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もっと「現在」を感じさせてほしい 松岡永子
 蟷螂さんの藤澤清造への思い入れはよくわかる。チラシを見ても当日パンフレットを見ても。
作家の意図を汲み取って丁寧に読み込み、まっすぐ誠実に、実に丁寧に作っている。くどいくらい。

 全体のオープニングシーン。包丁が落ちてきて、座敷の隅に突き刺さる。ドキッとさせる。
文字通り切「刃」(せっぱ)詰まった人々を見せるため、とするとちょっとベタだがわたしは好き。
 そしてオムニバス各話のオープニングとして、古めの唄を一曲。
二つ重なると、うるさい。全体に言えることだが、言いたいことをすみずみまで述べようとしすぎる。

 二話めの「嘘」が面白かった。
 小説家の男。俺はもてるぞ、それにひきかえお前は…と言う友人への対抗に、友人の妻との関係をほのめかす。本気にした友人は妻を殴り、その妻に詰問された男は、そんなことは(はっきりとは)言っていない、とはぐらかし、かえって、暴力に追いつめられて嘘を吐いた彼女を責める。
あらゆる場面で断定を避け、自己保身のみを図る男の小狡さ・なさけなさに「文弱の徒」たる作家の自嘲がうかがえる。

 当日パンフレットに、身を売る境遇の女の気持ちを思い、本当に理解できたとは思えず途方に暮れることから始めた旨、書いてあった。それはとても誠実な態度だとは思うが。
 この作品に登場する女はみんな書き割り。藤澤清造は、女だって人間だ、と考えてはいるが感じていない。別に大正時代の男の小説家にそんなこと期待もしないけど。
 作家の「観念」から彼女たちが立ち上がりそうに見えるのは、彼女たちに対している男が、引く、ところを見せるときだ。
三話め「恥」の蟷螂さんの演技が最もはっきりそう見える。亭主関白風の夫が、妻と向かい合って、一瞬引く。そのとき、落語や時代劇でお馴染みの、口うるさいけど世話好きで人のいい「おかみさんの典型」があらわれる。
 男の態度によって「女」が立ち上がるのは、「女」が男の目に映った影だからだ。作家の意図に沿った演出でこれ以上の存在を作り上げるのは無理だろう。丁寧に作って、立ち上がりそうに見えるところまでもってきたことで、良しとしなければならないのだろうか。

 時代は変わって、人々の生活も変わったけれど、世の中の荒れた状況は昔と地続きだ。この冬も路上生活者が何人か死ぬんだろう。そんなこと、いちいち新聞に載ることもない。「淫売」がいなくなったわけでもないし、それにたかっている者は今もたくさんいる。ただ、その多くの部分を外国人に負わせるようになって、自分は関係ないという顔をする人が多くなっただけだ。
 そんなことは蟷螂さんだってわかっているだろうに(パンフレットにも書いてあった)、「今」への目配りが希薄に感じられるのはなぜだろう。誰に対してもこんな注文をつけるわけではない。ただ、蟷螂襲ならもっと現代への強いアプローチが可能なのではないかと思うのだ。

 七時半開演で二時間半の公演というのは、ちょっと…。創造館は遠い。

キーワード
■クラシック・ルネサンス
DATA

同公演評
嫉妬に狂う男とたくましい女 … 西尾雅

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