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美少年育成ゲーム 松岡永子
なかた茜にはモテモテ女の役がよく似合う。絶世の美女...というわけではないのだが、キュートで可愛らしい魅力にあふれていて、作品世界のすべての人に愛されていて不思議ではない。というより、愛されている方が自然だ。
 基本的に、作・演出・主演を兼ねることを、わたしはよくないと思っている。まず、物理的作業量として不可能に近い。それに舞台にのせるまでに他者の目が入らないから、独りよがりになりがちで、出来・不出来の幅が大きくなりすぎる。
 しかしトランスパンダの場合、いつも、なかた茜は魅力的だ。登場人物の中で一番魅力的だといっていい。
そして、なかた茜はトランスパンダのとき、一番魅力的なんだろうと思う。
それはもちろん、自分にいい役を振って他を引き立て役にしているということでは全然ない。
 等身大の自分を描いている、というのが最も近い評価なのだろうが、等身大の自分を描いている作品など掃いて捨てるほどあるし、その多くは掃いて捨てるほどの面白さもない。単に、等身大という言葉では表せない。トランスパンダの魅力は何なのだろう。捨て身、という言葉で表されるような露悪趣味もなく、美化もしていない。どこにでも当たり前にありそうな、でも、めったに見られない愛らしさ。
 今回、物語構成がストレートな分、その魅力が素直に出ていたと思う。

 舞台上に転がる亀甲縛りの男の子。手足はなぜかガムテープ。口にもガムテープ。タオルで目隠し。
「なんだこれ?」とケンイチ(他一人)とショウジ(岩橋貞典)。
「あ、悪い、これ俺だわ」と、部屋に入ってきたカズヤ(斎藤裕樹)。
マリン(なかた茜)の課した罰ゲーム「コンビニ行って小ダサいジャージ君におねがいして拉致らせてもらう」の「おねがい」の部分を省略した結果。縄を解かれたマエダ(ともさかけん)は「おまえが元凶か」とマリンに詰め寄り...一目で恋に落ちる。
 マリンは公称25歳のキャバクラ嬢、実は30歳女子。芝居をやってて、キャバクラは資金稼ぎ。
 カズヤはマリンの彼。中途半端なギャンブラー。
 ケンイチとショウジはキャバクラの店長とマネージャー。マリンの元彼と元々彼。
4人は同居している。
 新聞配達をしている学生のマエダは、男子諸君になぶられ、時々部屋に現れる自称ライフスタイルアドバイザーの美女たち(♂)(京ララ、ハルキチハル)に恋愛カウンセリングを受けながら(というか、やっぱりいたぶられながら)、マリンに会うためせっせと部屋に通ってくる。

念のために言っておくが、同居していても元彼たちとの間に体の関係はない。元彼はもちろん、今彼との間にもお金の関係はない。誰も誰かを養ってはいない。家賃の代わりに食事当番を引き受ける約束で同居している。約束通り食事をつくる。彼らとの関係は恋愛なのだ。男子たちは皆、マリンが好き。マリンも。マリンはまさしく恋愛ジャンキーで、淋しくてしかたがない。淋しいと死んでしまうといわれるウサギみたいなものだろう。

 今の生活は心地良いが、仮の宿りだと皆知っている。やがて、漫画家の夢をあきらめたショウジは結婚し、ケンイチは転勤で家を出る。ぼんやりと元彼の好物料理をつくっているマリンを見て、自分だけでは足りないのだと悟ったカズヤも出ていく。
 恋をしていないと仕事も芝居もうまくいかない。不安で不安定で自分を支えられないマリンと正面から向き合おうとするマエダ(最初はダメダメ君だったマエダもこの頃には成長している)。
 マリンが望むのは「ギュッと抱きしめて頭を撫でて」(うーん、わかるよなあ、女の子なら(元女の子でも!)その気持ち)
「ずっとこうしていてあげるよ」

「ずっとこうしていてあげる」という言葉か本当なのだと信じられたら、ずっとこうしていてもらわなくてもいいのだ。
「淋しい、今すぐ会いに来て、と言われても仕事があれば行けない。だから彼女が離れていっても仕方がない」という台詞があったが、彼にとって自分が一番大切なかけがえのない存在だという安心があれば、女の子は、今すぐ、なんて言わなくていいのだ。
 食べ過ぎてしまうのはお腹がすいているからではない。過食症が空腹とはズレているように、恋愛ジャンキーも恋とは少しズレたところにいるのだろう。

 ラスト、自転車での日本縦断の旅にいるマエダを待っていられるマリンは、たぶん本当に恋をしている。

なかた茜以外の役者もいい。
 恋愛を通じて格好良くなっていくともさかけんが素敵。最初は、ジャージしか着たことがなく(つまり閉じこもりに近い)、友達がおらず、他人とどうつき合ったらいいのかわからない、自分しか見えていないコドモだったのが、他人を想い、他人を思いやり、「どうせ僕なんか、と言うのはやめようと思います」と真っ直ぐ顔を上げて言うまでに育っていく。(そういえば、美少女育成ゲームというのはよくあるが、美少年育成ゲームというのは見たことないな。わたしが知らないだけか?)
 ケンイチとショウジのけだるい会話。「今さらエヴァはないだろ。ワンピースだろ」「ゾロとサンジが、か?」「やおいはなー。やっぱロビンとナミで」...といったわかる人にはわかる(わからなくていいです、こんなの)いかにもオタクな会話の自然さに、この2人は風貌も嗜好も全然違う(それは、それぞれが主宰する劇団を見ればわかる)けど、マニア的という点ではよく似ているかも、と納得させてくれる。当て書きっぽい、うまい使い方だ。なんか可笑しい。
 ゲストも多彩。向田倫子(ババロワ#)、たなかひろこ(きんのさかな)、武田操美(鉛乃文檎)、山本麻貴、樋口美友喜(Ugly duckling)、阿部遼子。
わたしが見た回は、たなかひろこ。自己陶酔型の詩の朗読はさすが。
 一番若い斎藤裕樹がトシちゃんの「哀愁デイト」を歌って踊るのにも感心した。リアルタイムでは知らないよね?

 劇中に散りばめられる漫画ネタ、ゲームネタ、アイドルネタ...ちびまる子ちゃん世代には懐かしい。


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同公演評
ミルフィーユのような恋がしたくて … 西尾雅

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