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菊生「あ、これ、デジカメっていうの?」

はい♪さようでございます

菊生「サラリーマン川柳であったぞ。‘デジカメの、エサはなんだと親が問い’っていうの」

あははははは(爆笑)

菊生「(笑)僕もこういうの(=デジカメ)買いたいと思うんだけど、きっと操作することが出来ないと思うんだよね」

あら、せんせ、やってみはったらは?って、あっ!せんせ!手酌で!

菊生「ん?(笑)」

んもう、加減考えてるのに〜(笑)。お酒といえば、せんせ、米朝師匠といろいろご縁がおありになるそうで。そういえば、米朝さんのお弟子さんの吉朝さんっていう人がね、菊生せんせの『鞍馬天狗』を見てくれはって、‘いやぁ、よかった!ええもん見せてもうた。あの粟谷菊生さんていう人噺家で言うと、志ん生さんみたいな人やと思うんやけど’ (※ people vol.30「桂吉朝×味方玄」)って言うてはりましたよ

菊生「そう?志ん生さんだって?そりゃ嬉しいねえ。アタシね、米朝師匠と一緒に宮中に伺ったのね」

人間国宝に指定された時ですね?

菊生「そいでね、そん時にね、アナタ、これ半紙だと思いなさい」(と、おしぼりを細長く巻く)

な、なんです?それ

菊生「半紙がここへ捻って置いてあんのね。アタシの向かいが芝翫(=中村芝翫/なかむら・しかん/歌舞伎俳優)さんでね。そいで、サクランボが出たのね」

サクランボ♪

菊生「招(よ)ばれたんだからぁ、食べなきゃわるいでしょ?」

はい(笑)

菊生「みんな緊張してんの。アタシ、“勇敢なる水兵”でね、すぐパカパカパカパカ食べたの!で、しばらくしたら、今度は、皇后陛下がお召しあがりになったの!そしたら、この半紙をこう立ててね、こん中へプッとタネを」

え?!あ!そういうもんなんや!へぇ〜っ!

菊生「そういうもんだ!と思って、もう、アタシゃ慌ててね!!」

わははははは(爆笑)!

菊生「取って半紙に入れたのよ!だけど、タネは入るけど、柄(え)がなかなか入らないの!」

ぎゃははははは(爆笑)!

菊生「そしたらね、アタシの隣に女房がいたの、で、皇后陛下がね、ウチの女房にね、‘おたいへんでしょうね’って(笑)」

うひゃひゃひゃひゃ(爆笑)!ほ、ほんまですかそれ〜(笑)

菊生「(皇后陛下にも)わかるんだよ(笑)」

やだ〜(笑)

菊生「だって、わかんないじゃない、こんな半紙なんか、お品書きかと思って開いちゃった」

なははははは(爆笑)!そらわかんないですよねぇ(笑)!そんな半紙の使い方なんて!いいこと聞いた!

菊生「(宮中の)控え室で米朝さんと一緒になってね、米朝さんが‘粟谷さん、煙草吸いまへんか’って言うのね。‘俺ぁ最近やめてんだよ’って言ったらね、‘こんな所で煙草吸ってもよろしかな’って言うから、見たら、灰皿があって、煙草が置いてあんじゃないの」

あ、菊の御紋の!

菊生「だからね、そんなんだったらね、‘じゃ、アタシも一緒に吸ってあげましょう’っつったの」

あれ?(笑)あれれ?

菊生「そういうとこはまた‘勇敢なる水兵’だからさ(笑)」

せんせも吸わはったんや(笑)

菊生「隣に米朝さんの奥さんがいらしたの。でね、米朝さんの耳元で‘奥さん、よう肥えてはりまんね’って言ったの」

まっ!そんなこと言わはったんですかっ

菊生「小さい声でささやいたんだけどね、聞こえちゃったのよ」

わちゃ〜

菊生「そしたら、奥さんがね、‘米朝のにょぉぼどすっ、朝から米食うてますもん!’って(笑)」

あははははは(爆笑&拍手)!さすがは米朝師匠のおかみさんや〜!

菊生「そんなことがある前に、アタシが大阪で飲んでたらね、偶然、米朝さんと一緒になってね。米朝さんはスタッフの女の人たちといらしててね。米朝さんが僕のことを‘あのおっさんの飲みっぷり、ええがな’かなんか言って。そのうちに、ママがアタシのこと‘お能の先生だ’って紹介したの。そしたら、‘それは失礼しました’って、‘自分も学生の頃に、六平太(喜多六平太/きた・ろっぺいた/シテ方喜多流14世宗家)先生の『湯谷(ゆや)』を宝生新(ほうしょう・しん/ワキ方宝生流)さんのワキで拝見しました’っていう話になったわけよ」

その時、米朝さんは、せんせが<粟谷菊生>だっていうことをご存知なかったんですよね

菊生「うん。米朝さんが‘あのおっさんの飲みっぷりええがな’って言って、はじめて言葉を交したの」

なんか、素敵な話だなぁ

菊生「そしたら、一緒に人間国宝になったじゃない」

ほんと、偶然ですものね

菊生「それからね、文通もあるんだけど…年賀状がね…」

年賀状がどないかしはったんですか?

菊生「さびしいことが書いてあったの…‘もう1,000人以上入る大きなところでは独演会はしません’って」

去年で歌舞伎座の独演会を最後にしはったから…

菊生「だけどね、1,000人以上入るようなところで落語なんかやっちゃいけないんだよ。文楽でもね、せいぜい400ですよ。ね?落語はね、200までですよ。そういうところで演んなきゃ。それをね、1,000人も入るようなとこでやったら、崩れちゃうの、それまで積み上げてきたことが」

やっぱり200人のお客さんのとこと、1,000人の大ホールでは、<気>とか<間>とか<息>みたいなもんが違いますもんねぇ

菊生「ね?アタシだって三間四方、つまり、6メーター四方のとこで舞ってるものを、それを10メーター四方のところでやったら崩れるもの。あんな大きなとこで演るのは、米朝さんだって本意じゃぁなかったと思うんだ」

いろんな状況や時代の流れが、<桂米朝>という人を大ホールで独演会をやり続けなければならない運命にしてしまったんでしょうけど、ほんとは、息遣いの聞こえてきそうなところで、じっくり聴かせていただきたいですもんね。そんな機会ができればいいなぁ

菊生「うん、うん」

あ!せんせ!また手酌で!まだ入ってますってば(笑)!あ、睨まれちゃったよ(笑)。心配しなくても、無くなったらちゃんと注いで差し上げますって

菊生「いよいよ無くなったら、お茶をもらおうかな」

え?!どないしはったんですか?!かしこ〜い

菊生「ん?お茶をもらってね、髪の毛1本取って入れんだよ?」

な、なんです?

菊生「おチャケ」

ああああああ〜

 

 油断していると、“オチ”がつくんである。
 インタビューを楽しくしようと、ずいぶん心を砕いてくださっているのだろうけれど、まるで、ご自分が一番楽しんでいらっしゃるように見えるのが、なんとも言えず素敵だ。
 <粟谷菊生>の能がお客さんの心をつかむ理由は、ここにあるんじゃないだろうか。