log osaka web magazine index
WHAT'S CCC
PROFILE
HOW TO
INFORMATION
公演タイトル
パフォーマー
会場
スタッフ・キャスト情報
キーワード検索

条件追加
and or
全文検索
公演日



検索条件をリセット
ミルフィーユのような恋がしたくて 西尾雅
女優としても活躍する劇作家はたとえば樋口美友喜(Uglyduckling)や角ひろみ(芝居屋坂道ストア)など関西にも数多いが、ナカタは主役をこなし、それを現実の作者本人と錯覚させるほど「私小説」的な劇世界を作り上げる。大正まろん(=小栗一紅、流星倶楽部)も周辺に題材を取り現実感をにじますが、本作の作者・ナカタアカネと役者・なかた茜そして登場人物名・マリンの間に虚実の境は限りなく存在せず、あたかもノンフィクション再現ドラマを見ている気分にさせられる。むろんそれは計算された脚本と役者のなせるワザだが、極小空間の劇場もひと役買う。公称キャパ50人の狭さの中、目の前で演じられると普段の会話を覗き見している気になるもの。劇か現実か判然としない不思議なリアリティがそこに生まれる。

30歳のキャバクラ嬢マリン(ナカタ)と同棲する年下のカズヤ(斎藤)。熱々の2人の前に勤務先の元カレ・キャバクラ店長や支配人(他、岩橋)、新聞配達中を拉致されたマエダ(ともさか)が出没。ギャンブラーで甘えん坊のどうしようもないカズヤにマリンは惚れているが、見るからにモテそうもないマエダがマリンにひと目惚れしてしまう。マエダは、ど派手セクシー姉妹(ハルキチ、京)に恋愛相談するが軽くあしらわれる。マエダのモテなさぶりは、カズヤすらライバルと思えずアドバイスしてしまうほど。が、カズヤとマリンの仲にもやがて隙間風が吹き出す。

マエダとマリンの出会いから恋愛に至る経過は、同時にカズヤとの別れでもある。新たな恋は、ひとつの恋の終焉の上に成り立つ。何層にも重なる終わった恋の最上層にマリンという女は存在する。恋愛中毒者を自認するマリンは、いわばミルフィーユの複層を魅惑として、新たな獲物を捕らえる。解き放たれ終わった恋は層となって彼女を輝かせる。むろん、芝居はすべて真実ではないが、嘘のないナカタの告白と取れるリアリティを持つ。観客が感情移入する等身大の現実が投影されている。

姉妹カウンセラーは心療内科医を名乗り、ライフアドバイザーを自称するが、他人の相談に適確な返事を返せない。自分たちこそ実は元男性で、性転換の治療中とバレてしまう。誰もが悩みや相談をひとしく抱えている。今のカレでいいのか、妊娠してしまったのか、こどもが欲しいのか、芝居がしたいのか、マンガ家になりたかったのか、生活や結婚のために何かをあきらめた方がいいのか。結論の出ないそんな痛みや苦しみ、とまどい、嫉妬、おかしさが劇中にも満ちている。生きるとは、そんな悩みの積み重ねでしかないのかもしれない。それは、何層にも重なる古い恋の上にようやく咲く新しい恋にとても似ている。

キーワード
■恋愛
DATA

同公演評
美少年育成ゲーム … 松岡永子

TOP > CULTURE CRITIC CLIP > ミルフィーユのような恋がしたくて

Copyright (c) log All Rights Reserved.