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青春の挫折、夢と格闘した日々 西尾雅
初演から1年後の早い再演。準備期間が必要だろうから、初演時の好評(兵庫公演は07年7月、前売券は即完売)を受け、すぐに再演が決定したものと思われる。スタッフは変わらず、キャスト9人中6人が今回も顔を揃えることからカンパニーの本作に賭ける思いが伝わってくるようだ。

初演時は宝塚に男子部があったという事実に単純に驚き、そしてラストシーンの幻のショーの華やかさにばかり目を奪われたが、今回の再演で青春のほろ苦さや反戦の思いなど普遍的なテーマの重さにあらためて気づかされる。

第二次世界大戦に敗れてすぐ、ここは宝塚歌劇団稽古場(と寮の2ヵ所で話は進行する)。戦時中は人間魚雷・回天に携わり、からくも生き延びた上原(柳家花緑)は、死んだはずの命をいっそ夢の実現に賭けようと思い立つ。無謀にも女性ばかりの歌劇団に入団すべく創始者・小林一三に直訴状を書いたのだ。彼としても成算はなかったが意外なことに男女合同劇を計画中の小林の目に留まり、ここに男子部が発足することとなる。

成り行き上リーダーとなった上原の他に選ばれたのは、電気屋(舞台関係の仕事もこなしていた)の竹内(葛山信吾)、宝塚歌劇団オーケストラの楽団員を辞めた太田川(山内圭哉)、旅芸人一座に生まれ、女形も達者な長谷川(瀬川亮)、闇市のチンピラで母親が日本舞踊の師匠と後にわかる山田(猪野学)、そして素人の集まりを不安視した歌劇団が唯一招聘した現役のダンサー星野(吉野圭吾)。それから後に加入する山田の弟分の竹田(森本亮冶)。

歌劇団女生徒との接触は一切禁止という厳しい規則の下、彼らは稽古場と男子部の寮を往復し、大劇場の舞台に立つ日を夢見る。歌劇団上層部との窓口は劇団の経理担当の池田(山路和弘)、そして寮で日常生活の世話をするおばちゃん君原(初風諄)。

外部出演も許される特別待遇の星野への嫉妬、暴力的で誰ともなじまない山田との対立など最初はまとまらない一同も、しだいに打ち解ける。が、稽古に明け暮れる彼らに出演の依頼は一向にない。宝塚の女生徒やファンの間での男性アレルギーは根強く、その抵抗勢力が出演を阻んでいたのだ。ようやく出演出来たと思ったら馬の足役、そして舞台袖の陰からのコーラスといった有様。彼らの存在はパンフレットにも記載のない幻のままだ。

大劇場の舞台にちゃんと立ちたい。自分たち男子部とは何なのか。存在意義に悩む彼らは必死で池田に掛け合い、ようやく脚本の仮原稿を手にする。それはかつて演出家を志望したが己の才能の限界を知り、経理に転じた池田の尽力によるものだ。彼らは早速自主稽古を始めるが、女性の相手役がなく君原を引っ張り出す。そこで知ったのは彼女も元ジェンヌ、新築中の大劇場に立つ夢が完成直前の怪我で叶わなかった彼女自身の過去だった。

山田の兄は終戦前日に機体不良で特攻を免れ、そのショックで今も部屋に引きこもったまま。弟分の竹田は、行方不明で未だ戦地から帰国しない父を待つ孤児の身。太田川は結核で片肺となり楽団員を辞めざるを得なくなっても宝塚に未練を残す。誰もが挫折した過去を抱き、その逆境をバネに大劇場に立つ明日を夢見る。

太田川はついに倒れ、入院を余儀なくされるが、深夜に病院を抜け出す。必死に捜索する仲間。稽古場で彼を発見して一同は安心するが、そこに現れた池田が彼らに告げたのは男子部解散の最終決定だった。竹田の父の戦死の報も、今頃になって届く。血のにじむような声楽やダンスのレッスン、その成果が陽の目を見ることはもはやない。そして彼らの夢、大劇場の舞台に立つ悲願も。

努力は必ずしも報いられるわけではない。むしろ、ほとんどの人にとって手が届かないことの方が多いだろう。宝塚音楽学校は現在でも競争率は20倍と聞く。女性にとっても大劇場の舞台は遠い夢だ。いや、宝塚や舞台、芸術の世界だけではなくオリンピックやプロスポーツのあらゆる勝負の場、そして実社会でも頂点を目指す戦いは熾烈きわまりない。そこで夢が叶う人は、ほんのひと握りにすぎないのだ。

大事なことは、ついえた夢に賭けた日々がけっして無駄ではないと自覚すること。人生の一日一日、それを自分に刻まれた財産とすること。夢を目指せた自分がどれほど幸せだったか。亡くなった彼らの戦友や父。大きな犠牲で青春を失った兄。夢叶わなかった池田や君原の分までも背負って彼らは生き抜いたのだから。

彼らの夢、現実には果たされなかったレビューの幕が開く。芝居ならではの(観客サービスでもある)幻の公演が華やかでまぶしい。大階段の舞台に燕尾服そしてステッキ。羽根をしょったフィナーレ。それは幻だからこそ、いっそうはかなく美しく、そして限りない夢をたたえて、せつない。

(変更された初演→再演キャスト:三宅弘城→山内圭哉、佐藤重幸→瀬川亮、須賀貴匡→森本亮冶)

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