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ぐるっとまわって再び舞台に戻る。しかしですねえ、よく動く舞台ですよ。新国立劇場・中劇場は。たとえば、中央の直径12メートルあるという大盆が回りだすと、奥の床が動きだして、手前の床が引っ込んで、上からセットが降りてくれば、横から山台が人力でダダダーッと移動してきたりする。維新派の役者たちといっしょに、舞台装置までがパフォーマンスしてるように見える。松本雄吉氏は、「野外で出来なかったことをやろうと思ってる。野外で培ったノウハウを活かして、装置を大胆に動かしてみたい。回転舞台、山台という移動装置をフル活動させて、たとえば、カメラがお客さんの目だとしたら映画みたいに舞台にカメラが入っていって、パーンしたり、ズームしたり、回転舞台にのって360度、眺めてみるとかね・・・」。その言葉の通り、本当に、秒刻みでひっきりなしに動くのだ。「野外の場合は、地面なのでセットが動きにくいでしょう。なので、イントレに車輪をつけて動かせる装置を作ったんです。それを、僕らは“山台”と呼んでいるんだけど、今回もその“山台”を普段の5倍ぐらい使う。動くことのダイナミズムは、文句なしに面白いから。動く装置をやるためにはどういう本が必要なんだ?って逆の発想で考えて、ロードムービーにしようと思った。主人公が過去へ行ったり、海を渡ったり、いろんな場所に動いていく舞台上でのロードムービーって、オモロイやろ?それで、月だけが、ずーっと定点で輝いているというイメージかなあ」。
松本さんにとって、劇場の良さとは何だろう。「そりゃあ、圧倒的にお客さんが舞台に集中できることやね。きちっとした世界を創れるから。野外劇って、演出家が思っている世界の50%ぐらいしか客には伝わらない。野外では、強風が吹いたり、雨が降ったら、ぜんぶ壊れるからね。でも、劇場の場合は、そういった外的要素は関係ないから、お客を舞台に集中させることが可能。だから、今回はより“作品”を創るという意識が強くなっている」。客の集中力・・・かあ。風が吹いたり、月が思わぬ位置に出てきたり、猫が横切ったり、そーゆーハプニングの一切ない劇場空間のなかで(維新派観劇は、そーゆーハプニングも楽しみのひとつであるが)、劇場でやるってことは、ストレートに松本雄吉の作品力をぶつけるという試みなんだろう。音響効果を担当する塚田珠美さんは、舞台裏をうろつく私を見つけるなり、キラキラした目で話してくれた。「あのね、やっぱり、松本さんってスゴイよ。舞台の使い方が本当にステキ。なんといっても、月がきれいなの!!」。物語は、ある少年が浮浪者の老人に出会って、その過去性をたどっていくというもの。松本さんの言葉を足せば・・・「その老人の過去に満州が出てくるんや。満州というのは、政治的な意味ではなくて、移動者の街というイメージ。人間には、DNAのなかに移動本能があるんじゃないかと思っている。日本の国内でも移動して移動して、あげくの果てに海を渡って満州まで行って、満州で終戦を迎えて、さらに満州からモンゴルに旅をしていく。そんな人間の本能的なものをテーマにしたい」
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