

ところで、なんでちょっと酸っぱいタレなん?
豊「私が好きやから」
ガクーッ(笑)、それだけかいな
豊「(笑)いやいや、油気のもんて、レモン汁かけるとさっぱりするやろ?そういう発想やね」
ははぁん、衣つけて揚げてるから天つゆ、なんやなくて、ポン酢をつけて食べる感覚に似てるね。ちょっと他にない<揚げ豆腐>で美味しいんよね、『豐』のんは。そういえば、豊さんが薦めてくれる食べ方って、私、すごく好きやねん
豊「好みがよう合うてるよなぁ。鱧(はも)は梅肉よりワサビとお醤油のほうが好きやし、<きずし>も生姜よりワサビやもんなぁ。せやけど、お客さんには、それでないとあかんみたいなことは言うたことないよ。皆さんそれぞれお好みがあるし、その人が一番美味しいと思う食べ方で召しあがってほしいから。例えば、泉州の水茄子をお出しするときでも、辛子醤油とか一味醤油とか生姜醤油とか、何種類かの中からお好みで選んでもうてる」
私なんか、日によって好みが変わるし(笑)
豊「そういえば、おでん食べてくれるときに日によって注文してくれるもんが違うなぁ。せやけど、不思議なもんでね、たいがいの人は注文してくれるもんが決まってるねん。<すじ>注文しはる人はたいがい<ころ>も注文しはるし、お豆腐の人は昆布とかコンニャクって言わはるし。で、<すじ><ころ>の人は、あと<玉子>やねん」
ほぉん。おでんの種で食生活の傾向がわかりますなぁ。なんとのぅ、風貌まで思い浮かびそう
豊「おでんといえばね、最初2、3年くらいは冬しかやってなかってん。ほな、読売テレビの山田さんていう専務さんが、おでん大好きで、‘ここのおでん美味しいから、1年中やったらええのに’って。‘1年中っていうのは、普通はおでん屋でないとせえへんで’って言わはって。で、即!それ言われた時から1年中おでんやったら、ものすご喜ばはってね。‘言うたら即するやなんてえらいなぁ、ここに来て、おでん残ってたら、みな食べてあげないかん’って、いつでも部下の人連れてきはったら、必ずおでん注文してくれはってん。亡くならはるまでずっと
へぇ。私、最初、『豐』の名物はおでんやと思ってた
豊「そやね、お能の先生方も、舞台の後やったら遅なるやん?ほんなら、電話で‘おだしだけでも取っといてーっ!’って言わはるもんね(笑)」
そうそう!ここのおでんのおだし、飲んでしまうもん!
豊「ほんで時々、‘このおだし、飲んでもいいですか’って聞かはる人あるけど、行儀悪いと思わはるのかなぁ。せやから‘いや、おだし飲んでいただくのが嬉しいんですー!’言うてね。おでんの種は、<すじ>や<ころ>や<袋>なんかはうちで仕込んでるけど、ごぼ天やコンニャクは入れたらええだけやし、そら、おだし飲んで‘美味しい’て言うてくれはるのが一番嬉しいよ」
ふふふふ(笑)、思い出した。前に能楽堂のアルバイトの女の子たちと忘年会さしてもうた時、寄せ鍋してもうたんやけど、あの子ら皆、おだし飲むから足りひんようになって(笑)
。よっぽど美味しかったんやろね
豊「お鍋は、美味しいとこが全部おだしに出てるんやから、そら飲むわな(笑)」
おでんの種と言えば、私、『豐』さんとこで初めて大根は冬のもんなんやって意識したん
豊「うち、大根にはものすごぅ、こだわりがあってね。お大根やねん、おでんは。お大根が全部の味を吸うから。せやから、おでん屋さんには1年中あるわな。せやけど、私は11月から2月の4ヶ月しか、おでんにせえへんねん。‘え!?おでんやのに大根ないのん!?’て言わはる人もあるし、‘夏でも美味しい大根あるよ!’って言わはった人もあるけど、‘夏でも美味しい大根、ぜひ持って来てください’言うたら、‘あ、いやいや…’って(笑)。あとで私も言いたいこと言いすぎたかなと思たけど、生でおろして美味しいのんと、煮いて美味しいのんとはちゃうからねぇ」
夏の大根と冬の大根は違うっていう味覚は誰でもあると思うねん。せやけど、年中あるから、それに慣れきってしまってると思うねん。私なんか、『豐』で‘そうなんや’と意識しだしてから、もうあかんねん。夏に煮いた大根は食べられへん(笑)
。大根もそうやけど、私はおでんの<すじ>、『豐』で初めて食べられるようになったん。それまで<すじ>って苦手やったんやけど
豊「<すじ>は1〜2kg買って、イヤなとこ全部取って、ほんとにええとこだけをボイルして2時間くらいコトコトコトコト。そら手間はかかるけど」
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