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小粒のメセナ?個人の趣味?アートを支える多層なアクターに突撃


#5:(株)レイコフ×奥山泰徳

 

 
T−
それで、ビルの入居者をコーディネートしたり、イベント「re:birth」をプロデュースして雰囲気を作り上げることに徹したのですね。

O−
先程お話したようにボランティア的に関わってしまうと、継続していいものをつくりあげることができなくなってしまいそうで、イベントに関してはあくまでビジネスの要素も含めて企画を引き受けました。
でも、僕にとって今回のプロジェクトはビルだけのためではなくて、アーティストやデザイナーたちのために関わりたいと考えました。それに、順慶ビルは入居の制約も比較的自由度が高い魅力的な条件でしたから、コンテンツに遊びにきてくれる作り手で、本気で場所を探している人に紹介してあげたいと思ったので。

T−
それは、コンテンツの運営方法にもつながるような気がします。

O−
結局、とにかくもの作りのパワーが好きなんですよね。それを感じられる場が楽しいと感じますし。だから、アートを広告塔的に使ってお金を儲けるというやり方には納得がいかないことが多いですね。
僕は、学生時代に毎日のように遊びに行っていたアーティスト達のアトリエや手伝いにいっていたギャラリ−での出会いから、モノを作る面白さやどうでもいいことを話しているようでアイデアが生まれ形になっていく楽しさを教えてもらいました。コンテンツでその面白さをカフェとして膨らませたのと同じように、今度はビルのコーディネートで体現できればと思ったんですね。これまで自分がしてきた、人と人をつなげるということを表現し、形として試すことになるんじゃないかと思って。

T−
ビルの入居者の方にも話を伺ったのですが、みなさんが「つながっていけそうな感じのする人が多い」「お客さんがビルに来ること自体を楽しみにしてくれる」と早くも手ごたえを感じておられるようでした。でも、一方でコーディネーターとしてご自身がこれまでつきあってきたアーティストに入居してもらうとなると、ビルの利益にシビアにならざるをえない桑原さんとはぴったり意見が合うとは思いませんが。

O−
そうです。レイコフさんも商売ですから、家賃設定に関しては現実のアーティストたちの状況を伝えながら何回も話をしましたね。
ビルの入居希望者が当初予想していたよりもかなり多くなってからは、順慶はまずは実験的な試みであるという共通認識がぶれそうになったので何回も話し合うこともありました。「re:birth」の時も、桑原さんは作家のことや作品について全く知らないという状況は作りたくなかったので、作家のことを伝え、基本的な情報を覚えてもらうようにしました。
 

 
T−
桑原さんも、アーティストも一緒にプロジェクトに関わるものとして。

O−
「re:birth」の開催は実はかなり急に決まりました。確か12月中旬でしたから、準備には1ヵ月ほどしかなかったにも関わらず、アーティストの方々はもちろん、彼らへの声掛けには同じ船場でがんばっているギルドギャラリーさんなどが積極的に協力してくれた。彼らの協力を全く知らない、もしくはこれが当然であると認識されるのだけは避けたかったんです。

T−
クライアントさんと下請けという関係ではなくということですよね。私も、パートナーとして仕事をするという感覚がないと、それぞれの得意分野を持ち寄り個性的なものをつくり出すことはできないように思います。横のつながりでいいものを作っていくことの方が、本当は難しいと感じますし。

O−
レイコフさんにとっては今回という区切りがあり、数有る仕事のひとつでもあるかもしれないけれど、僕にとってはこの人間関係こそがこれまで培ってきたもので、今後も順慶ビルも含めてつながっていく基盤ですから。

T−
レイコフさんもプロジェクトと銘打っているだけに、一回きりの関係とは考えておられないと思いますが。やはり、奥山さんは「奥山」の看板で売り出してきた訳ですし、そのあたりには誰よりも気を配りますよね。

O−
人を紹介するにしても、単に人同士を合わせただけではだめで、その後にお互いの状況を伝えあったりするフォローがないとだめですよね。その一方で、紹介した人同士が仕事をするようになったりした時に、一言伝えてくれることがお互いの信頼感を深めたりします。とても些細なことだけど、結局はそういうベースがないと今回のような緊急の企画への協力もしてもらえないだろうし。で、こういう時に得られる儲けっていうのは、自分だけのものではないですよね。ちゃんと分配をしなくてはいけないと思うんです。
だから、僕はお互いが横のつながりで仕事をしている分、時には時間や予算の面で無理をいいあって助け合うのはしょうがないと思っていますが、ちゃんと支払える時には、いつもより多めに支払ってでも、無理を言った時の穴を埋めようとは考えます。

