フェスティバルゲートで活動する4つのNPOの検証と未来に向けてのシンポジウム |
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第二部16:30-17:30、ゲストトーカーによるおはなし
甲斐
それでは二部に移りたいと思います。すみません、席の数の問題で前の方、背もたれがない状態でおつらいかと思いますが、どうかご勘弁ください。
一部で、アーツパーク事業そのものと、各NPOの動きを説明させていただきました。次にそういった動きが、世の中的にどういう位置にあるのか、そのもの自体が都市というものを考えたときにどう起こってきたものなのか、もう少し視野の広い視点で先生方に語っていただこうというのが、この二部です。順におひとり15分づつ語っていただこうと思うのですが、その都度先生をご紹介させていただきます。では一番最初に、大阪市立大学創造都市研究教授の佐々木雅幸先生にお願いしたいと思います。佐々木先生は、大阪市の文化集客プランていうのがありまして、その大阪市芸術文化振興施策検討委員会のメンバーでもあられます。よろしくお願いします。
佐々木
佐々木です。こういうオルタナティヴ・スペースは独特なにおいがあるので好きなんですね。今日は応援団のひとりだということで、最初に15分間、話をさせていただきます。スライドを併用しますが、全部お見せすると軽く一時間を超えてしまいますので、適当に止めてください。そしたら、「ここまでで言えることはこうだ」と、まとめさせてもらいますので。
まず、私が考えている「創造都市」という概念を一番わかりやすく説明します。バルセロナという都市がスペインにあります。この都市は、たとえばピカソやダリ、ミロ、ガウディなど、それぞれの時代を先取りする感性を持った人たちが自由に活動していた都市です。彼らの作品は当時では前衛ですから、「奇妙な建物ばかりで困った」と感じる人々もいたと思いますが、大らかに受け入れたからこそ現代まで残っている。つまり、自分の価値観に合わないものを排除しない、寛容な人々のたくさんいた都市だったから、創造的な作家や芸術家が輩出したということです。
それから、最近でもバルセロナは世界中から注目されていまして、その理由はパブリックとプライベート、行政と民間がとてもうまくいい関係を作っているからです。また、街の中にたくさんの公共空間、「公共圏」と言ってもいいんですが、こういうものがたくさんあります。バルセロナの場合は全世界から移民が集まってくる、いわゆる多文化の街ですから、しょっちゅういざこざがある。でも、そういったことを隠したり避けたりしないで議論をします。私はよく、「騒々しい街が創造都市になる」とダジャレを言いますが、実際、議論のない静かな街は創造都市になりません。市民が活発に議論できる公共空間がたくさんあることが、創造都市になる一つのポイントです。
バルセロナでは昨年、「ユニバーサル・フォーラム・オブ・カルチャー2004」という新しいスタイルの文化イベントが141日間にわたって行われ、私もそれに招待されて出かけてきました。このフォーラムは、「21世紀は文化の世紀にしたい」という願いのもと、グローバル社会における文化のあり方を問い直すものでした。つまり、グローバリゼーションというのは文化にとって必ずしもよい面ばかりではなく、少数民族の人たちの言葉が消えてしまったり、文化財が壊されたりという、負の側面もあります。それらを解決するには、地球上の誰もが文化を創ったり、優れた文化を享受する権利、すなわち「文化権」というものをしっかりと定着させるとともに、豊かさとは何かを問い直すことも必要です。今までのように金銭的な豊かさだけを追い求めるのではなく、この社会の構成員一人ひとりが、自分の人生において、より多くの選択肢のなかから主体的に選択する機会が増えること、それが真の豊かさであり、文化というのはそれを実現するものだ、ということを、フォーラムで議論しました。私は、こういう議論ができる街であること自体、すばらしいと思っています。
ではこれから、創造都市だと考えられる各地の事例をご紹介します。次にお話しされる吉本さんも、そういった事例をたくさんご存じで、今日も紹介されると思いますが、それだけ創造的な都市が世界各地にあるということです。
