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+ 石淵文榮

 お料理とお酒が運ばれてきた。

お姐さん「えらいお待たせしてすんまへんでした」
師匠「いえいえ、棚橋さんと昔のいろんな話してましたんや。むかぁし昔の。樋口幸吉っつぁんという人憶えてはりまっか?放送局の邦楽の係の」
お姐さん「だいぶ前の方でんな」
師匠「昭和20年くらいの」
お姐さん「はあ、樋口っつぁんね、名前は憶えてま」

 ここで乾杯。

なんやお見合いみたい。付き添い多うて(笑)。
師匠「いやいや、ほんと(笑)」
お姐さん「お忙しいのにな、よう来てくれはりました」
師匠は前からね、一度話したいて言うてはったし。
師匠「そうでんねや。お仕事離れてね。あの、偶然うまいこと会う、てなことはなかなか考えられへんけど。あの、あそこの、ほれ、<花外楼>でいっぺんだけ」
お姐さん「‘おいでやす’の。<つる家>の時にな」
師匠「へえへえ、つる家の時でっか」
お姐さん「むこう(つる家)がやめはる前に、せんせ(米朝師匠)が来てくれはったんですねん。嬉しかったわ。あの時分まだ3回目ぐらいでね…。来年でね、せんせ、10回目ですねん」
師匠「さよか…はあ」
お姐さん「そやから、10回目ちょっといっぺんキリつけよか言うてますねんけどね」
師匠「今年も花外楼、私、仕事があって行けなんだん。<美々卯>の薩摩はんがね、あれ私と同い年でね、あの人も丑でんねや」
お姐さん「そうでんなあ」
師匠「ほいでね、いつもあれを送ってくれるん」
お姐さん「むこう(美々卯)の主人もよう応援してくれてはりますねん。ほいで、ちょっとみんなで仕上げしよう、いっぺんカーッと行こか言うて行きますねん、‘おいでやす’の連中で。ほたら、また、あと出てきてくれはってな、ご注文せえへんのに、ちゃーっとまた他のお料理してくれはりますねん(笑)」
師匠「あのなあ、あれ、息子ぼやいてへんかと思うねん(笑)。あれ、金の取れん時にえっらいサービスするねん、あの人はな(笑)」
お姐さん「ほんまでんなあ。嬉しいわ。せやから、ついこちらも甘えて行きますねん」
師匠「いや、それでむこうは嬉しいんだす。そないして来てくれはるのが」
お姐さん「そいで、おなごし(女ご衆)さんが皆ようけ揃うてくれはるのが嬉しい言うてね。写真よう撮ってくれはりますねん。せやから、うどんやはん行こ言うたら、むこう(美々卯)行きまんね」

 うどんの出汁の話から、<すっぽん>の話に。

お姐さん「あのねえ、あれ(=すっぽんの生き血)、葡萄酒に入れまっしゃろ?あれな、知らんと葡萄酒や言うてクェーッと飲んでん」
あれ、やっぱり(アルコール)まわりますか?
お姐さん「まわるがな。そいでそれ、知らんもんやから一気に飲んだんや、グラスにね」
師匠「へえ」
お姐さん「葡萄酒やから、しゅっと飲まな言われて、そうでっか言うてグーッと飲んだん。そしたら、ふーっと(笑)」
師匠「あれね、日本酒も入ってるんだ」
お姐さん「お酒で炊きはるからな」

 まだまだ<すっぽん>。

師匠「あの大劇の後ろぐらいに、すっぽんの店があってな。‘すっぽんとキスしてもらいます’言うてね、割り箸のこっち側をわたいが咥えるんだ。ほいで、むこうをすっぽんがカッと噛みよるんだ。写真撮られてね(笑)。長いことそこに飾ったあったけど、店、無いようんなってもた」
お姐さん「めずらしおまんな、そんなん(笑)」
師匠「ねえ」
すっぽんて、噛みついたら放さへんて言いますね。
師匠「カミソリみたいなね歯ぁやから。ギザギザやないんや、あれね。ズバーッと切れてまうねん」
うわ、こわー。精つくんですかね、すっぽんて。
師匠「まあ、そういうことやけどな。今やすっぽんでもなんでも(自分は)、もう関係ないようになってもた」
いや、そんなさびしいこと(笑)。
お姐さん「そやけど、あれ、気のもんで、食べたらなんか、シャーッとする感じしまんな。気のもんでっけどな」
師匠「ん、そらまあ、確かに効果はあるんでしょうな」

 なんか精つく話になってしまった…。

熱いのん(=お酒)がよろしね。落ち着くと言うか。
師匠「ああ、やっぱりな、このほうがよろし」
お姐さん「美味しいね。やっぱり日本人でんね」
師匠「いやもう、やっぱりこれですわ」

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