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日々是ダンス。踊る心と体から無節操に→をのばした読み物


2008年6月号 京都の暑い夏2008ドキュメント



                シルヴァン・プルヌネック インタビュー

                             インタビュアー:中山登美子+吉川ベアトリス
                             翻訳:中山登美子



 
  シルヴァン・プルヌネック (France/Paris フランス/パリ)アンジェ国立振付センター振付講師。ダンスイクスチェンジ選考も行う。オディール・デュボック、エルヴェ・ロブ、ボリス・シャルマッツなど多くの著名なフランス人振付家の作品にダンサーとして活躍。またアメリカの振付家、トリシャ・ブラウン、デボラ・ヘイなどの作品にも出演。振付家としてもソロ作品やグループ作品を多数創作している。'00年よりアフリカのアーティストとのつながりを深め、'04年にはアヴィニョン・フェスティバルにてコラボレーション作品を上演。'08年、最新作“About You”をパリのポンピドゥ・センターにて上演。(提供:京都の暑い夏)
 


 ワークショップを通して受講者に伝えたかったことは何でしょうか?

シルヴァン(以下、シル) わたしは午前と午後の2つクラスを受け持っていますが、それぞれ、少し違う目的を持っています。午前クラスはテクニック、そして、ダンサーとフロアとの関係性を中心に指導していきます。例えば、身体に流動性を身につけるテクニックや、またこれとは逆に、身体のコンパクトな状態を強調するテクニックなどを教えます。そしてこの2つの状態を結びつけようとしたり、ある状態から離れて次の状態へと入っていくワークをします。床については、これはダンサーにとって最も大切なパートナーですから、わたしたちは床と一緒にワークをしなければなりません。床を押したり、掘ったりするような練習もしました。クラシックバレエの動きはフロアから離れて、上へ上へと向いますが、コンテンポラリーダンスは地に結びつき、重力によって身体を動かすことが多いので、床はとても大切なのです。芸術センターの広い木造のフロアは、わたしの大のお気に入りです!
 午後クラスはまた少し違って、わたしが作品で取り組んだ考えをいくつか伝えようと試みています。その1つが例えば、2、3年前の作品で重要だった「身体体節」というか、区分された身体についての考えです。まあ、身体分離作用についてのリサーチですね。例えば、身体の一部、先ずは足だけに焦点をあて、残りの部分とはまったくつながっていないように引き離してみる。身体を分離させておいてから、再度、構築しようとします。このレッスンを通して、1つの動きをダンサー間でシェアできる形にまで発展させることができるのです。ある意味、午前クラスはいわゆる身体の結びつき、午後クラスは分離がテーマとも言えますね。
 もう1つ、午後のクラスに伝えたいことは、わたしたちのダンスを観てもらうためにどうやって人を招き入れるかですね。最近の脳科学研究分野では、動いている人たちの脳内と、その動きを観ている人たちの脳内では、同じミラー・ニューロンが作用することが解明されました。つまり、観ている人たちの脳内では、実際にそのダンサーの動きを鏡のように反射するというわけです。これは、ダンサーであるわたしたちが、自分のしていることの中に観ている人たちを実際に招き入れて体験してもらうことができる、ということです。

 クラスではエチオピアの歌手‘Gigi’の音楽を使っていましたが、この音楽を選んだきっかけはありますか?

シル エチオピアの貧しい家庭に産まれた双子(gemini)たちを援助している‘Gemini Trust’というイギリスのNGO団体があるんですが、そことの仕事の依頼を受けたことから始まって、わたしはもう10回はエチオピアへ出かけました。‘Gemini Trust’は、アジスアベバの150人ものストリート・チルドレンにダンスレッスンをしているイギリス出身のコリオグラファーと一緒に仕事をしていて、その中から20人を選び、ダンス教育を受けられるチャンスをつくってあげたのです。わたしはこの20人中の16才〜18才の若者たちと一緒にダンスのクリエイションと、そのパフォーマンスを実践。その後、交換制度も実施し、その中からさらに4人をフランスに招待して、エチオピアのミュージシャンと一つのダンス作品を創りあげたのです。この作品はパリとモンペリエのフェスティバルでも開演されました。このプロジェクトは2004年まで続き、この時、コンゴ民主共和国のコリオグラファーと出会ったんです。彼はアヴィ二ヨン・フェスティバルでわたしに一つの作品を振付けてくれたという経緯もありましたね。その後、エチオピアーコンゴ民主共和国ーフランスの共同作品を創り、それぞれの都市で上演されています。この異国文化交流体験はとても素晴らしく、ここ日本で教えている中でも、その頃のムードが少し感じられるのかもしれません。ちょっとだけ、あの頃の‘スウィング’がね!

