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これまでやってきた役のなかで、思い出深いのは?
「いろいろやってきましたが、やっぱり“足”ですね」
え! 足遣いですか?
「親父の足や師匠の足遣いをやっていたのが一番、記憶に残っている。左(遣い)も重要なんだけれど、足の表現力によって違ってくるんですよ。著しく! 文楽人形が3人遣いになっている理由も、やっぱり“足”を遣うためなんですね」
そういえば、文楽では手摺の上が地面という設定だけど、実際は空中に浮かんでいるんですものね。
「外国でもよく質問されるのですが、足の修業の中にいろんなことが詰まっているってことを説明するのは難しい」
足遣いがかわいそうと?
「不公平だと言われたりしますね。なかなか分かってもらえない時もありますが。フランスのシャルルビル・メジェールという町に国際人形劇連盟の本部があるんですよ。僕も会員ですが、そこの研究所には世界中から人が集まってきて、様々な人形劇を学ぶんです。人形の扱いだけでなく、演出から経営まで学ぶんです。セサミストリートのジム・ヘンソンさんも講師に来られたり。僕も2回ほど教えに行きました」
外国の人にはミステリアスな人形の遣い方かも。
「3週間ほどしかないので、遣い方を教えるのは無理なんです。だから、いかに基本が大事かという話をして、足の遣い方を教えるんです。『3人遣いの形だけを真似しても、いいものは出来ないですよ』ということを伝える。中には、とても上手な人もいますよ。人形遣いだけでなく、ダンサーや役者、演出家などいろんな人が来ていて、寮生活をしているんですよ。お国自慢の料理を作ってくれたりして、楽しかったですね」
すご〜い。人形劇というより、舞台芸術のひとつとして認められているんですね。文楽は世界と直結していけますね。
「面白い芸能やね。これをどこまで形を変えずに受け継いでいくかが問題」
難しいですね。江戸時代とは生活様式も変わってきたし。
「まあ、今の入門している若い人達までは大丈夫だとは思うんですよ。まだ師匠たちを見ていますから。その後ですね、今世紀中頃からはどうなるか」 |
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文楽は江戸時代に作られたお話ばかりと思われがちですが、近代に入ってからも、新作も作られているんですよね。
「『壷坂霊験記』は明治になってから、近松門左衛門の作でも『曽根崎心中』や『女殺油地獄』は、戦後に三味線の曲をつけて復活させたものです」
有吉佐和子の『雪狐々姿湖』は、よかったです。お話も分かりやすいし、セットもきれい。文楽らしい悲劇で。
「あれは歌舞伎でもやりましたね。昭和40年代には、NHKでいろんな小説家の方々に原作を書いていただき、それを舞台化して、放送していたんです。有吉佐和子、水上勉、瀬戸内晴海、井上ひさし…」
ええ! すごいメンバーですね。再演しないのですか?
「ほとんど一回きりですね。井上ひさしの『金 親父』は再演したかな。けちな親父の話でね、面白かったですよ。もったいないでしょう。NHKがもう一度、再放送をしてくれないかと思うのですが」
『ひょっこりひょうたん島』だけでなく、ぜひお願いしたいです。勘十郎さんも、ご自身で本(台本)を書いていらっしゃるそうですが?
「子供向けを3本、大人向けを1本書きました。一番、出番の多いのが子供向けの『ひょうたん池の大ナマズ』。これは娘が幼稚園に通っている時に作ったものなんです」
子供に大ウケしそう。大人向けでは?
「『端模様夢路門松(つめもようゆめじのかどまつ)』というんです。古典の名作『染模様妹背門松(そめもよういもせのかどまつ)』をちょっともじって。鶴澤清介作曲、初演が豊竹嶋大夫ですよ。もう頼み込んで作ってもらいました。主役は、一人遣いの“つめ人形”の門松なんです。門松は、3人遣いの人形になりたいんだけれど……というお話。国立劇場でも一度やらせてもらいました」
『オモチャの兵隊』や『トイ・ストーリー』のように人形が自我を持って動くんですね。面白そう! 見てみたいです。
「キツネが満開の桜に化ける『桜物語』というのも作りましたよ。桜が咲いて、散って、また咲いて、キツネだとばれて、再び満開に…という仕掛けが大変すぎてなかなか上演できないんですが」
その仕掛けも考えられたんですか! さすが模型少年。文楽の面白さのひとつに、仕掛けがありますよね。すごくシンプルで、仕組みは分かっていても、何度見ても驚いてしまう。『祇園祭礼信仰記』で、此下東吉が桜の木に登っていくと、大きな金閣寺のセットがどんどん下がっていく仕掛けにはびっくりしました。
「あれも、初演の時(宝暦7年、1757)からの仕掛けなんですよ。昔は人力でやっていたんでしょうね」
ええ!! 今のイリュージョンですね。
「そう。まだまだ昔の道具の仕掛けや工夫で面白いものがいっぱいあるんですよ。近年は安全を考えて使わなくなったものや、資料が残っていないものもある。なんとか復活させたいんですが。同時に、現代だからできる面白いものものある。今も、弟弟子らにアイデアを出してもらって決めているのですが、みんな面白いアイデアを出してくれますよ。現在の技術を使えば、宙づりなんかすごいことができますよ。人形だからこそ、出来ることがあると思うんです」
私たちも見てみたいし、若いファンも増えるかも。
「その一方で古典は古典でくずれないように、しっかり守っていくべきだと思っています。文楽の本当の力は、古典の中にありますから」
私たちも文楽を何度か見るようになって、古典がどんどん面白くなってきました。また、年をとることでいろんな登場人物の気持ちも分かるようになってきたように思います。だから、新作と古典の両方をたくさん楽しみたいです。欲張りですが。 |
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