フェスティバルゲートで活動する4つのNPOの検証と未来に向けてのシンポジウム |
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甲斐
ありがとうございました。(拍手)いっきに地図の上を走ったような印象でした。それでは続いて、吉本光宏さんにお願いします。ニッセイ基礎研究所の芸術文化プロジェクト室室長であられます。今日の朝、成田に着かれて、EUと日本の交換の視察を終えたばかりで、その足で来ていただいています。その現地視察された情報も交えて、お話していただくことになると思います。よろしくお願いします。
吉本
吉本です。今甲斐さんから紹介いただきましたけど、27時間くらい前にフランスのリールというところを出て、こちらに来ました。このパソコンの立ち上げに時間がかかるので、そのあいだに少しだけどういうことをしてきたかという話をしたいんですけれども。
今年がEUと日本の市民交流年ということで、まさしくこのフェスティバルゲートのような、NPOと行政との恊働・パートナーシップのプロジェクトについてEUでどんな取り組みがおこなわれているのかリサーチしようということで、使節団が派遣されまして、私はフランスとイギリスに行っていろんなところを見てきました。今、創造都市について佐々木先生からアカデミックな話があったので、私は、大阪市がいくつかのNPOと恊働でやられているこちらのプロジェクトについて、大阪はひとりじゃないよと、世界各国で同じようなことをやっている所はいっぱいありますので、見てきたばかりの情報をご紹介するというかたちで、エールを贈るような話をさせていただきたいと思います。
最初に行ったのはニューカッスルです。イギリスの北部中核都市が、脱工業都市を旗印に芸術文化による開発を進めています。このスライドはもとの製粉工場を改装して・・ええと何ていう名前だったかな、コンテンポラリー・アートのスペースに改装しました。両側の壁の所だけ残して、まん中のフロアをぶち抜いて、コンテンポラリー・アートの展示ができるように、天井の高いギャラリースペースを開設しました。あ、「バルティック・アートセンター」って名前です。
それからこれは「ビスケット・ファクトリー」という名前でして、まさしくビスケット工場だったんですけれども、上のフロアをアーティストが作品の売買を出来るスペースにしているんですね、展示をして。もちろんセレクションはディレクターがやってるんですけれども。地下に、まだ工事中だったんですが、35のスタジオを作って、アーティストがそこに入居して作品をつくれる場所を作っているということです。
それからこれは「マッシュルーム・ワークス」というスペースです。町のはずれのぼろぼろだった工場か倉庫だったところを、真ん中に写っているアーティストが、アーツカウンシルとかいろんな政府系の機関と銀行から融資を受けて、ここをアーティストのためのギャラリーとスタジオに改修しました。その際、公的な機関が「フィージブル・スタディ(事業化可能性調査)」をするためのお金を出してくれるそうなんですね。で、彼がその「フィージブル・スタディ」に基づいて実現可能な事業計画や収支計画を策定するために、公的な機関がお金を出してくれて、その「フィージブル・スタディ」の結果を持っていくと、銀行が個人のアーティストに融資してくれるということらしいです。後の半分をアーツカウンシルとか公的なところから支援してもらうわけです。スペースはオープンしたばかりです。
こういうおしゃれなスペースで、ここも基本的にはアーティストのスタジオがあって。一番下に写っているのは「アーツカウンシル・イングランド」のロゴで、アーツカウンシルから支援受けてやっているということですね。彼はスタジオを非常に安く貸し出す計画を立ててるんですけれども、銀行融資は10年だか20年で返済する計画でやっているということです。いわゆるアーティスト・ラン・スペースですね。個人のアーティストでこうしたものが立ちあげられるんだ、ということに大変驚きました。
次はいきなりフランスです。マルセイユです。「マルセイユ石けん」って有名だと思いますが、このスライドはそれを作っていた工場跡でして、長い間廃屋になっていた場所なんですね。で、これは廃屋の改装計画の模型です。ここに国立のサーカスセンターを作ろうということで。日本のサーカスのイメージとはちょっと違って、フランスではサーカス、大道芸といった方が良いかもしれませんが、それを芸術の重要な分野として力を入れているところです。その完成模型ですね。入ったところが広大なスペースで、7つのアソシエーションが入っています。アソシエーションというのは1901年に出来た制度でして、日本でいうところのNPO法と同じようなものです。ただ制度的にはすごく複雑なので、明確な定義は違う部分もあるんですけど、おおよそNPOに近いものです。ここに7つの団体が入っています。まだオフィスはないので、コンテナを作って活用してオフィスにしているんですけれども、中で大道芸に使う大道具類、そういうものを作っているんですね。
