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古典芸能を学ぼう
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+ 源甲斐智栄子

端唄って?

—ここで地歌のことについて少しお教え頂きたいのですが…。
 (大阪人になろうの)チラシ校正の時に、上方端唄(上方端歌)と端歌、私はこれをまとめて一つのジャンルと勘違いしていた訳ですが…

「三味線の地歌っていうのに、そういう分類わけが有るんですよ。まず、地歌の中に、 組歌、作物(さくもの)、長歌、端歌とかがあります。で、今、地方で演奏させてもらう舞は端歌物が殆どなんです。偶に作物の中から何とか、浄瑠璃の中から何とかいうのがあって、三味線の中の地歌の中の端歌物が一番多いんですよ。

—それが「雪」とかですね。

「そうそう。皆さんが“知ってるな”っていうのはソレなんですよ。
で、ややこしいのが、小唄とか歌沢とかそういうのも端唄とかって言うんですよ。上方端唄とか江戸端唄とかいう。芝居(歌舞伎)に出て来るのとかもその端唄だし」

—今度、吉村古ゆうさんに踊って頂く「いざや」なんかは芝居に出て来る端唄ですね。

「そう。皆、端唄というからややこしいんですよね。だからこっちの方の端唄というのは、端唄というジャンルというより、そういう“曲”という感じの思い方の方があってるのではないかな?と思うんですよ。
 やってない方からすると、同じ漢字を書いて、同じ読み方をするので、これも端唄、これも端唄となってる訳でしょ。だから知ってるものだけが判るっていう感じなんですよね」

—じゃあ、“渡辺の綱”とかは曲の端唄なんですね。

「そう、イメージは分るでしょう」

—ええ。ちょっと鼻歌でホホンと歌うのが曲の端唄なんですね。

「大衆的というか」

—「十日戎」も。

「そう。短いものは大抵そうです。
 長歌も長いからいうのでなくて、短い俳句みたいなのを一杯アトランダムに組曲みたいに、一個の長いものにしたから長歌なんですよ。組歌を見ればよく解ると思いますよ。関係ないのが何個もあるみたいな」

—それは、それが楽しいからそうしはったんですか?(笑)

「うーん。それが元なのでね(笑)。三味線が初めて日本に入って来て、目の不自由な法師さんがやってみはったという…原始的といえばそれまでですが、一番最初やったから、そうなんだと思いますけれど。
 それが成長して洗練されて、だから地歌の長歌に対して、地歌の端歌“雪”とか“黒髪”とか…。完成されてますでしょ?」

—鉄輪(かなわ)とか…

「そうそう。ちゃんと内容もあって、メロディも美しく、っていう、完成されているのが、その地歌の端歌なんですよ。
 長唄とかだと何丁何枚とかありますけど、地歌は1人ですから三味線の糸が切れたらアウトですからね。」

プロを育てたい

—と、話が脱線ばっかりしてすみません。
 ところで、って本題ですけど、澤先生は現在お教室はお持ちじゃないんですか?

「持ってないんですよ」

—お持ちにはならないんですか?

「教室で教えていた時期もあったのですが、今はプロになりたいような人だけを教えています」

—しかし、そんなに簡単にプロにはなれませんでしょ?

「だから、プロになりたい人を応援したいと思って…」

—先生の所にお稽古いらっしゃる方は、始めに歌を習うのですか?

「それは色々です。人によって教えて貰いたいものが違うのでそれにあわせて教えます」

—あの妙な間の伸ばし具合とか、もの凄く難しそうですよね。

「(笑)妙ではないんですけどね」

—(笑)あの、うーと伸ばした後、いつ次の言葉言うのん?みたいな、メトロノームがあってリズム取る訳ではないですし…あの間は、アーティストの方の感性で伸ばす音なんですか?

「あのきっちりと五線譜で表現されない間がいいんやと思いますね。
 教える時はその基礎はちゃんと入ってないと駄目なんですよ。
 それが出来るようになった者が、その範囲の中で自分の感性で表現する。
 楷書が書けないと草書が書けないみたいなね」

—でも、そこはある意味、古典の醍醐味ですよね。私はその昔、初めて歌舞伎を見た時、花道でおこついて(つまづいて)、ふったらふったらしてはるのを見て、何してはんねやろ?いつ引っ込むの?(笑)と思った記憶があります。
 今となっては、その「うー」とした間の時間こそが、一番とも言える楽しい時なんですよねえ。もう気持ちは「たっぷりと」ですが、初めて見た時は、それが楽しみになろうとは思いもよらなかったですけどねえ(笑)
 先生は、三味線とお琴と胡弓とか、もちろん全部教えはるんですよね?