では最初に、イギリスのバーミンガムという街です。ここはロンドンに次ぐ第2の街で、かつて工業都市として栄えていましたが、今は失業者がたくさんいます。多いときは20%くらい。大阪はせいぜい8%か10%ですね。工場がどんどん空洞化していったバーミンガムがどういうふうに都市再生に取り組んだかと言いますと、カスタードというお菓子を作っていた工場跡を改装し、芸術家やいろんなジャンルの人を集め、新しいものを生み出す場に変えました。エンターテイメントを産業化していくようなことに取り組んだわけです。先ほど大谷さんが、「ここ(新世界アーツパーク)は文化のインキュベーター」だと言われましたが、まさにそのインキュベーションを行うための施設を行政がつくり、運営は「スペース」という組織、日本でいうNPOのような団体が運営しています。こういうものをたくさんつくって、都市再生の起爆剤にしているわけですね。
フランスには、ナントという街があります。ナントで1995年に誕生したクラシック音楽祭「フォル・ジュルネ」の日本版が今年のゴールデンウィークに東京で開催されました。「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン〔熱狂の日〕音楽祭2005」という催しで、ずいぶん盛り上がったようです。ナントの代表的なスペースは「リュー・ユニック」といい、以前はビスケット工場だった場所をアートスペースに改装し、ここの運営もNPOが携わっています。レストランも併設されていて、朝2時までわいわいがやがや、世界中から人々が集まっていろんな芸術活動を展開しています。
また第一部でremoの雨森さんがオランダで暮らしていたという話をされましたが、オランダの場合もアムステルダムやロッテルダムに、同様のオルタナティヴ・スペースがあります。このスライドの建物は都市ガス工場の管理棟だった所です。都市ガスが天然ガスに転換したので、使わなくなった工場を改装してアートスペースに変えています。
それから、サンフランシスコで私が注目しているのが「イェルバ・ブエナ・ガーデンセンター・フォー・ジ・アーツ(Yerba Buena Garden Center for the Arts)」という、これはちょうど天王寺公園のような所です。そこの再開発計画が40年ほど前に持ち上がったときに、行政は最初ワールドトレードセンタービルを建てようとしたんですが、地元住民の大反対にあい、結局、アートセンターに変えたんです。そのときにアーティストも計画に参加して、いわゆる無名の、まだ世に出ていない人たちをどうやってインキュベーションするかという話も出てきたそうです。それから、私は以前、そのセンター長にヒアリングしたことがあるのですが、そのとき非常に印象的だったのは、アートセンターの周辺にホームレスがいっぱいいるので、ホームレスがアート活動をするならウェルカムだという考えでした。ホームレスも一緒になってアート活動をする、つまり人間性を回復する場所としてアートセンターを機能させようと考え、実践されていました。
さまざまな事例を駆け足で紹介しましたが、結局、現代都市というのは失業者がとても多くて、都市の中心部に空洞化したスペースや遊休化した施設がいっぱいあるわけです。そこがクリエイティブなアートスペースに変わっていくかどうかが、創造都市のポイントのひとつです。詳しい説明は省きますが、創造都市という概念が出てきたひとつのきっかけは、9.11の事件です。いまや高層ビルほど危険なものはなく、ニューヨーカーたちはもう高層ビルに住みたがりません。日本人はまだ六本木ヒルズなどの高層ビルに住むことがあこがれのようですが、「世界都市から創造都市へ」というのが私の提唱している考えであり、21世紀は創造都市の時代だと考えています。
また、バイオテクノロジーやハイテク産業などに日本は力を入れるべきだ、とよく言われていますが、そのためには創造的な人材が必要です。私は、芸術の創造性と科学技術の創造性はお互いに刺激し合う、シナジー効果があると考えています。同じようなことを言っている研究者がアメリカにいて、リチャード・フロリダという人です。彼は「アメリカの先端産業が発展している所にはゲイ(同性愛者)が多い」と言っているんですね。たとえばニューヨークのチェルシーという所でコンテンポラリー・ダンスをやっている人の中には、ゲイが多い。つまり、感性が豊かで創造的なダンサーの中にはゲイが多く、そういう人々が集まる所にはハイテク産業で働いている人々も集まってくるということを、統計的に分析し説明したわけです。今、フロリダの理論が世界でもてはやされていますが、彼は、こういうハイテク産業や芸術分野で創造的な仕事をする人たちを総称して、「創造階級」と呼んでいます。そして、創造階級が増えていく都市こそ21世紀型だと言うんですね。