これは工場跡を使った場所です。で、まさしく工場です。ここは作品を作る工場ということで。ただ改修途中でして、このあと国立サーカス学校というのを作ってですね、アーティストがここに暮らしながら作品を作り、それから小さな劇場も作ってパフォーマンスも見せられると、そんなスペースです。とにかく広大で、わけのわからないでっかいクマがいたりとか(笑)、こういうへんな車を引っ張るようなものがあったり、もう怪しいものがいっぱいあって、なんていうかゆるゆるな感じがたまらないんですけれども。とにかく広大なんですね。で、マルセイユってのはアフリカの移民が結構住んでいて、貧しい人たちが大勢いる。サーカスの芸術創造をやることで、周辺住民とのあいだで、いわゆるアウトリーチをやるんだということを、このセンターの方はおっしゃっていました。
それからこの次の、これがまた驚くほどすごい場所でして・・「ラ・フリッシュ・ベル・ドゥ・メ(La Friche Belle de Mai)」というところです。もともとが何の工場かというと、たばこの工場だったんですね。40ヘクタールあります。そのうちの、部分的に閉鎖されているところもあるんですけれど、長い間閉鎖されていた工場をマルセイユ市が持っていまして、これをアーティストに解放しようということで、今ここに70のカンパニーが住みついて創造活動をやっているということです。全体像がなかなかわからないんですけれども。これなどはただの古い建物かと思ったらレジデンスで、アーティストが滞在できるようになっている。でこのスペース、ちょっと改修したところがあって、ジャン・ヌーヴェルという建築家がこのグループに肩入れして一緒にスペースを作る活動をしているということです。これもコンテナを積み重ねて何かやっている。ちょうどこの後ろにTGVが走ってまして、この場所が何かやっているとアピールできるように、派手な彩色が施されています。
そしてここは、基本的に電気代水道代、警備などの費用は、ここをトータルで管理しているところが、フランス政府、地方政府、県といった公共団体からお金を集めることによって負担しています。ですので、カンパニーは年間20万円前後の賃料を支払うだけで非常に広い場所を借りられるそうです。なので、現在は約70団体が入っているとのことです。これも改修途中なんですけれども、最終的にこんなイメージになると。これは建築家のパースですね。もう、ほんとうに工場を最低限危なくない程度にしてあって、広いもんだから、ゆるゆるで作っていて。われわれ視察団もフランスの合い言葉は「ゆるゆる」ってことになったんですけれど(笑)。イギリスはやっぱり政策が強いですね。クリエイティブ産業を振興するぞみたいなのがものすごくあるんですけど、フランスはだらりんとしているのだけれども、アーティストの場所がちゃんと作られていて、それが街の経済活動にも波及しているというのを、市のほうも認識している。
ここは駐車場ですね。暗かったのでピンボケ、手ぶれ状態ですけれど、このスペースが7層あって、ここも基本的にアーティストの活動場所に整備するそうです。ショッピングセンターなんかも合わせて入れて、コマーシャルなものと合わせて開発するということですね。こんな小さな劇場もあります。これもどこからどこまでかわからないですけど、この建物の全部がギャラリースペースになっています。すごい規模で、ちょうどこの日は閉まってて中を見られなかったんですが。これが夜の、さっきの劇場です。この日が市民参加のコンテンポラリーダンスがあったので見させてもらって、作品は、ん?て感じだったんですが、それでもすごく大勢の人が来てました。
さっきちょっと大道芸の話したんですけれども、「ロワイヤル・ド・リュクス」という、フランスを代表する大道芸集団の公演をアミアンで見ることができました。さっきの工場跡で作ってたのはゾウ…クジラだったかな、その骨組みがありまして、そういうでっかいものを作って、町のなかを練り歩いて、ジュール・ベルヌのストーリーに合わせて、ゾウは建物の3階分くらいありますがすごく精巧にできていて、鼻から水をちゃんと吹くんですね。ほんとにすごく精巧なんです。ぼくは非常に感激したんです、前から見たいと思っていたので。こういうサーカス、劇団があって、その活動拠点になっていました。
こんどはリールです。リール工業地帯ということで、学校の地理でも習いましたけれども、いわゆる石炭工場ですね。山のようにあったんですが、それがどんどん衰退してしまって、町が本当に廃れたということでした。これは今唯一残されている採掘工場跡で、ここは劇場とかアーティスト・イン・レジデンスができるスペースになっています。これ、後ろにありますのは、ぼた山ですね。これがもう、あちこちに点在しているような、日本でいえば築豊とかそういうところに近いんですけれども。このようにスペースを改修して使っているようです。
これはシャンタールさんという方で、炭鉱の町が衰退したときに、彼女は社会学の研究者として現場に入り込んで、500人だか600人だかの市民にヒアリングをしたそうです。そのとき、すべてが炭坑に頼っていた、学校から教育から何から全て炭坑夫をつくるためだけのかたちになっていたそうなんですね、社会のシステム全部が。それではだめだと彼女は強く訴えて、そのためにはひとりひとりが自分を見つめなおさなきゃいけない、そのためにはアートだとということで、プロジェクトを企画したそうです。話しはじめると止まらない、もうパッションのすごい人がいるもんだと思ったんですけど。
