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私はいまだによう食べへんけど、<ころ>も相当こだわってはるよね

「え?うちの<ころ>、食べたことない?そらいっぺん食べて食べて(笑)」

いや、苦手なもんでも食べてみたい気はあるねん。せやけど、私、その価値ほど美味しいと思わへんのやないかと思て、躊躇してんねん(笑)。だいたい、今は子供の頃ほどやないけど、脂身ってあんまり好きとちがうし。どうもあの手のもんはなぁ

「<ころ>はね、高くてもええからって、ある所で仕入れてもらってんねんけどね。いつもちゃんと仕入れてくれはんねんけど、30年の間に3回かな、ボイルしてる間に脂くさいのよ。独特の臭い」

あ、それ、なんかわかる気がする

「<ころ>って脂くさいもんなんやけど、‘こらあかん!全然あかんわ’と思って、‘お金も返してくれなくていいし、品物も替えなくていいけど’って、仕入れてくれた人のために言うたん」

どこがちがうん?

「なんなんやろねえ…うーん…見た目ではきれいのよ、ほんとに。ところがボイルしたらイヤな臭いがすんねん。そういうことが2、3回続けてあって、言うたら、それからは2度とない」

ふぅん。なんぞ訳はあったんかなぁ

「そのかわり、ものすご高いねん。そんなんやから、<ころ>だけでもいっぱいエピソードあるもん」

へえ

「前に言うたことあるかもしれへんけど、会社の上司に連れて来られた若い人たちが‘ころ!ころ!ころ!ころ!’言うて一人2、3本ずつ注文しはって。言わんとこと思たんやけど‘えらいヤらしい話ですけども、<ころ>てものすごい、高いのご存知ですか’って言うたの」

自分で払うて食べてはるんやったらええけどね

「そう。知って注文してはるんやったらもってのほかやし、知らんかったら言うてあげるべきやと思うたから、上役の人がいてはってんけど、‘こちら(=上司)には関係なく私の意志でしゃべりますけど、<ころ>って、うちは細いのん出すのイヤやから太うに切ってありますけど、仕入れ値で1本何千円の世界なんですよ’って。そしたらびっくりしはった人もある。何人かで来はって皆さん<ころ>を注文しはったら、それだけで1万とか1万5千円になるやろ?しかも元値で。せやから、請求書をお出しする時のお手紙に‘たいへん恐縮ですが、お客様が<ころ>をご所望でしたので、ご了解やとは思いますが、<ころ>がお料理代の大半を占めております’って書くようにしてるねん」

ほな、<ころ>は儲けなしなんや

「せやけど、‘<ころ>が入ってないなんて、おでんやない!’言うほど好きな人もあるからね。別の時に、やっぱり若い人が3人でみえて、‘ころ!ころ!ころ!ころ!’って、やっぱり一人2、3本ずつ注文しはってね。それぞれポケットマネーで払うてはったけど…。せやから説明したん。そのうちのお一人は高いの知ってはったわ。その人、もうええ歳になってはるけど、いまだに言わはるもん。‘あの時、女将さんがちゃんと言うてくれはってよかった。よそやったらたいへんなことになってたと思います’って」



この真っ直ぐな曇りのなさ…この人の前なら、いつでも安心していられる。
きっと、常連客の誰もが無意識にそう思って足を運んでいるにちがいない。
そして、みんな、「‘ほんまにおおきに’は、こっちの言うこっちゃ」と思っているんだろう。
料理は、その人の心根を映すんやなあ…。
今日も美味しい『豐』のおだしをつい飲んでしまってから、今さらながら、そう思ったことだった。
いつ聞いてもなつかしく、時に、せつなく、心に響いてくる『豐』の話。
 
私の好きな大阪がここにある。

豊さんの能管(笛)の師匠・赤井藤男さん揮毫・作の「とよ」の額

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