 今回のワークショップでの受講者の手応えはいかがでしたか? 面白い反応を感じられましたか?

シル ワークショップ初日と、その後での彼らの変化がとても面白かったですね。わたしのクラスにはクラシックバレエ経験者が2、3人参加していて、始めは彼らがバレエとは違うモードに切り替えていくことにかなり苦労しているのがよく分かりました。わたしは彼らに、バレエとはまた違ったフロアとの関わり方、そして、1つのポジションが面白いのではなくて、ある動きから次の動きへ入っていくことが面白いんだ、ということに焦点をしぼって教えていきました。ものの数日で、彼らが変わっていくのを見るのは驚きでしたね。
 そして、夜のビギナークラスも最高でした! 初心者もそうではない人も、若い人も歳を重ねた人も、男性も女性もみんな混ざり合っていました。まったく、信じられないくらい、すごく活き活きとしている! 本当に素晴らしかった!

 これまで参加されてきた他のダンスイベントと比べて、この京都の暑い夏フェスティバルのユニークだと思うところはどういう点でしょうか?

シル 先ず1つ、わたしがとても好きなのは、スケールがちょうどよいところ。と言うのは、2、3年前、モスクワのイベントに参加したとき、それがまるでスーパーマーケットのような巨大事業的なスケールで、参加者たちはそれぞれのコーナーで、欲しいモノを単に持ち帰っているだけのようだったんです。持続性にも焦点にも欠けていました。何かに関わり参加し、交感交流するには、少なくとも2、3日は同じ人たちと過ごす時間が必要です。その点、京都の暑い夏フェスティバルでは、たくさんの面白いことが起きている一方で、非人称の不特定多数ではない、人の顔が見える小さな規模の雰囲気がありましたね。このスケールだからこそのオーガナイズの仕方は、参加者も集中できます。人に出会うのも、そしていろいろなことを議論するのもやりやすいですよね。場所もユニークでしたね。特に、芸術センターのフロアはとても素敵です。京都という町もとても美しい静かな素晴らしい場所で、わたしは自転車に乗って京都探索を楽しんでいます。
 もう1つ、このフェスティバルの素晴らしいところは、ボディーサロンがあること!指圧マッサージを受けることがとても楽しみですね。もちろん、今夜も行きますよ。

 ダンサー、コリオグラファーとして大事にされていることは何でしょうか?

シル わたしにとってもっとも大切なことの一つは、踊ることと、観客を前にした時の在り方の新しい方法を常に見つけていくことでしょうか。それは例えば、「今、自分の身体に何が起きているか?」とか、「シンプルなことからどのような動きが創れるか?」と自問することで獲得できます。
 ミュージシャンなど、違う分野で活躍するアーティストたちとの交流からも、新しい方法を見つけるためのインスピレーションを得られますね。たとえば、わたしは長い間、他のコリオグラファーの作品で踊っていたんですが、初めて自分の作品を創る機会が訪れた時、エレキギターのミュージシャンと出会いました。そして彼の音楽を聴いて、単に歩くだけでも、まったく違う新しい歩き方を見つけることができるかもしれない、と自分に言い聞かせたんです。こんな出会いからも自分の最初の振付に直面して、もっとラディカルでシンプルな何かに立ち返る必要性を感じたんです。

 観客としてダンスを観る時、何を大切にしていますか?

