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匂いあふれる人生模様 西尾雅
太平洋戦争の敗北から復興しつつある昭和の日本に、先行き不透明な平成の現代を重ねる。阿倍野郊外のとある下町(終演後に天下茶屋のイメージと演出自ら明かす)のレトロな商店街をそっくり写し取った舞台美術に息を呑む。商店街を貫く通路が舞台中央から奥へ伸び、その左右に店先が揃う。遠近法の強調で奥行感もたっぷり、ひと目で視界に収まらぬワイドビューな街並が舞台一面に広がる。

舞台上手の魚屋では、店先で焼魚を売る傍らテーブルや小上がりで定食を食べさせる。下手の喫茶店はコーヒーより美人のママが売り物。その喫茶店の隣、八百屋を挟んだ次が商店街会長の営む婦人洋服店。

犯友らしく今回も下町で生きる人々の喜怒哀楽を、時代背景を映しながらていねいに描く。魚屋を切り盛りする若女将と義弟、閉山した炭鉱から流れて来た日雇い労働者の客、ハンサムな義弟に近づく界隈の見習い漫才師嬢、美人喫茶店ママをお気に入りの商店街会長、地上げ屋の手先となって乱暴を働くチンピラなど多彩な人物が周辺を彩る。

音信不通だった魚屋女将の夫がひょっこり帰って来る。長期不在の夫に代わって留守宅を守りぬいた妻は、とうに愛想を尽かし離婚話を持ち出すが、その妻を夫は弟との仲があやしいと疑う。終戦後も外地で暗躍を続けていた夫は、今回元上官と組んで地上げを企んでいる。むろん、その上に黒幕はいる。

かつて釜ケ崎と呼ばれた西成愛隣地区の暴動や地上げのための放火などスペクタクルな演出はいつもながらあっと言わせる。けれど迫真の臨場感よりも、庶民の怒りや秘めた愛情をしっとり描く繊細さが劇団本来の持ち味。予科練出の弟は戦犯の嫌疑を受けるが、かろうじて釈放、けれど処刑された仲間への負い目に悩む。魚屋女将は、家庭を顧みない破天荒な元夫への愛を捨てきれない。

地上げされかつての面影もない風景が、今日本のあちこちで見られる。街並が変わろうが、人の心から失われないものはあるはず。いや、私たちの失ってはならないものが、珠玉の台詞となって犯友の舞台には散りばめられている。

少し前の時代を感傷に終わらせず、現代への強い警告に変える。「ALWAYS 三丁目の夕日」に描かれた過去は美しいCG映像だったが、舞台ならではの生々しさが現実を呼び覚ます。店先であぶられ煙を出す魚や立ち込める干物の匂いが、映画を凌駕するライブの魅力だ。

人にもそれぞれの体臭があり、きれいごとだけで生きていけるわけでもない。犯罪や裏社会に手を染めることもあろう。けれども厳しい世の中で自分と他人を大切に、どれだけまっとうに世間の荒波とぶつかっていけるか。犯友を観ると、いつも自分の気持ちが試される気がする。

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同公演評
私はライト … 松岡永子

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