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日々是ダンス。踊る心と体から無節操に→をのばした読み物


26 京都の暑い夏2007ドキュメント Vol.1


                 楽しかったキッズクラス

                                  レポーター:森本万紀子 [dance+]
                                  写真:田邊真理

Kid’s Class H 5月4日(金)〜6日(日) 13:30〜14:20/14:30〜15:20 全6回
[概要] 昨年実施して大好評のこどもクラス! 海外・日本の第一線の振付家が「今、こども達と身体でコミュニケーションしたいこと」を、一緒に楽しみます。坂本さんのクラスは触れたり、マネたり、ごろごろしたり… とても日常的。サンチャゴさんのクラスは言葉も通じないしちょっと特別。砂連尾さんのクラスではそれまでの経験を総合してちょっとしたダンスを創ってみます。こども達の創造性とアーティストの出会いです。





 
  サンチャゴ・センペレ (フランス/パリ)創作を通じて自身の魂と身体の起源を深く探る旅を続ける彼の作品は、古さと新しさ、西洋と東洋、身体と精神に対する深い洞察に満ちている。自身のダンスの起源を求める遍歴はフラメンコ、インド舞踊、能までに及ぶ。また、ボディワークへの造詣も深く、ヨガの他、アレクサンダー・テクニークの講師としても多くの指導にあたる。身体のあり方を見つめる彼の視線は日本でも多くの人に支持を受けている。'92年バニョレ国際振付家コンクールにて受賞。'94年、Villa九条山に滞在。以降、暑い夏事務局の求めに応じて多数来日。フェスティバルの産みの親でもある。(提供:京都の暑い夏/Photo: office kuppa)
 
 

 
 のっけから個人的なことになりますが、我が家にはこどもがおりません。でも、音楽家である夫がこどもや知的しょうがい者のための音楽ワークショップをよく頼まれることもあって、最近はこどもたちの話題が多くのぼります。加えて2人とも松山大学ダンス部の大ファンであるため、なんというか、もうちょっとした保護者のような気分になることもしばしばなのであります。
 さて、夫がよく言うのは、音楽にしてもダンスにしても、こどもであってもおとなであっても、「その人間が見えてくる」ということが素晴らしいことなんだ、ということです。私はアメリカ学園映画のファンでもあるのですが、このある種プログラム・ピクチャーのような、さして代わり映えもなく紋切り型であると思われる節のあるティーンの物語も全て、さまざまな道を通って自分らしくあることを描くものとも言えます。
 今回サポーターとして参加したキッズクラスに関してレポートしようと思うとき、こうしたことが自分の中でひとつのふわふわとしたかたまりになってきたように感じています。

 昨年新設されて大好評だったキッズクラスは、今年も3名の日替わり講師を迎えました。坂本公成さん、サンチャゴ・センペレさん、砂連尾理さんです。私が参加したのはサンチャゴキッズでした。

 この日のサンチャゴは、かなり緊張していました。昨年の講師は全て日本人だったし、今年も外国人勢はサンチャゴのみ。ただでさえ分かりやすく、親しみやすくアプローチしたいキッズたちの前に、言葉の壁が立ちはだかるのですから、その緊張ぶりも想像がつくかもしれません。通訳に坂本公成さんがついてくださいましたが、私も一介のサポーターながら気を張っていました。
 ところがクラスが始まる前、ナオミちゃんが私の服を引っぱり、「ねえねえ、ボンジュール、シルヴプレ、ってお母さんが教えてくれたの。言ってくる!」とサンチャゴにアタック。私のささやかな緊張はそこで一気に溶けてしまいました。
 全体を見守っていてくれた、キッズクラスの企画者である小鹿ゆかりさんも、「こどもたちの視線が、まるで線になって目に見えるように、キューッとサンチャゴに集中して注がれていた」と振り返っていました。そのくらい、みんな全身が耳目と化したかのごとく、サンチャゴの一挙手一投足に釘づけ。ウォーミングアップのヨガも、おとなでも難しいルーティンに、キョロキョロしながらも黙々とついていきます。

 今年のキッズクラスは参加対象の年齢が、昨年の「5歳から10歳」という枠から「小学校3年生以上」に引き上げられました。これは小鹿さんいわく「今年は言葉を理解して、考えられる年齢にしようと。未就学児だと、まず集中するのに時間が割かれるので、身体どうこうというところまでいっているのかどうか、去年はちょっと見えづらかった」との理由から。
 そのナイス判断が功を奏したのでしょう、始まる前から跳び回り走り回って、ふくらむ期待とエネルギーとを持て余し気味に発散していたこどもたちも、この「違う言葉を話す人」サンチャゴに対峙するための適度な緊張感と集中の中に身を置き、さらに深い呼吸と全身をくまなく使ったヨガの流れるような運動の反復によって、心身ともに落ち着きを取り戻したよう。会場はしんと静まりかえり、こどもたちの顔には、期待も不安も恥ずかしさもイラ立ちも見られず、なんだかおごそかな気分になります。さあ、からだを使っていくための準備は万端です。

