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昭和を懐古に終わらせず、過ちに学べ 西尾雅
秋の野外劇を恒例とする劇団犯罪友の会(以下、犯友)が珍しいホール公演。もちろんウイングフィールドという狭い空間での公演も数を重ねてはいる。中田彩葉の当たり役となったお糸シリーズ三部作のプロローグ「紅いカラス」(02年4月)もウイングフィールドだし、本年3月の若手・新人公演「白蓮の針」改訂再演も記憶に新しい。が、應典院という高さと広さのある劇場での犯友公演を私は初体験。劇場は全体が円形で、舞台の右翼と左翼が客席を大きく侵食する。つまり舞台は横幅の広い凹状で、客席は左右前方から囲まれた部分にあり、視野180度以上のプラネタリウム感覚で観客は芝居にどっぷり。

犯友には芝居小屋の匂いが漂うが、寺の本堂でもある應典院を戦後の花街に模様替えする度胸に感嘆する。それが犯友流の心意気。たとえ悪人であろうと人間味を感じさせる丁寧な描きように特長があり、泣かせる台詞と骨太な演技で、庶民の当たり前の情感をゆさぶる。野外劇特有のケレンと心のひだを映す肌理細やかさが犯友に同居している。

特殊効果で驚かすシーンが本作にもあるが、野外では騒音に途切れがちな台詞を劇場で堪能できる。野外で鍛えられた台詞術に目を見張る。いかなる条件であろうと観客に想いを届ける強靭さ。ダイナミズムと開放感あふれる野外も捨てがたいが、芝居気分に包まれる劇場もいい。どちらも甲乙つけがたく、犯友をめぐってまたひとつ悩ましい選択が増えたようだ。

舞台正面の料理屋では、春をひさぐ女たちが客待ち。インテリの主人(玉置稔)としっかり者の女将(羽田奈津美)2人はワケあり。町一番にテレビ購入する羽振り良さ(もっともアンテナ間に合わなくて映らず)だが、その電器店主は店のナンバーワンに入れあげて電器店は火の車。逆に若い学生に貢ぐ店の女(中田彩葉)もいて、色恋の駆け引きは男と女お互い様。英語得意で進駐軍相手の現代っ娘(山田山美舟)も紹介屋の斡旋で仲間入り。

上手は2階の女部屋、下手のラーメン屋台で料理屋を見張る客が粘る。元映画屋ながら示談屋に身を持ち崩した男(川本三吉)は、旧陸軍の満州での人体実験撮影フィルムでゆする腹づもり。料理屋主人は実験に加わった元医師、女将も満州の花町出身。2人は料理屋をまかされているが、影のオーナーは実験部隊の責任者にして元上司、今は売血で儲ける血液会社社長(デカルコ・マリー)。

社長の登場を待って直談判に及ぶ示談屋の脅しを社長は一蹴する。フィルムに収められた映像はやらせで証拠価値がない。実験データの貴重さを知るアメリカとの裏取引は済んでおり、戦犯容疑も免れる。米側との通訳に活躍したのが先の現代っ娘、実は社長が妾に産ませた娘で、不品行も父親を嫌うあまりとわかる。

電器店はついに倒産、店主は夜逃げ。夫をくわえ込んだ女を恨み、店に怒鳴り込んで来た妻は、立場逆転して借金返済に自分が身を売る羽目になる。いっぽう店の女が貢ぐ苦学生の正体は結婚詐欺師。仲間の女たちは騙されているのを承知で応援し、足抜けを助ける。痛みを自分で感じないと夢は覚めないと女たちは承知する。金を巻き上げられてようやく男の裏切りに気づく初心な女は茫然自失で料理屋に戻り、号泣する。

身体を売って稼いだ金すべてを失った彼女が代わりに手にしたもの。それは女の友情と男への不信。涙はすべてを浄化し、無一文にはなって女は生まれ変わる。「阿呆どもの舞台に引き出されたことが悲しくて泣く」とリア王が指摘したように、号泣する中田彩葉は赤ん坊のように無垢で美しい。

たくましい女たちと玉置稔演じるもろい男が対照的。人体実験に名を借り殺人まで犯した研究が無意味と知った彼は精神に異常をきたす。理系の彼は映らないテレビの構造を知ろうと分解を試みるが、彼の頭の回路が耐えられず先に爆発する。映らずじまいのテレビは、戦後日本の高度成長をひずみを象徴する。

男といえど、巨悪はびくともしない。開き直るデカルコ・マリーから放たれる悪の魅力がまぶしい。それは本作があくまでフィクションだから許せるだけ。モデルの血液銀行は製薬会社に発展し、やがて薬害エイズや薬害肝炎を引き起こす。被害者の救済は今も十分とはいえない。タイトル「のこり香」に色街の風情と戦後の空気がかけられているが、本作を昭和史の懐古に終わらせてはならない。人はのこり香に以前の気配を察するもの。過去の誤りを嗅ぎ分ける力が今の私たちに必要とされている。

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同公演評
残り香 … 松岡永子

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