ただ、先ほどの上田さんのお話にもあったように、創造階級はかっこいいけれど生活は楽ではありません。大企業に勤めているわけではないですから。そこで、安定した生活を送りながら、しかも社会に対して一定の影響力を持つようになるにはどうすればいいか、というところがポイントになるわけです。アメリカでは今、創造階級に分類される人がかなり増えて全体の約12%。その周辺で創造的な仕事をする人も含めると約30%になるようです。
イギリスでは「創造産業論」が盛んで、創造産業論を都市再生の中心に位置づけようとしているのがロンドンです。たとえば今、ロンドンで最もユニークなスポットは、火力発電所だった建物を現代アートの場所に変えた「テイト・モダン」です。遊休施設をどうやってクリエイティブにしていくかが、とても大事なわけですね。お見せしているデータは、私が日本とイギリスの創造階級や創造産業を比較したものです。結論から言いますと、創造的な仕事をしている人の割合をイギリスと比べると、日本ではまだ半分から3分の2くらいにしかなりません。実数では並んでいますが、経済活動全体から見るとイギリスの方が小さいですから。そういった意味で、日本ではこういった分野がまだこれから伸びてくるだろうと思われます。
あまり時間がなくなってきたので、私が最も好きなボローニャという街のことを少しお話しします。この街は大量生産がとても下手で、小ロットの職人的ものづくりで世界的にも非常に強い経済システムを持っていますし、芸術の分野でもとてもユニークな取り組みをしています。「公設民営」の施設もあって、現代アートの新しいジャンルを切り拓くということを30年くらい前からやっています。こういう取り組みは、今までお話してきたように世界的に共通のトレンドなんですね。大阪と違うのは、フェスティバルゲートのような遊園地ではなくて、もっと古いもの、900年とか1000年前の施設を上手に使っている。だから街のたたずまいも雰囲気があって、私はとても好きなんです。歴史を感じさせる街の中で現代というものをつくっている、そういう場所です。
ボローニャがミレニアムの2000年に取り組んだ「ボローニャ2000」という文化イベントがあります。若い世代の市民の積極的な参加を目指すとともに、文化消費だけではなくて、今日のシンポジウムのテーマでもある「文化の生産と創造的発展」を目標にしたものでした。つまり出来合いの文化を消費するだけではなくて、新しいものをつくっていくというところにポイントがあります。そうしてはじめて、大阪市が言っているような文化集客につながるわけで、ハリウッドの借り物のようなものを持ってきて遊園地を作っても大失敗するだけです。大阪の中にある本来の資源を活かしながら現代アートや文化を生み出すことが重要で、そういうことに取り組んでいる都市の方が成功していると言いたいわけです。……もう時間ないでしょう?
甲斐
あと2分あります。
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佐々木
じゃあ最後に、日本はどうかということで金沢と横浜のケースをご紹介します。どちらも私は政策的に応援していまして、金沢には15年間住んでいました。金沢はかつて、伝統工芸の町でした。しかし、伝統というのは過去のものを守るだけでは意味がなく、新しい文化を生み出しながら融合させていこうと考え、創造的取り組みを民間から起こしました。行政は後からついてきたわけで、やはり市民がまず動かないとだめですね。具体的に何をしたかというと、紡績工場跡を24時間自由に使える施設にしました。ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、「金沢市民芸術村」です。
それから昨年、市民の声を集めて、現代アートの美術館を都心に作りました。「金沢21世紀美術館」、愛称は「まるびぃ」です。天王寺美術館の蓑豊(みの・ゆたか)館長を金沢に引っ張ってきまして、館長になっていただきました。ここでは、子どもたちの創造的な感性をより豊かにはぐくもうと、市内の小中学生4万人を学校ぐるみで無料招待しました。すると、子どもたちが家に帰って「おもしろいから、また行きたい」と家族に話し、親子連れで再び来てくれることになりました。来館者は海外からも多くて、開館して8ヶ月で100万人以上の人が美術館を訪れました。こういうふうに、アートで都市を再生するということが、現代の先端的な都市の取り組みです。
横浜は「クリエイティブシティ・ヨコハマ」と銘打って、倒産してしまった銀行の建物をクリエイティブ・スペースに変えました。ここも運営はNPOです。そろそろ時間切れなので、あとは吉本さんに任せます。ありがとうございました。
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