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パフォーマー
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会場
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公演日
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古典とロックで2重のおもしろさ |
西尾雅 |
休憩を挟む4時間の長丁場が体感時間では驚くほど短い。まさにロックのビートがシェイクスピアに新たなエネルギーを注ぎ込み、一気呵成に楽しめる。クドカン得意の2重構造が、新感線ならではの笑いとカッコ良さのメリハリに驚くほどマッチング。「轟天VS港カヲル」を上演したほどのクドカンの新感線好きとすべて自分のカラーに染め上げるいのうえの演出力が幸福な出会いを果たす。物語は隣国との戦争に明け暮れる荒廃した未来(200年後の2206年)とバンドメンバー間の確執が深まる1980年代、2つの世界を行き来して進行する。バンドの残したたった1枚のアルバムを3人の老婆=魔女から聞かされた未来世界の将軍ランダムスター=マクベス(内野聖陽)は曲を予言と受け取り、内なる野望を自覚して王殺しを決意する。シェイクスピアの独白をミュージカルならではの心情吐露の歌に仕立てる、しかも全曲を作曲した岡崎司率いる生バンドのメタルサウンドで。思い切り意訳された歌詞は、けれど原作のエッセンス抽出に成功しており、背景のLEDスクリーン映像ともあいまってランダムスターや夫人(松たか子)の欲望と苦悩、失意を高音のシャウトで響かせる。Vocal:マクベス内野(内野聖陽)、Guitar:バンクォー橋本(橋本じゅん)、Bass:マクダフ北村(北村有起哉)とマクベスの登場人物を名乗り、一部ファンにカルトな人気を誇ったバンドはマネージャー・ローズ(松たか子)が加わったことでメンバー交代が促され人気は急ダウンして、内野1人が残されるまでに落ちぶれる。メジャーデビューを共に目指して来たはずの仲間を次々裏切るバンドの内紛はまるで女性週刊誌の記事を見るよう。王になりたいとか国と国が戦争するという大げさな話ではなく、メタルとパンクが争うとかファンに手を出したメンバーを解雇するという卑近なエピソードで古典を現代の私たちに引き寄せる。長髪がミュージシャンのシンボルだった時代のノスタルジーも見事コミックソングにされ(この場面はプロミュージシャンではなく役者による生演奏なのも楽しい)、リンスの使用法や髪型をまとめるスプレーの固さをめぐるけたたましい争いが戯画化される。小さな諍いと大きな戦争の根は同じ。夫人は王殺しに怯える夫ランダムスターを慰め「私たちは小さい。小さいのに大きなことをやろうとして失敗する」と嘆く。愚かで卑小な自分を認めながら、野望を抱き過ちを犯す。それが人の業であり、過去現在を問わない哀しい真実とわかる。昔の音楽(=魔女の予言)に夢中になり、錯乱し始めたランダムスターには自分がランダムスターなのかマクベスなのかもわからなくなる。並行する2つの物語は交錯しながら、ついに重なって同時にカタルシスを迎える。先王が前時代(つまり現代)の核兵器を封印するためにあえてその上に築いた城は、ランダムスターと共に大爆発を遂げる。現代の負の遺産が、未来のランダムスターを滅ぼすクドカン一流の強烈な皮肉。200年後のいったん滅びた日本が舞台というシュールな設定の毒がここでも効く。シェイクスピアの本質を伝えつつも、自由なアレンジで現代に通じるエンタメとして完成。古い皮袋に醸された新しい酒の美味さは、最新の醸造技術が生み出す幻の焼酎のよう。シェイクスピア×クドカン×いのうえという才能の結集に豪華出演者とスタッフが絶妙の共鳴を果たす。
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