小粒のメセナ?個人の趣味?アートを支える多層なアクターに突撃 |
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T−
桑原さん個人としては、アートやデザインなどの分野に興味がおありなのですか。
K−
私はずっと建築に関わる仕事をしてきていますし、作家活動をしている友人もあります。知り合いの展覧会の会場構成をプロデュースしたこともあったりと、個人的にものを作る方と関わる場には興味があります。
T−
そこで、このプロジェクトを行うにあたり、奥山さんに声を掛けられたのはなぜでしょうか。
K−
奥山さんは、南船場がほとんど注目されることがなかった9年前からこのエリアで「コンテンツレーベルカフェ」を運営してこられました。イベントや展覧会なども企画して、この地域にあって若い方があれだけ集い続ける場所を提供しているのはすごいですよね。
奥山さんに誘われて、コンテンツ周辺にお店を持った方もおられます。そうした、アートと関わるノウハウを持った方に関わってもらわなくてはこのプロジェクトを行うのは難しいと考えていました。
ですから、人を介して奥山さんを紹介していただいた当初は、コンテンツの2号店を出店してもらえないかと打診していたんです。やはり、このエリアを結ぶ基点として、1つより2つの方が私たちがイメージする街の新しい雰囲気が、伝わりやすいのではないかと考えて。
T−
そうだったんですね。そういえば、ビルの周りはオフィスの数に比べて目立ったカフェや喫茶店が少ないですよね。
K−
ところが、お店を出すというのはいろいろと準備に時間もかかることですから、奥山さんのタイミングと合わなくて。
奥山さんに直接ビルに居てもらうのではなく、奥山さんのネットワークを活かして入居者を紹介していただくことになりました。
私も、もともとコンテンツのことは知っていて、このエリアに新しい風を入れているということが感じられる場所と感じていましたし、ここに集まる方もネットワークをお持ちだと感じていたからです。
その中で、中心となって人を繋いでいる奥山さんであれば、誰が場所を探しているのかという情報も集まりやすいだろうし、またみなさんも奥山さんの話なら聞きやすいですよね。
また、「新しい風」としてのビルをイメージしてもらうためにも、若い方に引っ張っていただきたかった。
T−
入居者の声掛けにあたっては、お二人の間でコンセンサスをとっていたことはあったのでしょうか?
K−
奥山さんの顏の見える範囲をまず基点にしていこうということがありました。
一般的に、家を探す時って不動産屋さんに行きますよね。私達も入居者を募る場合には、まず不動産業の方に情報を公開するんですが、今回はカラーのある入居者によって、個性的なビルの雰囲気にしたかったので、そういった通常の手段を使うのは止めようと相談しました。
T−
確かに、ビルの入居者募集の広告で「デザイナー、アーティスト、かわいい雑貨屋を望む」などと細かく条件がつけられることってあまりないですよね。
K−
口コミとビルを紹介するパンフレットの配布が主な広報でした。パンフレットはコンテンツなどのカフェに置いても違和感のないデザインを用いるなどして、できるだけそういった場所に集まる人にヒットするような広報を行いました。また、「アート」や「デザイン」という切り口が絡むことによって、メディアへの露出度はずっと高くなります。
通常のチラシを大量にまくのではない形で、情報を受け取った人に集まってきてもらえる。
T−
順慶ビルで1/29(土)に行ったイベント「re:birth」が「オープンハウス」の役目を果たしていたのですね。
K−
そうです。単に部屋を見せるだけでは、おもしろくないのではということで奥山さんから提案され、彼にプロデューサーとして携わってもらいました。
T−
オープンハウスとはいえ、大阪を拠点に活動する個性的なミュージシャンのライブがあり、エントランスには近隣のお店が軽食をデリバリーしていました。単純に催しとして楽しめるから、ふらりと来た方には、まさかこれがビルのお披露目だとは感じられないような空間でした。
K−
ええ、奥山さんが選ばれたアーティストの方というのも、一般的にはメジャーではないのだろうけれど、ちょっと気になる活動をしている。 つまりは、彼の顏の見えるネットワークに加えて、このイベントに反応される方というのは私達が入居してもらえればと考えた方々なんですね。
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T−
このイベントでおもしろいと私が感じたのは、既に入居されている美容院「MONO」や輸入雑貨店「souvenir du mondo 」などの店舗が自由に見られるように開放されていて、ビルの現時点での面白さが伝わってきたことと、空室には作品が展示されることで「自分がここに入ったら…」との想像を膨らませてくれたことですね。
しかも、単にホワイトキューブとして作品を設置しているのではなく、売れっ子作家のチャンキ−松本さんをはじめ多くの方が部屋の壁に直接描いていたり、石膏で汚していたりしておられました。それを見ることで「あ、ここまでやっていいのだな」と作り手の方は自分の制作スタイルと照らし合わせて考えられたのではないでしょうか。
K−
先程申し上げたように、順慶ビルでは遊びと仕事の境が緩やかな状態の雰囲気をつくり出したかったんですね。それぞれの部屋は必ずしも広いとはいえませんが、部屋の中は好きに色を塗ってもらってもいいし、どんどんリフォームをしていただければと考えています。次の入居者の方には気に入らなければ塗り直してもらって、気に入ればそのまま使ってもらう。スペースの狭さゆえ、現在言われているようなSOHO的な職種の方々が使用されるのがもっとも適していると思います。
その中でも、ちょっと違うことをしてみたいと考えている方たちが使い易い場所にしました。
現在一般的にある貸しデスクやSOHOビルは、無機質なパーテションで区切られて味気ない。そういった場所よりももっと「自分の場所」として感じてもらえるような空間にもできて、周囲の部屋には何か面白そうな人たちもいる。そういった状況を見てもらいたかった。
T−
実際に入居をしようと決断するのは、なかなかハードルの高い行為だと思います。順慶ビルはオープンハウス前に一部改修なさったんですよね。
K−
やはり、どれだけ人を紹介してもらっても、ビルの印象が悪くては入居につながりません。
ですからビルを買い取った昨年夏から、採光部分があまりにも少ないとの問題を解消するためにビルの真ん中を縦に抜いて吹き抜けのような空間をつくる工事をしました。
京都の町家の中庭のように、建物内に空いた空間を囲む面をガラス張りにして、光が入る部屋を多くしました。 他には、天井丈を上げるために天板を剥がしてむき出しになったコンクリート部分を白く塗り、そこに照明を埋め込んだんです。でも、その一方で手すりや水回りのタイル、照明はほぼそのままに残しました。ちょっとした傷や色使いに風合いがあって。
T−
そうすると、必然的に床面積が減り、各階の部屋数が少なくなりますよね。採算はあうのでしょうか?
K−
そうですね。もちろん採算の面でもそれだけ厳しくなります。しかも今回は家賃をかなり低めに設定しているために、アーティストやデザイナーに使い易いようにとは考えますが、企業としての利益を追求することはなしにはできません。
ただ、これまでは、いかに少ないスペースに多くの人を入れるかというのが街なかの発想だったと思いますから、今回はビルの雰囲気を良くする発想の転換をまず提示したかった。
それが、ビルを買い取った値段等、現実的な面と照らし合せても実験的な試みを行うことで将来的な会社の収益につながると考えられたからです。
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