜を栄司に託す。好きな栄司の目となって好きな幸を見つめていたいと。その行為は、けれど幸を傷つけ、結果的に幸と栄司は別れる。精神障害に陥った幸は10年後に連続猟奇殺人犯として栄司の前に現れ、死刑を宣告される。被害者の目玉をくり抜く幸の行為は、自分の目を角膜移植に提供するため自殺した雅夫のトラウマ。狂った彼女には死刑こそあるいは救い、自殺出来なかった彼女なりの償いかもしれない。

素舞台にパンツ一丁の男たちがすがすがしい。汗まみれの肉体を激しくぶつけるレスリングが少しもくどくない。南河内万歳一座もプロレス技を取り入れるがアマレスとプロレスの違い、集団アンサンブルで盛り上げる万歳はショーとして美しく、鹿殺しはいい意味で素人臭く荒削りなワザと削ぎ落とした肉体が新鮮。

挫折するスポーツ選手の愛情というテーマは、本家つかの「ロマンス」に近い。オリンピック候補の水泳選手に尽くす同僚のひたむきな青春。同性愛の偏見に立ち向かう苦渋の青春を北区つかこうへい劇団で観たが(98年8月)、古典的な熱さが立ち昇る暑苦しい世界だった。世代感覚の差か、鹿殺しには阪神ファンの過激な濃密より、Jリーグサポーターのスマートでクールな熱狂が近い。

時代が同性愛への差別を希薄にさせたことも理由だろう。ホモセクシュアルへの偏見も男女や人種同様の差別観に根ざす。差別なき今、誰もが同じスタートラインに立つことはできる。けれど、到着地点や目標はとうぜん違う。差別がないことで、逆に競争や選別はより厳しくなる。ひたむきであれば愛を勝ち得るとも限らない。手に入れた愛が長続きするとも限らない。純粋であるほど愛をめぐる現代の混迷はより深い。


キーワード
■恋愛 ■スポーツ
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同公演評
喪失 … 平加屋吉右ヱ門

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