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燃え尽きる愛欲の業 西尾雅
関西の演劇系ホームページ「キタで芝居を見る」04年上半期集計のベスト3位に「目下、検討中」がチャートインしたGiant Grammyが、独自のプロデュースを次々展開する劇場ジャングルの企画「極(きわみ)」に参加。劇場空間そのものを和室に変身させ、同一の装置で1か月連続9劇団が競う。会場に着くと町屋風の受付にまず驚く。通常ビルの横手が入口だが、正面から上がって靴はちゃんと棚にしまう。襖で仕切られた10畳3室の続き部屋の両端が廊下、廊下を渡り一番奥の部屋に入ると、畳と2段ひな壇の座布団席が用意されている。真中の部屋が舞台、客は両端どちらかの部屋から相対して中央を観ることとなる。

開演時刻になっても、奥と真中の部屋を仕切る襖は閉められたまま。中央で既に芝居は始まっているらしいのだが、明るいままの客席に声が聞こえるだけ。若い男2人の会話に性的なニュアンスが匂う。びしょびしょに濡れたとかこぼれるとかティッシュで拭くとか。襖が少しずつ開くと、客席と同じ広さの部屋で彼らがカキ氷を楽しんでいたとわかる。この導入は、舞台である民家に観客が実際にいるかのような錯覚を与えると同時に、男女の感性の差を暗示する。

日本海の小さな島、父の死で東京からUターン、実家を継ぐ拓郎(磯辺)は島の生活に慣れぬ新妻を気遣う。先ほどカキ氷を食べていたのは、妻の弟良介とその友人。海の家でバイト中、姉の家によく遊びに来るのだが、婚家になじめぬ姉を差し置いての自由な振る舞いがうらやましい。盆休みで島の祭に参加しようと拓郎の同級生がカップルで泊まる。婚約した勇樹(ティンティン)、杏子(永作)とも島に実家はあるが、彼女の両親に結婚を切り出しづらく、ついなじみの友人宅を頼る。

同級生の会話ははずみ、取り残された妻美香(川辺)は居心地悪さを感じる。結婚式以来の友人として杏子と浴衣を交換する仲の良さも見せるが、それは大人しい美香が譲っただけ。物静かなその性格を、仮面を被っていると杏子は実は嫌う。女同士の見えない火花に驚いた勇樹は、寡婦となった拓郎の母の頑なさに耐える美香に同情する。拓郎と恋愛中だった美香の笑顔が傍目にもまぶしかったこと、その頃の素直な自分を取り戻せとアドバイスする。けれど、他人に指南できる彼も自分のことはからっきしダメ、杏子の父親への結婚申込みは失敗してダメージを受ける。

今度島で結婚する三郎(ともさか)が美香を訪ねる。三郎の妻となる女は、既に不倫相手の子を妊娠しており、三郎は承知で結婚を引き受ける。帰って来るのは俺のところと三郎は彼女をかばうが不条理に悩んでもいる。それは夫に従い島に骨を埋める覚悟の美香の意地と等しく、孤独な2人はお互い通じるものを感じる。

祭の夜、島の風習で踊りながら家々を回る。昔から女性は面をかぶったまま。結婚相手を決めるのに面をつけて選んだなごりとか。いっそ昔の風習の方が良いと三郎は慨嘆する。くじ引きのように当たりハズレで決まる妻なら文句もないのにと。現実の恋愛や結婚も選び、選ばれ、選んでなお迷う愛欲に人は翻弄され続ける。

現状を受け入れるのにいっぱいいっぱいだった三郎の叫びもその渦に飲み込まれる。襖が取っ払われ、部屋に乱入する踊りの輪。あらかじめ客席にまぎれていた浴衣姿の踊り手も立ち上がって踊りに参加する。熱狂の中に火事の叫び声が上がる。火事は放火、犯人は三郎、婚約者ともども2人は焼死する。野外劇の屋台崩しに似た臨場感に息を呑む。理性で抑えつけようとする三郎の「本当は死にたいんです」というつぶやきがむなしい。夫に先立たれ、その生前のまま一切家を変えようとしない拓郎の母。それも愛する者を失った悲しみゆえの抵抗なのだ。

美香の弟とその友人の恋愛観の落差。モテる弟はナンパに精力的、ひと夏の恋と割り切るが、真面目な友人は反発、姉も弟の割り切りを疑問視する。恋愛観や結婚観は人それぞれ違う。男と女の間だけでなく、男同士や女同士でも違う。島と都会でもとうぜん異なる。美香は夫を信じ、従う道を選ぶ。彼のためではなく、そう信じる自身のために真剣に島の住人になろうとする。迷いつつ信じる彼女の強さがひときわ美しい。


キーワード
■恋愛 ■演劇フェスティバル
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