T−
お医者さんて紹介料をとりますよね、人材派遣の会社も急成長している。意外と気軽に頼まれますけど、人を紹介することってビジネスとして成り立っているぐらいだから、簡単にはできることじゃないんですよ、本当は。奥山さんが紹介の仲立ちに入ってくれることで、いい経験をした人が多いから人も集まるのだと思います。

O−
それはどうなんでしょうね、自分では分からないですね。
でも、人を紹介する、イベントをプロデュースする、街のイベントに関わる、そして『グリニッジ』の閉店を決めるにせよ、自分が言い出したことの責任をとるのは自分なんですよね。今も、順慶に毎日様子を見に行ってるのは自分を信頼してくれた人がいるからという思いがありますね。

T−
桑原さんは、今後もこのエリアのプロジェクトを進めるにあたって奥山さんにフロントマンになってほしいと希望しておられましたよ。

O−
それは、今回のイベントの振り返りも含めておいおい話し合わなくてはいけないと思います。
それにしても最近よく思うのですが、いろんな企業さんが「個人」の力を認めはじめてくれている機会が増えてきたんだなあと。
アートニクス(奥山さんの有限会社)として空間デザインの方面にも力を入れているんですが、先日某大手企業が所有する保養所の改装を任せてもらえることになったんですね。コンペには超有名建築系の企業さんも参加しておられたのに、僕たちが選ばれた。

T−
決め手は何だったんでしょう?

O−
その場所に来た人がどんな気持ちで時間を過ごしたいかということをどれだけ想像ができるかといことじゃないでしょうか。それが、明確なコンセプトとしてオリジナリティがあるものにできるのって、個人や小さな集団だからでしょうね。
そこだけの時間を感じる空間にするのにお飾りとして大家の作品をもってくる必要はないだろうし、かといって規格化されたもので作り上げたステレオタイプのおしゃれっぽさの中で過ごすのも嫌ですよね。例えば照明作家が丁寧に作り上げた一点もののライトで、それもすごく居心地の良くなるようなものであれば、やっぱりそっちに心が動きませんか?そういう細かいところまで気を遣って空間を作れるのは、大きすぎる企業、組織では難しいと思うんですよ。どういう作り手がおもしろいとかという情報は感覚的な話でもあるから、個人同士の中で伝わってくることも多いのではないでしょうか。

T−
責任の重さの分だけ、だれのものでもない自分がイメージする状況に近付けるということですね。

O−
今回の南船場プロジェクトにも言えることですが、もちろん仕事だから100%自分のイメージ通りに進められることなんて滅多にないです。
特にアーティストと一般的な企業をそのまま合わせても、その関係は平行線をたどるしかないと感じることがあります。二つは全く別のモチベーションで動いてる場合が多いですからね。その中で、互いにとっての最適な状況を見つけながら合わせていくのが僕の仕事なのかもしれない。
この仕事をさせてもらうには、まずは企業の中にも話しあえる自由度を持ち「任せよう」と考えてくれる方がいてくれたことがよかったと思います。
評価が定まっていないものであっても、ここにしかないと感じられる作品や空間を指示する方が会社、街、人としての姿勢を表すのにもおもしろいと思うんですけどね。

T−
そのおもしろさって「価値観を変える」という表現になるんでしょうけど、価値観を変える経験ってめったにできるものじゃないと思うんです。

O−
そう、だから僕が今一番気になっているのは普通の人という言い方は適さないんだけど、アートとか、つくることに全く無関心な人。毎日どんな生活をしていて、何を楽しいと思っているんだろうと。

T−
アートに全く関心をもっていない人の生活は生活でちゃんと楽しみはあると思うのですが、できればその人たちにも何かがつくられていく時のワクワクする感じって思い出してもらえればと思いますね。そのためには、コンテンツのように日常にありながら知らない間に、わけのわからない楽しさに巻き込まれていくような場所、気付いた時には、通ってしまうような場が必要なんだと思います。順慶ビルに遊びに行くのが楽しみです。
今日はありがとうございました。

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