 ふたりひと組になって馬乗りになってのサムライごっこ。ししゃものように床に横たわってごろごろ転がる大人サポーターたちの上に、寝そべるだけで進んでいく波乗りごっこ。こどもたちの奇声も上がり始め、スピードもノリにノッてきます。
 

 
 指で空間に絵を描いて、それをしりとりみたいにつなげていく3Dお絵描きダンスでのこどもたちの変化がまた素晴らしかった。最初は家だとか船だとか具体的なものを指先でチックリチックリ描いていたのですが、指の代わりに肩や足、おしりやひじなどを使う発展バージョンになると、ダイナミックで抽象的な線や模様を描くようになっていきます。次第に絵を描くという目的から離れて飛び立っていくかのようなみんなの動きは、素朴で素直な小さな身体が奔放に自由さを獲得していっているほどに見えてくるのです。みんないい顔してる!

 汗を拭き拭き「盛り上がってきたなあ」と思って辺りを見回していると、ブレイクが入ります。この緩急の使い分けもサンチャゴ・マジックのひとつです。全員で手をつないで円になり、つないだ手をギュッと握るのを伝言ゲームのように回していくのです。私の隣にいたマミカちゃんは「これ目つぶってやったら面白そう!」と私に耳打ちしてきました。その実、次の段階が目をつぶってやるバージョンだったのです。
 だんだん速く。そして反対回りも。右手? 左手? まだかなまだかな、あっ来た! 混乱しながらも、みんな一生懸命! 自分のからだ、そして近くにいる人のからだが発する信号に全身全霊を傾けます。

 「キッズクラスは3日間を通して、振付をした日は1日もなかった。身体の中をみることや空間を感じることがダンスのひとつだということが、どの講師にも共通していた。こどもたちはそれに違和感を感じただろうけど、それを新しい気づきに置き換えようとする気持ちと、なれないで終わってしまったところと両方あるんだろうなあと思います。でもその抵抗みたいなものを感じてもらえれば今回はよかったと思います」とは見守り天使の小鹿さん談。
 ワークショップの最中は熱々のポップコーンのように弾けていたアツキくんも、終了後にアンケートに感想を書く段階になって、頭を抱えていました。彼が楽しそうにやっていたワークを「あれのこと書いたらええんちゃうん」といくら投げかけても「それもなんか違うんだよなあ……」と頭をボリボリ掻いています。
 付き添いにきてくれた叔父さんも「そら書けなくて当たり前やな」と、満足げに納得していました。この2時間で体験した驚きや楽しさや戸惑いは、言葉に置き換えられる以上のもの。「楽しかった、面白かった」とだけ言うのも「なんか違う」と感じているみたい。
 自分のからだ、広がる空間、周りにいる人たちを見て聴いて感じて、それを受け入れたり反発したり、すり寄ったり離れたり、時には緊張したり辺り構わずはっちゃけたり。この広い宇宙にひとつだけしかない自分のからだを通してふれあった、様々な言葉にできないものをほわほわと抱えて、みんな「楽しかった!」の一言を置いて帰っていきました。

 小さな身体に詰まっている、とても限られた知識と技術をフル稼働して、こどもたちは日々さまざまな未知のものとのファースト・コンタクトを繰り返しています。だから彼らの中から飛び出してくるものは、いっときはこどもであったはずの大人たちには、衝撃に近い。「うわっ、そう来るんだ……」と何度驚き笑ったか知れません。
 この2時間ほどの短い間に散りばめられた、幾多の輝かしい瞬間は、やはりこどもたちがその等身大の身体をめいっぱい使い尽くすことでしか遭遇し得ないさまざまなものとの邂逅による化学反応であり、そこを通してまた新たな自分の身体を獲得していく様子が立ち現れる瞬間でもあったのでしょう。ひとりひとりがひとりひとりであるというのが当たり前のこととしてそこにある多幸感と、この刺激はクセになります。
 そして忘れてはいけないのは、それらを引き出したサンチャゴの手腕です。昨年dance+のインタビューに対して、サンチャゴはこう語っていました。「振付家となると、(中略)人それぞれから何かを引き出す方法を知っている人がいい。あらゆる人たちの身体や心の中に隠されている宝物を引き出して、引っ張り上げるにはどうすればいいのか、知っている人」。
 まさに! と膝を打って、このレポートを締めくくりたいと思います。ビバサンチャゴ! ビバキッズ!
 

 
                               Special Thanks: 小鹿ゆかり(underline)

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