小堀:
“借景”っていうのは、どういう風に考えてらっしゃいます?
松本:借景は、格闘のしようもないもの。雨降ったら見えへんなるし。結局、借景論というものは時間論と条件論、地溝論とも言えるよね。『南風』の時は、借景はあったけども一生懸命隠して、その隙間から見える景色、という程度で頼ろうとしなかったしね。
小堀:犬島では、大きな高ーい煙突が、時間の経過と共にだんだん煙突の存在感・見え方が変わってきました。そういうのが、面白いと思いましたけどね。
松本:時間性でみたら面白いよね。『さかしま』の時なんか、あたりの山が、最初、面白くないと思ったんや。立体の山でね、夏だし、緑が茂っていて、生命感たぎらせている。でも、夕方になったら、葛飾北斎・安藤広重のような平面の紫に変わっていく。あの瞬間って、わかってるお客さんは思わずウォーって叫びたくなるような・・・
小堀:日本語でいう「一服の絵」ってやつですかね。
松本:ほんと一服。
小堀:じゃあ借景ってゆうのも、そこの場所の風景を切り取るんじゃなくて、その中で時間の経過が進むにつれて風景の見え方が変わってくるという事ですか?
松本:そうやねえ。まあ、出来る事はしれてるんだろうけど。その場所が強制してくる演技論てのはやっぱり、新しい技術をそこで発見したぐらいの新鮮さがあって、やったー!という感じになるね。
小堀:海外公演の話もあるようですが。
松本:うん。アテネ・オリンピックの縁もあって、ヨーロッパを3〜4箇所回ろうと思っている。ギリシャとか、オーストリアとかね。
小堀:ロケハンにも行った?
松本:ギリシャなんか、絵に描いたようなコロシアム風の野外劇場がいっぱいあって面白かったわ。あと、インスブルックというオーストリアの町、これがまた、ええとこやねん!
小堀:冬季オリンピックやったとこ?
松本:そうそう。ヨーロッパの金持ちばっかりが行くところ。年中雪山あるし、町の中を川が通って、ハプスブルグ家がいかにもおったってゆう・・・
小堀:ハプスブルグ家なあ・・・(笑)
松本:まあ、いろんな場所を巡るわけだけど、同じ舞台をあちこちでタライ回しするような感覚じゃなくて、ちゃんと旅の結果が舞台に出てくればいいなと思っている。映画でゆう編集みたいな感じでね。まあ、疲れていく部分は疲れていくやろうし、初めから飛びそうなシーンは飛んでいくやろうし、あるいは獲得して膨らんでいくとこもあるやろうし。そうゆうことが自ずと生まれていくような仕掛けを脚本的にはやりたい。
小堀:松本さんが、場所に求める条件は?
松本:時間的空間が体感できる、ってことかな?やっぱり、歩行してなかったらアカンってゆう。
小堀:そこまで歩いてきてるから感じられるとことかありますもんね。
松本:そうそう。歩いてきた手がかりみたいなんがあって、地面があって、その先に空があるという・・・そういえば、「天草」でやらないか、という話も、あんねんけどね。
小堀:松本さんのふるさとですよね?
松本:うん。でも、あんまり、そういう意識はないねんな。わかれへんわ。
小堀:だけど、それこそデジャブじゃないけど、行ったら何かあるんじゃないですか?
松本:天草って大きいからね。
小堀:でも、本当にその場所に遭遇したとしたら・・・
松本:何かあるかもわからんな。
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松本雄吉
まつもと・ゆうきち(劇作家・演出家)。1946年、熊本県生まれ。大阪教育大学で美術を専攻。70年、劇団「日本維新派」結成、87年「維新派」と改名。『少年街』(91年)より、新しい野外劇「ヂャンヂャン☆オペラ」を構築。近年は「漂流」をテーマに、観劇が旅となる公演を行う。 |
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