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日々是ダンス。踊る心と体から無節操に→をのばした読み物


26 京都の暑い夏2007ドキュメント Vol.1



                 VISIONS ON THE EDGE

                                     レポーター:真下 恵
                                     写真:佐藤圭一郎

Contact/Partnering C-3 4月27日(金) 〜5月6日(日) 16:00〜18:00  但し5月1日(火)は休み 全9回
[概要] ベルギーダンス界の寵児ヴィム・ヴァンデケイヴュス率いるカンパニー「ウルティマ・ヴェス」。そのカンパニー独自のパートナリングを学びます。テクニックよりも動きそのものを重視し、パフォーマンスにおける意図、インパクト、他者とのコミュニケーション、音や空間との関わり、「表現」としての動き、演技、想像と感情、これらのキ−ワ−ドを通して「ウルティマ・ヴェス」特有のハイヴォルテ−ジなエネルギーに触れることになるでしょう。重要なことはそれぞれの「限界点/Edge」を超えることです。(コンタクト経験者&C-1受講者対象)※要スニーカー持参。




 
  イニャーキ・アズピラーガ(ベルギー/ブリュッセル)イニャーキ・アズピラーガ 身体と身体が限界において対峙する際に生まれる測り知れないエネルギー。その未知のエネルギーを循環させその渦に人を巻き込む彼のクラスで、動くことへの衝動を抑えることはできない。バスクフォーク、クラシックバレエ、モダン、コンテンポラリー・ダンスを学び、ダンサーとしてヴィム・ヴァンデケイビュス、マチルド・モニエ、スペイン国立バレエ他、多くの一流カンパニーの作品に出演。ブリュッセルを拠点にヴァンデケイビュスの振付アシスタントを勤める他、ニード・カンパニーなど多くのヨーロッパのカンパニーにレッスンを提供している。パフォーマー、WS講師として数々の経験に裏打ちされた魅力溢れるレッスンが好評。(提供:京都の暑い夏)
 


 イニャーキのクラスを受けるのは今回が初めてでしたが、彼が所属するベルギーのダンス・カンパニー「ウルティマ・ヴェス」のビデオを以前に見たことがあり、その興奮冷めやらぬまま今回のワークショップ(以下、WS)に挑みました。

 WS初日に初めて会った時のイニャーキは、ロン毛のスパニッシュなおじさんで、ちょっと打ち解けづらそう、という第一印象でした。でも、なかなか話しかけることができず、もやもやとしていた三日目。「So, let’s start!(それでは、始めましょう!)」と、とても四十代には見えない身軽さで階段を駆け降りてくる彼の足もとを見ると、ガムテープでつくった名札に書かれていたのは、「稲垣」。
 ……。一瞬で恋に落ちました。

 さて、クラスの構成として最初の30分ほどはウォームアップに割かれるのですが、本人も「僕のクラスでは、“ダンス”ではなく“動き”と呼びます」と言うように、ダンス・クラスというよりは完全に陸上部の部活といった感じです。
 初日からスニーカーを履いて円になりぐるぐると走らされ、くたくたになったところで今度は後ろ向きで逆走。一息つく暇もなく階段を駆け上がり、飛び降り、そのあとは腕立て、腹筋、背筋、etc.……。
 「9日間、体力持つかしら……」たぶんその場にいた誰しもの頭をよぎったことでしょう。
 

 
 テクニック、柔軟性、リズム感などは彼のクラスではほとんど重要ではなくなります。「Wake up the instinct.(人間の本能を呼び起こす)」それが彼の最も重要視すること。だから彼のクラスではダンス経験あるなしにかかわらず、受講者はダンサーとしてではなく人間としてみな同等なのです。

 クラスの後半はたいてい毎回違ったパートナーと二人一組になり、イニャーキが見せるお手本のもと、いろいろな方法での持ち上げ方だったり支え方だったりを練習します。終盤になるにつれ難易度は上がっていくのですが、まず初日にやったことは、相手の掌と自分の掌を合わせるだけのとてもシンプルなエクササイズ。
「It is not pushing, but giving and sharing.(押すのではなく、与え分け合うのです)」
イニャーキと合わさる自分の掌を見つめながら、頭の中が?マークでいっぱいな私。ぼんやりと頭の中では理解しても、実際に動きになったときにその違いを理解するのは難しいものです。
「二つの体が一緒にただ身体的に動くのではなく、精神的に二人が一つになり、その一つのものを二人で共有するのです。それはシンプルなアイコンタクトでも同じことであり、それがパートナリングで最も重要なことなのです」
さすがに初日からそんな哲学的なことを言われても、ただただぽかーんとするのみでしたが、終盤動きが複雑になっていくにつれ、頭ではなく体が理解していくようになっていきました。

 例えば、最終日には今まで練習してきたエクササイズを組み合わせて少し長めのフレーズをしたのですが、相手のことを考えている時点ですでに動きはスムースにいかなくなります。かといって自分勝手にやっても、もちろんそれはうまくはいきません。相手が自分の一部となり、自分が相手の一部となることが大切なのです。そしてそのときに何がいちばんネックになるかというと、日本では美徳とされる謙虚な気持ちです。「こんなにぶつかって大丈夫かしら? こんなに引っ張って痛くないかしら?」と思っている限り、ある一定の枠から抜け出すことはできません。
 

 
 最終日の後半、誰もがくたくたに疲れきっているとき。普段人を持ち上げることに慣れていないため悲鳴をあげている腰、青あざだらけの手足、そういったものを含めいろいろな感覚がおかしくなっていたとき、最後の最後に挑んだラスト・ラウンド。

 「Visions on the edge」

 

 
 

 
 

 
 まさに今まで持っていたダンスに対する概念の「ふち」を「視覚的」にとらえ、そして体で感じた瞬間でした。できるかな? できないかな? 変じゃないかな? 相手に迷惑かな? 私重くないかな? 格好悪いかな? そういったすべての「かな?」が吹き飛んだ、とても心地の良い瞬間でした。

 今回彼のクラスを受けて、もちろん技術的にも学んだことはたくさんありました。でもなにより、いかに今まで自分が居心地のよい楽な枠の中で生きてきたか、そしてその枠の「ふち」まで行ってみる、もしくは突き破ってみることがいかにエキサイティングで素晴らしいものかを学ばせてもらいました。きっとそれはダンスだけに限らず、充実した色鮮やかな人生を送る上での必要不可欠なエッセンスなのだと思います。

 最後にこのすばらしいダンス・ワークショップ・フェスティバルを企画、そして継続されているスタッフのみなさまに心から感嘆、感謝いたします。

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