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日々是ダンス。踊る心と体から無節操に→をのばした読み物


2008年6月号 京都の暑い夏2008ドキュメント



                動きたくなった自分を発見。


                                     レポーター:亀田恵子
                                     写真:大藪もも

Beginner Class F 4/26(土)〜5/5(月祝) 全9回
[概要] 毎年大好評の通称「サラダ・ボール・プログラム」。ダンスに興味ある方へのイントロダクション・レッスンです。世界で活躍する講師陣による様々なスタイル、考え方のダンスのエッセンスに触れることができるプログラムです。きっとあなたなりのコンテンポラリーダンスのイメージが広がるでしょう。ワークショップ終了後には講師との交流の場「アフタートーク」も。身体的にも知的にも刺激的な<場>です。




 
  シルヴァン・プルヌネック (France/Paris フランス/パリ)アンジェ国立振付センター振付講師。ダンスイクスチェンジ選考も行う。オディール・デュボック、エルヴェ・ロブ、ボリス・シャルマッツなど多くの著名なフランス人振付家の作品にダンサーとして活躍。またアメリカの振付家、トリシャ・ブラウン、デボラ・ヘイなどの作品にも出演。振付家としてもソロ作品やグループ作品を多数創作している。'00年よりアフリカのアーティストとのつながりを深め、'04年にはアヴィニョン・フェスティバルにてコラボレーション作品を上演。'08年、最新作“About You”をパリのポンピドゥ・センターにて上演。(提供:京都の暑い夏)
 

■ イントロダクション

 京都の暑い夏。このダンスワークショップフェスティバルは、ダンサーの研鑽の場であると同時に、ダンスにふれてみたいという一般の人にもオープンだ。例えばこのフェスティバルには「ビギナークラス」というコースが設定されていて、「サラダ・ボウルプログラム」なんて洒落た名前がついている。講師は世界で活躍する講師陣がそろう豪華なラインナップ。日替わりでさまざまなダンスメソッドにふれることが可能だし、ダンスについて考えたい人やもっと深く鑑賞したい観客、自分のダンススタイルを模索しているビギナーにとっては、本当に貴重な機会になっている。講師によっていろいろなアプローチがあるし、逆にアプローチが違っていても自分なりに見えてくる道筋のようなものもあるだろう。私が参加したのはフランスのアンジェ国立振付センター講師のシルヴァン・プルヌネックさんのコース。穏やかな笑顔がステキなシルヴァンさんのワークは大人気で、会場には20名を越える参加者が集まった。
 

 
■ 運ばれていく感覚と、連れていくこと

 最初のワークは2人1組になって、手をつなぐことからスタート。1人が目を閉じ、もう1人がつないだ手から相手を誘導していくというもの。目を閉じると目からの情報が遮断されるし、若干の不安や恐怖心もあり、意識が普段と変わってくる。相手の手から伝わってくる動きの方向を読み取り、動いていく。出来るだけ立ち止まらないようにするには、伝わって来る動きがどこへ向かおうとしているかを感じながら、自分がその動きの先に流れていくようにしないとスムーズにいかない。けれども、その流れを感じることが出来てくると、波に乗るような爽快さがあって、どんどん楽しくなる。腕が大きく天井に向かって弧を描くとふわりと軽くなるような感じがしたり、加わった力に思わず回転したら、社交ダンスのような動きみたいで驚く。動きが自然とダンスになっていくように思えた。

 次に行ったのは、同じペアで1人が動き、相手はその動きに少しガイドを加えるように身体にタッチしながら誘導していくというもの。今度は私がリードする側になったのだが、面白いのは、誘導される側は自分にとって気楽なのだが、自分がリードする側になると、途端に気遅れしてしまったということだ。多分、これは私の日常生活のスタイルが反映されているのではないかと思う。リードされることには慣れているものの、自分がまったく初めての相手と向き合ったときにリードすることの不慣れさが動きにも現れているのだろう。初めて会う人、初めて接する身体(どう動いてどんなクセがあるか分からない)に、自分の思うように動いてもらうには、相手の身体を知る=探ることがスタートだと思うのだが、この「探る」作業が自分はどうも苦手なようだ。探る作業というのはこの場合、相手に能動的にコンタクトしていくということ。例えば肩を押すと上半身はどこまで動くのか、腕はどこまで高く上がるのかといったトライをこちらからしていくなど。

 ダンスのワークショップに限らず、現実の物事はすべてを理解したり不安が解消された中で進むわけではない。「ここは楽しかった。ここは難しかった」。そういう事実を積み重ねて、その後の経験や体験の中からその理由を考えたり、理解していけばいいのだと思う。 


■ 腕を使って、何が出来る?
 

 
 シルヴァンさんのワークは、とてもシンプルなもので構成されていた。説明される言葉もやさしく、実際にトライする動きもシンプルそのもの。ストレッチを兼ねて、コンタクト・インプロのワークの次に行ったのが「腕を使って動いてみる」ということだった。私はダンスのワークショップに時々参加しているが、実は振付を覚えるのがとても苦手だという意識が強い。目で見た動きを自分の身体で再現することが、とても苦手なのだ。だから、振付を覚えなければならないワークになると、もう逃げ出したくなってしまう。苦手意識が動きを余計に限定してしまう傾向があるようだ。ところが、今回のシルヴァンさんのワークでは「腕を振って、その力でジャンプしてみよう」という簡単なもの。腕を振ることなら、私にも出来る。腕を振ることにジャンプをプラスすればいいだけだし、同じジャンプでも腕を前に振り上げれば上に飛べるし、背面に向かって振れば後に飛べる。左右に腕を振れば、左右にも移動出来る。簡単でシンプルな中にバリエーションがある動き。苦手意識が解消された後だったためか、この動きが楽しくて仕方がなくなってしまった。


■ 集中と解放…… ダンスの楽しさを実感したひととき

 腕をよく使った後だったためか、私はこのワークで自身に対して驚きの発見をした。腕を使ってジャンプするワークに、音楽を使ったときのこと。シルヴァンさんが用意した音楽が頭出しで少しだけ流れた瞬間、私は思わず自分の肩がすごく動きたがっているように感じた。ほとんど条件反射的に肩からジャンプする仕草をした。普段は人前で大きな動きさえするのが照れくさい私には、それがすごく不思議な出来事だった。周りの人は思わず動き出した私を見て、笑顔になっていた。「ダンスの楽しさってコレかな?」ふとそんなことを思った。その後のワークでは、全身汗ビッショリで息もあがってしまうほどだったが、自分でも笑えてしまうほどいろんな動きが出来た。空いている場所に飛び込んでいくときの新鮮な気分や、誰かの動きを真似してみたり、とにかく床と接している自分の身体がいろんな場所になるように考えて工夫したり、他の参加者の足音に反応して自分は手を叩いてみて違う音を空間に投げてみたり。クリエイションなんていうと難しく聞こえそうだが、自分と周囲をよく見つめる作業の中から、「こうしたらおもしろいんじゃない?」というトライを重ねていくことが結果的にそうなるのなら、とても自然なことのように感じる。

 自然なクリエイションが生み出されていく環境づくりが、自身の身体を知ることや相手の身体を知ることであり、空間と自分との関係を観察することなんだと体感出来たワークショップ。自分、パートナー(他者)、空間への集中がハッピーな解放を連れてくる。ダンスの楽しさを心から味わえたひとときだったと思う。楽しかった!

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