シル わたしがダンスを観る時は、ダンサー自身を「通り抜け」たい、つまりそのダンサーが体験していること自体を体験したいんです。わたしは彼/彼女のダンスの中に引きずり込まれたいんです、そこに巻き込まれ、関わりたい。これは、先ほど脳の活動とミラー・ニューロンについて述べたことにも関わっています。ダンサーの中で起こっていることをわたしが体験できるよう、彼/彼女たちのダンスが私の脳を発動させてくれれば、その瞬間こそ、わたしが彼らダンサーを通ってその体験を共有できる瞬間なのです。これはダンスの様式にかかわらず、どんなダンスでも起こり得ることですよね。

 日本のある人たちは日本がヨーロッパの影響を受けて、日本の伝統文化が消えていくのではと心配していますが、日本のダンス分野についてはどう思われますか?

シル 20世紀、日本は舞踏を誕生させ、ヨーロッパの、たとえばフランスのダンス界に強い影響を与えました。同様に日本人ダンサーもヨーロッパや他国から影響受けているかもしれませんが、異国のダンサー同志の出会いはお互いを高め、新しいダンス方法を受け取り合います。そのことが、それぞれ独自のダンス創作へと反映していくものです。違うダンサーとの出会いは、インスピレーションを得るチャンスだし、新しいテクニックを得られるかもしれない。その上で自分のクリエイションを続けていけばいいのです。何も心配する必要はないと思いますよ。それどころか、何かを共有(シェア)することは、人間をとても豊かにしてくれます。
 とはいえ、心配する人たちがいることも分かります。アフリカで仕事をしたとき、それは白人のコンセプトを押し付けようとするコロ二アリズムではと危惧する声がありましたからね。しかし、わたしがもっとも大切だと思うのは、何かを共有(シェア)するという精神のもとに、共にワークすることです。1つのやり方を押しつけることではありません。わたしは20年間、ダンス分野で仕事をしてきましたが、そこで得た独自の方法を伝える努力をしてきたつもりです。相手はその中から何かを選んで受け取ることができるし、受け取らないこともできます。

 ヨーロッパではコンテンポラリーダンサーとしてスタートするのに、クラシックバレエの基本教育を受けてないといけない、というような傾向はまだありますか?

シル 特にはないですね。今は多くのダンサーたちが他の分野で活躍した後に、コンテンポラリーダンサーとしてスタートしています。例えば、それまでスポーツ指導員として仕事をしていた人たちが、けっこういますね。彼らはその経歴からダンスワークショップを体験できる機会があったかもしれないし、その後にスポーツからダンスへと移行したのかもしれません。昔は、‘Conservatoire National Superieur de Music et de Dance de Paris(パリ国立音楽院・舞踊院)’のような機関ではクラシックバレエしかなかったけれども、今日ではコンテンポラリーダンス部門に直接に入っていけますよ。

 ふだんの生活のなかでダンサーとして特に心がけていることはありますか?

シル うーん、われわれ人間は誰しもがそれぞれにリスクを負いながらも、お酒を飲んだりタバコを吸ったり、自分の好きなように生活していますよね。個人的な話ですが、この質問の答えになり得る1つの体験談をお話しましょう。以前、アメリカのダンサー/コリオグラファーであるデボラ・ヘイが主催した面白いイベントに参加したときのことです。参加者たちは、マントラ、つまりそれぞれが心の中に保持しているキーフレーズをベースにして、即興でダンス作品を創っていきます。そのマントラは「身体はその欲するところを得る(The Body Gets What it Needs)」というもの。参加者たちは、ただ「それを得る(get)」ことがねらいです。それが何なのか分からなくてもね。同時に、自分を取り巻く人々をも「得る(get)」、そして彼らを、自分を観るという体験の中へと招き入れようと試みます。わたしたちは3ヶ月ほどワークを積み重ねました。毎日、心の中のマントラとともに、ある種の構造と取り組みました。それと同じような方法で、わたしは日々の生活の中で、環境に敏感であるよう心がけ、その環境の中にわたしの動きの要素を見つけ、その体験の最中にあるわたしを観るということに人々を招き入れていこうとしています。

                                       (5月5日/京都)

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