でこの地域には80くらいの町があるんですが、そのうちの22の町を彼女が説得しまして。炭坑の工場が全部閉鎖したあと、アートを町に入れようと。だけどアートなんか全然関係ないと思ってる人が圧倒的に多い、そこをなんとか説得したそうです。そのときに、22の町にひとりずつアーティストを派遣して、もう執拗なくらい、いやがられてもいやがられても、とにかくアートを住民の人にみてもらうという活動をやったと。でそのプロジェクトの名前が、フランス語で「ほら、アーティストが来たよ」というタイトルだったらしいんですね。それをやって、ある程度そういうことに関心をもつところが増えてきて、今では35の町が参加しているということです。とにかく、自分をみつめなおして社会を改造していく、そういうことにアートが使われている。
ここは工場の跡ですね。劇場になってるんですけれども、怪しいタンクかなんかがあって、面白いのは、鉱夫の人が採掘場にもぐるときに、自分の服を着替えてそれをこの上の滑車につるつるーと上げていくそうなんですね。で、この劇場が「首つり」とかいう含意のあるフランス語の名前がついてるそうです。これもアソシエーションていう、フランスでいうNPOの形式で運営されていて、「シーン・ナショナル」という国立の劇場のネットワーク組織にもここは指定されているということです。
それから、これは繊維工場です。何十年か廃屋になっていたものを大改修しようということで、工事が終わったばかりの状態で見せてもらいました。こんな感じで劇場を作っているということで。今回、フランスでは、工場ばかり、工場跡、廃屋ばかり見て来ました。おそらく日本人のツアーで、美術館じゃなくて工場ばっかり見た集団はぼくらが初めてじゃないかと思うんですけれど(笑)。行く先行く先ですべて、そこを選んでいるわけですけれども、余った建物をアートスペースに改修するというのが当たり前というか、むしろそれ以外の方法は考えられないというくらいに、フランスではこういうことが定着している。むしろイギリスよりそうなんじゃないかという気がすごくしました。で、こういうおしゃれなレストランがあったりもします。
ここからはリールです。リールでは、何ていう名前だったかな・・「メゾン・フォリ(maison folie)」というプロジェクトが進んでいまして、工場のような廃屋になったものを文化的なスペースとして改修しようということで、そのプロジェクト全体のことをメゾン・フォリと呼んでいるみたいです。リール周辺地域を含めて、今22のそういう場所があって、これはそのうちのひとつですね、「ラ・メゾン・フォリ・ドゥ・ルベ」、もとの工場を改修したものがこの部分で、ここは新しく作られた劇場だと言っていました。ここでは、子どもの作品の展示が行われていたり、写真の展示があったり、それからこれはレジデンスができるんですね。こういうベッドがぽんぽんと置いてあって、なんかすごく、ゆるゆるでしょこれ。もともとの落書きなんかもそのままなんですね。で、キッチンがあって。ここで30人だか40人のアーティストが滞在して、作品を作ることができると。ちょうどコンテンポラリー・ダンスのフェスティバルをやってまして、この日の夜はスイス人のダンスの公演を見ました。
これもメゾン・フォリのもうひとつのタイプでして、「メゾン・フォリ・ドゥ・ムラン」ていうんですね。もともとビール工場だったところで、ここも廃屋になっていたものを改修してやっていると。ここも基本的にレジデンスがおこなわれて、パフォーマンスもおこなわれそうです。
一番ぐちゃぐちゃした状態だったのは、この「メタリウ」というアソシエーションなんですけれど、これは完全に民間ベースで、廃屋の工場に、やっぱりアーティストの創作の現場、14、5人のアーティストが住み着いているって言ってましたけど、フィルムを作っている人もいれば衣装を作っている人もいれば装置を作っている人もいて。本当に怪しいものがいっぱいあって、宝の山という感じでした。ちゃんと小さな劇場もあって。これ、日本だととっても劇場とは呼ばないだろうっていうような、ほんとに汚いんだけどおかまいなしで、適当に椅子を置いて劇場になるっていう感じですね。他に、こういうサロン的な場所もあるということです。
ということで、ざっと流してしまいました。要するに、大阪市がやられていることは、さっきの佐々木先生の話でも横浜市はバンカートなんかやってますけれども、バンカートよりもこちらのほうがたしか早いと思いますし・・何て言うんでしょう、この場所のこの雰囲気っていうのが、フランスで見てきたこの怪しい、このどういえばいいんだろう、この新世界のエリアもそうだし、ゆるゆるした、怪しいものから新しいものが生まれてくる、そういう雰囲気を非常に持ったエリアで、それは決してここのフェスティバルゲートだけではなく、ヨーロッパでは日常茶飯に起こっていて、当然そういう場所はマルセイユもリールも市が大々的に支援してますし、今さらこれを止めるというのは、国際的なトレンドとは真っ向から反対方向に行くんではないのかな、ということを思いながら帰ってきました。
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