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+ 石淵文榮

 さて、今回は、元NHK演芸プロデューサーの棚橋昭夫さんと、天満宮前の小料理屋の女将・松尾豊子さんに多大なるご協力をいただいた。
 この対談が実現したのは、偏に、このお二人のお蔭である。
 棚橋さんと松尾さんとのご縁については、やはり、「ぶちの独り言」の“ごあいさつがわりに”に書いているのでご一読いただきたい。
 ともかく、<けったいな縁>で知り合ったばっかりに、日頃から何かと私に迷惑をかけられることになってしまったお二人だ。

 大阪天満宮前、相生楼(あいおいろう)。
 現在、川端康成の生家跡に建つ創業150年の老舗料亭だ。

 予想どおり約束の時間の前に、米朝師匠ご到着。
 棚橋さんを相手にしばらく懐かしい話に花が咲く。
 法善寺横丁の話から始まって昭和10年代の芸人さんの名前や芸、寄席の様子、吉村雄輝さんの話、ラジオの放送現場のけったいな人々…そして、なぜかお墓の話?
 りっぱな対談がもう一つできてしまった。
 おまけにするのはもったいないので、いずれまたまとめさせていただこう。。

 (そわそわ…)
 やっとお待ちかねの駒香姐さんがご到着。
 お座敷にお姐さんが現われたとたん、なんとも言えない華やいだ空気が漂う。
 一流の芸妓として花街に生きてきた女性だけが身にまとう、独特の雰囲気だ。

駒香姐さん(以下、お姐さん)「この度はまた、ありがとうございます。こんな、呼んでもろて」
米朝師匠(以下、師匠)「やあ、お元気で結構で…」

 文字にすると、いたってあっさりした挨拶だが、お姐さんの姿が見えたときの、師匠のお顔の嬉しそうなこと。
 まだ一滴も呑んでいないのに、頬を紅潮させて、まるで初恋の人を前にした少年のようだ。
 意外なことに、このお二人、面と向かって会うのははじめてだそうだ。

師匠「今でも、なすびの漬けもんはおあがりにならんとかいう」
お姐さん「やぁ、観てくれはりましたん?」

 この対談の少し前に、NHKの『芸能花舞台』で、“九十歳の至芸”と題して三人の女性の芸とインタビューが放送された。
 駒香さんの大好物である茄子は、アクが強いので喉にはよくないらしい。

師匠「そらぁもう」
お姐さん「ゆんべ(夕べ=昨夜)また映してくれはりましたやろ」
ちょっと一杯入ったほうがええとおっしゃってますので(笑)。
師匠「そらぁもう、ちょっと入ったほうがよろし」
お姐さん「ずっと、(お酒)やってはります?」
師匠「わても、なあ、どっと量は減りましたけどな、でもやっぱりやってます、毎日」
お姐さん「ああ、そらけっこうです。私がなあ、もうコップ酒があけんようになりましてん。ちょっとね、足がわるなってからね、酔うてこけた言われんの恥かしいから。ほいでな、もう呑まんようんなったらな、ビールも喉へ通れしまへんね、この頃」
師匠「あらぁ?」
お姐さん「はあ。ビールがね、グーッと呑むのが…」
師匠「ああ、ほな、これ(盃)でちびちびやったらよろし」
お姐さん「へえへえ、せやからね、このほうの日本酒やったら、ま、ちょっとな、よばれますねん。昔みたいに‘はいーっ!’ちゅようなわけにいきまへんね(笑)」
師匠「ほたら、お燗をしたのをちょっと…」
はい、今申しました。
師匠「ああ、さよかさよか」
お姐さん「えらい勝手申します」
師匠「私もね、お燗のほうがよろしねん」
お姐さん「あの、ちめたいのね、今言うてはりますけどね(=流行っているけど)、私あれ、かないまへんね」
師匠「はあ、私も冷酒はあんまり…」
お姐さん「あきまへんな」
師匠「昔はなあ、冷酒もええと思たけどね、やっぱり、お燗」
お姐さん「お燗でもな、むずかしおますな。人肌言うて」
師匠「あれはまあねえ、あんなこと言いますがなあ」

 お酒の話で軽くウォーミングアップ。

師匠「あの、丑年やそうでんな。ほな、わて、ひとまわり違いまんね」
お姐さん「これでっか(と牛の角のマネ)。へえ!まあ嬉し、まだ上があった!」
ええ?!お姐さんのほうが…まあよろし。お姐さんB型ですか?
お姐さん「Bですわ」
あ、やっぱり(笑) 。
お姐さん「おっしょさん(=米朝師匠)はなんでっか?Bでっか?」
師匠「Oですわ。せやけど、なんで血液型が出てくんの?」

 お姐さん、米朝師匠がひとまわり違う言うて喜んではるけど、お姐さんのひとまわり上は、今年101歳でっせ(笑)…お姐さん、かわいい。
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