「はい。三味線とお琴と胡弓と十七弦(じゅうしちげん)と唄と…色んなものを教えます」

—すみません先生。十七弦がよく分らないのですが…

「お琴は十三弦でしょ?」

—はい。

「あれが17本になっていて大きいんです。低音のベースみたいなの。
 これは宮城道雄さんという方が考案したもので、高校生からしてましたけど」

—今、澤先生の所にお稽古にいらっしゃっている方は、皆さん元々どこかでそれなりに経験されていたことのある方なんですか?

「殆どそう。2、3年前に1人だけ学校の先生で、私のHPを見て、“今後学校の授業に邦楽があるので”というメールを下さった方がいて、それでお目にかかったんですね。そうした方は初めてですね。
 後は大抵、演奏会で私の演奏をご覧になって楽屋に訪ねて来られてですね。

—楽屋に訪ねて行くだけでも、それは凄く勇気のいることですよね?

「そうですよね〜。でも、それ位の人でないとね。
 って、なんか全然役に立ちませんよねえ(笑)〜」

わらべ歌、上方端唄を口ずさみたい

—そう、大勢の人に広めたいと言いながら「簡単には来るなよ」という方向に展開してる(笑)?

「いや、広まって欲しいんですよ。でも、教えることって結構大変じゃないですか?片手間では出来ない…だからそういう人に自分の所に来て欲しいと思っているだけでね(笑)。
  地歌は“辛気臭いな”とか、ちょっと思われてたとしても一度は聞いて頂きたいですしね」

—私は正直な話、これも遠い昔、邦楽を初めて聞いた時「なんじゃこりゃ?」と思ったんですね。
それだけ異質というか、環境的に少ない音楽だったんです。
 ところが、今はすっかり好きになって、家でテレビ放送のあった歌舞伎舞踊のビデオなんか見ていると、姪が3歳位の時でしたか、テレビの前でそれを真似して踊っていたんですね。子供の頃から親しめば洋楽も邦楽もないんやな、と思いました。

「とりあえず日本人なんだから、知らないより知った方がいいじゃないですか?そして良い芸術ってそうすぐ解るものでもないでしょ?回数を重ねていくうちに解ることって多いじゃないですか?ある程度勉強しないと本当のものが見えないっていうか…」

—そうですよね。一回も聞かれたことのない方は、特に関西人なら、絶対一度は聞いて頂きたいですよね。今度のワークショップで取り上げさせて頂く「十日戎」なんかは鼻歌で歌えるようになりたいですよ。

「そうそう、“奴さん”にしても“浪花の四季”にしてもフッと出れば素敵なのにねえ。沖縄の人なんか蛇皮線(サンシン)されている方、多いやないですか?この頃は学校で邦楽を取り上げるようになりましたでしょ?あれはとても良いことだと思うんですよ」

—海外の方とかが、家族揃って、その地に伝わる楽器とかを演奏して楽しんではったりとかするのをテレビとかで見ると凄くいいな〜と思うんですね。多分、日本も、昔は盆踊りとかがそういうのだったと思うのですが、大阪って特にそういう芸能がしっかりあった町なのに残念やなあ〜と思うんですよねえ。

「この頃、子供達はわらべ歌も知らないんですよ。とうりゃんせ、かごめかごめ、さくらさくら、…私は以前にCDでそれを入れたんですけど、どっかで演奏する時に子供達と一緒に歌おうと思って聞いても子供達はそれを知らない。

—えっー?

「学校では教えてないんですって。うさぎうさぎ、とか、蛍こい、とか、おじいちゃんとかおばあちゃんが聞かせて知ってる子は何人かはいるんだけれど…。私は知らないっていうことを知らなかったんですよ(笑)。わらべ歌は歌詞も綺麗で良い歌なのにねえ。

—それ、ショックですねえ。わらべ歌がそうなんですか?
 大阪で使う音楽の教科書とかには、上方端歌の一曲や二曲、入っててもおかしくないと思うんですけどねえ。

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