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パフォーマー
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会場
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公演日
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私はライト |
松岡永子 |
昭和三十年代半ばの公設市場。近くに大型商業施設ができ、すでに時代から取り残されかけている古びた商店街だ。かよは義弟の梅夫とともに魚屋兼(店先の焼き魚と飯を食べさせる)定食屋を切り盛りしている。舅は二年前になくなった。終日懸命に働いてもぎりぎりの暮らしだ。そこへかよの亭主、竜二が数年ぶりに帰ってくる。 白の上下に帽子。まがい物の舶来品を手土産にし、喫茶店では一万円札を出して「釣りはいらないよ」という。たちの悪い寅さんの風情。 自分は大きな仕事をしているのだ、蒋介石や毛沢東とも会ってきた、といういかにも香具師的な竜二の話を聞き流し、かよは離婚届を突きつける。一方梅夫は、兄さんは正義の味方なんだといって兄を受け容れる。 商店会長である洋品店主も、戦争中は大陸で大きな店を持っていた、と周囲に信じてもらえない話を口癖にしている。実は陸軍特務機関で阿片密売に関わっていた、という彼の過去を指摘した竜二は、商店街立ち退きへの協力を依頼する。 閉山になった三池炭坑などから労働者が流れ込んでいた隣町で、労働者と警官ややくざとの衝突が起こる。いわゆる第一次西成暴動。 その騒ぎで、商店街を立ち退かせ競艇の舟券売り場を作ろうという企ては立ち消えになる。竜二を訪ねてきていた昔の上官は、日本は落ち着いてしまってもう動かないからベトナムへ行こうと誘う。 略奪、強姦、暴行で、皇軍の通った後なら草も生えないが、この暴動は鎮静が早い。今の日本人は無意識に自己抑制しているのではないか、といまだに右翼を名のる元上官はいう。 当時の労働者には敵がはっきり見えていて、戦うべき相手は周囲の商店や民家などではないと無意識にしろ知っていたのかもしれない。 戦争中特務機関に所属していた竜二は、C級戦犯として裁かれるはずだった弟を裏工作で助け、そのかわり米軍との関係ができて今でもあやしげな仕事をつづけている。 自分ではなく友人がなぜ死刑になったのか、薄々察してはいた梅夫は、はっきりと事実を知ったショックで自殺を図る。 もはや戦後ではないと経済白書が書いたのは昭和三十一年。それから数年たって、けれどまだ戦争は「歴史」になってはいない。傷口がそこかしこに見えている。 結局家に居つけない竜二は左翼系の総会屋になるという。右も左も関係ない。主義主張ではなく、いかにうまく時流に乗るか、そこからどれだけ多くの利を吸い上げるか、それだけが問題だ。時代はかろがろしく変わっていく。 君子は豹変す、という。立派な人物はメタモルフォーゼも鮮やかだという意味。原義はともかく、時流にうまく乗って「いいめをみている」お金も地位もある人間を君子と認める世の中でなら(原因と結果は逆だが)この言葉は、正しい。 時流に乗って上手く立ち回るのだ、これまでもそうしてきた、と口にしながら、竜二はそんな自分を盲目的に肯定することができない。 離婚してどうするのかという問いに、何も変わらない、私は他に行くところもないし、とかよは答える。舅が病気になったときも「家族」を捨てるようなことはしなかった。いつも誠実で一生懸命で、少しも変わらない。 竜二は、変わらないものの価値をわかっているし、いとおしく思っている。けれど大切にはできない。それをかよもわかっている。 登場人物はそれぞれに「私はライト」だと主張する。 「右翼」だということに今でも誇りを持っている者。戦争中の犯罪行為を、仕方がなかったあの時は「正し」かった、という者。そして世間は「軽」やかに上手に世渡りすることを考えている。 かよは主張しない。灯台のように、変わらず一隅を照らしつづける彼女こそ「ライト」というにふさわしいが、そんな意識もないだろう。 かよを演じた中田彩葉はとてもいい。このところ女優陣の活躍がめざましいが、今回は男優が活躍する作品だった。登場から軽妙な演技で笑わせてくれる川本三吉など中堅、ベテラン勢の安定感については改めていうまでもない。 最年少(たぶん)男優、紫檀双六は顔に痣のある地回りの役。自分は不当に辛い思いをして生きてきたのだから世の中に復讐する権利がある、と思っている小悪党の典型。犯罪友の会はそんな小悪党を描くのが得意だ。 金城左岸にはそんな小悪党が似合わない。悪人を演じても人の良さがにじみ出てしまう。そんな彼には、自分だけ得をしたことを知らん顔で受け容れようとしながらできない、不器用で生真面目な梅夫はぴったりの役だった(もちろん当て書きだろうが)。 命を取り留めた梅夫は、新しいネクタイを締めて看病してくれた喫茶店のママとデートに出かけていく。若ければ傷の治りも早い。決して夢みたような理想の暮らしではないけれど、若い芽は必ず伸びようとする。若い恋人たちのほほえましい姿を見るあたたかな視線に、作家が劇団若手に寄せる期待が重なって見える。
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