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パフォーマー
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会場
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公演日
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凍りつく淋しさの影絵 |
西尾雅 |
登場人物すべてが何らかのストレスを抱える修羅場。突き抜けた明るさと諦念の笑いが同居する矛盾葛藤に人間の深淵が垣間見える。打てば響く会話応答の空回りと会話を拒否するように繰り返す早口のひとり言が対をなす。どちらもコミニュケーションを求めながら自閉する様が矛盾を裏書する。リズミカルな展開と豊富なギャグが逆に笑えぬ不幸を対照する。 今でも手一杯なのに更に連載を引き受ける無茶に走る少女漫画家先生(茨木)。一度人気を失くした彼女は、仕事の依頼がない恐怖に耐えられないのだ。アシスタント陣も負けず劣らず病的な心理状態を抱える。未だ処女で摂食異常を抱えていたり(東)、中絶を繰り返しながら男に依存したり(長沼)、元々先生と同期で絵も上手なのにアシスタントに甘んじアル中になったり(田之室)。家事を手伝う先生の実姉(中村)も妹より勉強が良く出来た過去を忘れられず、唯一妹に叶わぬ漫画でも妹を超えんと作風を剽窃して対抗する。担当編集者(金城)は仕事は出来るが、それにかまけて離婚、子育て失敗に苦慮中。元アシスタントの男性(浦本)は、自分の作品が売れたため喧嘩別れして独立、その後鳴かず飛ばずで困窮、中絶カノジョの内緒の恋人の立場にいらついて暴力を振るう。 いわば精神症一歩手前の群像劇。誰もが何らかの心理的弱さや欠陥を持つが、そこを強調して縮図を描く。平田オリザも人間関係の標本を提示するが、最終判断は観客に委ねる。鈴江の狙いは症候群の展示ではなく、初心忘れるべからずの処方箋にある。編集者が家庭を忘れてまで惚れ込む先生の漫画には読者を救う何かがあり、それを中継する使命が彼女を支える。先生の漫画の原点には子供の頃イジメられっ子だった久保君がいる。姉に比べ出来は良くなかった彼女がそこに重なる。久保君に何も出来なかった思いを漫画に込める。アシスタントたちもまた思い出す、絵が描ける単純な歓びに満ちたかつての日々を。その初心に立ち戻るのだと。 同棲カップルが忙しさにかまけ死なせたペットの猫。失った悲しみの腹いせにカノジョに暴力振るうカレの八つ当たり。思いをストレートに表現出来ない人の不幸がそこにある。それは猫もまた同じ。恋を求め遠吠えする猫たちと孤独を叫ぶ人間の何と似ていることか。淋しさを訴える影絵が寒空に凍りついている。
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