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「その鉄塔に男たちがいるという」 松岡永子
 その鉄塔に男たちはいる。鉄塔は戦場の中に不自然に立っている。男たちは慰問団「コミックメン」のメンバーだ。一週間後のゲリラ一掃作戦の噂を聞き、人殺しの片棒をかつぎたくないと駐屯地を逃げだしてきた。戻ることもできず、これ以上離れるわけにもいかず、「比較的」安全だろう鉄塔の中階にいる。宙づりのサンクチュアリの中で、彼らは些細なことをめぐって言い争う。まるで小学生のけんかだ。大の大人たちの子供っぽい言い争いとそして話し合いの結果、彼らは、殺伐とした「そういうもの」からはできるだけ遠い存在でいよう、キリギリスとして冬になっても唄ってみせよう、という結論に達する。けれどもちろん、「そういうもの」から距離を置いた安全な場所にいるというのは幻想で、その時が来たら「そういうもの」のただなかに引きずりだされるのだ。

 物語に寓意を求める者には便利な話だ。たとえば。戦争・紛争の絶えない世界の中で保たれている不思議な平和を永遠のものだと信じている日本。たとえば。不景気で就職活動に走り回る周囲に背を向け稽古に没頭する演劇サークル。たとえば…。
 いくらでも考え付く。もちろん、寓意など読み取る必要はない。ただ、そんなふうにくくってしまうことができるということ。そんな構造の整い方や、暗示でいいと思われることをはっきりと言葉で示してしまうわかりやすさはこの話の弱さかもしれない。

 物語構造自体は「初恋」や「錦鯉」にも同じものがあった。苛酷な大状況の中にぽっかり浮かんだ、奇妙な均衡を保った世界。台風の目の中での物語。嘘のように晴れわたった場所、しかし少し状況が動けば破滅、進むことも退くこともできない。
  「目の中の物語」のためには、台風の苛烈さ巨大さを示すためには、たとえば科学的数値のような細部は必要ない。目から一歩出たところにある暴風雨の中には、そしてそのむこうにも、もはや世界はないという確信、終末の予感を肌で感じている感覚。それだけあればいい。だから作者も、観客も、その世界の在り方を信じる前に「嘘っぽい設定ね」などと鼻白むことのないよう注意したい。MONOの芝居の面白さはそんなこととは別のところにある。大きな世界ではなく、その中にいる小さな人間を見る。彼らは実によくしゃべる。MONOのやりとりは決してモノローグの言い合いではない。会話だ。

 どうでもいいような些細なことを、反論する者がいるばかりに言い張ってしまい、大声で怒鳴ってしまう。自分でもバカらしいと思いながら意地を張ってしまう。仲間と仲間でないものを分けて、無視したり無視されたり。明確な悪意は存在せず、けれど善意などではどうにもならないつまらない諍い。小学校の教室で日々見られ、いい大人がすることではない、けれど思い当たる滑稽な言動。一方、何かを、たとえば死を、引き受けなくてはならなくなった時、怯えながらもそれを正面から受け止めようとする崇高さ。その滑稽さと崇高さを人間らしさだと考えているのだろう。その人間らしさを、いかにきめ細かく描けるかということがこういう芝居のリアリティなのだとわたしは思っている。
 その意味でリアリティは十分にあった。つまらない意地の張り合いや屁理屈や、そのいじましいばかりの大人げのなさは、もちろん誇張されたものではあるが、あまりにも思い当ることが多い。思い当たっているのはわたしだけではないと思う。観客は彼らのやりとりを自分とは掛け離れたものとして笑っているわけではないだろう。

ただ、そのやりとりがそれ自体としてふくらみを持つというよりはラストシーンへ収斂していく。

 ラスト、五人の男たちは自分たちに向けられた銃口の前でコミックショーを演じようとする。冬になっても蟻に救いなど求めず唄い続けるキリギリスは、でも少しかっこよすぎた。これは、かっこよく見えてしまったわたしへの不満なのかもしれない。蟷螂の斧は客観的には滑稽でなければならない。劇中で繰り返されるショーのオープニングの手振りのまぬけさ、「客観的には俺たち滑稽なことやってるのかもな」という台詞に、作者もそう思っているのではないかと想像するのだが。
 主観的には悲愴で英雄的で、表面的にはあくまで滑稽で。このバランスは微妙で難しい。見た回によっても違うだろう。ただわたしには、もう少しかっこわるい方が、素直に、彼らをかっこいいと思えただろうということだ。

キーワード
■OMS戯曲賞 ■再演
DATA

同公演評
箱庭のダンス … 浅川夏子
一瞬の生の煌きを … 栂井理依
濃密な劇空間が世界を撃つ … 西尾雅
戦争という不安の中で … 平加屋吉右ヱ門
鉄塔の男達のリアルな戦い … 橋本敦司

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