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日々是ダンス。踊る心と体から無節操に→をのばした読み物


2008年6月号 京都の暑い夏2008ドキュメント


                 身体を深く観察するワーク。

                                     レポーター:亀田恵子
                                     写真:大藪もも

Body Conditioning B 4/26(土)〜4/30(水) 10:30〜12:30  全5回
[概要] やさしく、ゆっくりと身体の知覚を覚醒させるためのモーニング・レッスンです。「動く瞑想法」とも言われるフェルデンクライスなどのメソッドを使い、神経回路のチューニング、身体機能の統合、動きを通しての気づきを促します。それぞれの動きの癖やこわばりなどに気づくことで、感覚を研ぎすましつつより効果的に動ける方法を探求します。





 
  ヌノ・ヴィザロ(フランス/アンジェ)リスボンにてコンテンポラリー・ダンス、即興を始める。’90年よりポルトガルの数名の振付家の作品に参加。近年はベルギー、ドイツ、フランスにてグザビエ・ルロワ、ボリス・シャルマッツ、メグ・ステュアート、マチルド・モニエなどの現在ヨーロッパで最も先鋭的な作家の作品に出演し、エマニュエル・ユインとはいくつかのコラボレーション作品を創作している。フェルデン・クライス・メソッドに精通し、パリで定期的にダンス指導に従事している。フェスティバルのオープニング公演でカトリーヌ・ルグランと踊るデュオは必見。(提供:京都の暑い夏)
 
■ イントロダクション

 ボディーコンディショニング、というプログラム名に惹かれて参加したヌノ・ビザロさんのコース。「コンディショニング」というのは、整えたりケアをするということなのですが、身体を整えることってどんなことをするのだろうと、興味津々でした。
 
 27日、会場に到着。すでに先に来た参加者さんたちは着替え終わって、床に寝転んでストレッチをしたりしています。私は普段ダンスをする機会もなく、どちらかというと運動音痴で、それに対して小さなコンプレックスさえ持っています。「どうしよう、はじまるまで何をして過ごしたらいいんだろう……」。着替え終わったあとは、とりあえず他の方がいる場所でペタンと座ってみたものの何をして過ごしていいか戸惑っていました。

 でも、落ち着いて考えてみれば、別に何かしていなければならないという決まりはありません。みんな好きなようにしているだけで、それがストレッチだったりリラックスして横になっているだけなのでした。他の方からのプレッシャーがおさまると、今度は自分に意識が戻ります。クッションも座布団もない床に座っていると、お尻が痛いと思っている自分に気づく。寝転がるのには、まだ気恥ずかしさがあったので、ちょっと足を開いて片方のつま先をさわりながらストレッチをしてみました。……か、かたい! 自分の身体がすごく硬いことを再確認します。続いて、足の親指に意識を持っていき、動かしてみました。「あれ?」と思いました。指は、自分が想像していたように動いていないのです。次に膝も動かしてもみたのですが、やっぱり想像と違う動き方をする。「もしかしたら、自分は自分の身体の動きを知らないのかも知れない」。そう思いはじめた頃、ワークショップがはじまりました。


■ 身体を観察する=身体感覚を見る
 

 
 ヌノさんの声はとても穏やか。通訳の方に適宜ヌノさんの言葉を日本語に訳してもらって進行するワークショップは、英語があんまり得意ではない私にもちゃんとついていけるものだったので安心しましたし、ヌノさんもご自分のやりたいことを完璧に言葉で説明したいとは思っていないのだと感じました(ワークショップのはじめの方に「今日は出来るだけ通訳を減らしていきたいと思っています」とおっしゃっていました)。言語の差は事実としてありますが、声のトーンや仕草が言葉よりも伝えてくれることってありますよね。

 床に仰向けに寝転がり、静かに目を閉じ、自分の身体に起こっていることを観察する……。私が受講したヌノさんのクラスの前半は、このワークに多くの時間を割いていました。目を閉じるということは「目に見えていること」を観察するのではなく、自分の身体に生じている感覚=目には見えないこと、を観察することなんだなぁと思いました。床に接している背中の感じ、呼吸をしたときの胸骨の辺りの変化、膝を起こしたときには背中の感じは変わったか、呼吸は変化したか? 身体に起こる小さな変化を観察する時間。特に私がおもしろいと感じたのは、ヌノさんが何か1つ動きを入れた後に必ず「床に戻りましょう」と、意識を常に床に戻す点。普段あまり意識しなかったのですが、自分が立っている場所(この場合は寝転んでいる場所ですが)を意識することで、身体が安定するような気がしました。

 「大きな動きをすると、身体全体の動きが見えなくなります。小さな動きでいいので、その動きをすることによって、身体全体はどう動いているかをよく見て下さい」。フェルデンクライスというメソッドに精通しているヌノさんのワークは、自分観察の連続でした。普段自分の身体を感じるときは、お風呂に入ったときや転んでケガをしたり、風邪を引いて熱を出したときくらいの私にとって、このワークに使う集中力は経験したことのない種類のものです。はじめのうちは観察といっても、目で見ているのと違い、1つ1つの観察はぼんやりとした雲をつかむような感覚に思えました。ですが、そのモヤモヤが前半の終わりには、少しずつ自分の中でつかめて来たように思います。

 こんなワークがありました。

 1 仰向けに寝たまま、床に伏せてあった右手をゆっくりと起こして尾骨部分に指先を運ぶ。
   誰かに手首を運ばれているように手首が持ち上がる動き。肘はどう動いている? 観察もする。
 2 身体のセンターを指し示すように、親指でヘソ、お腹、喉、唇、鼻、額、となぞっていく。
   この動きをしているとき、全身はどんな動きをしていた? それとも動かなかった?
 3 今度はその動きを想像してみる。どんな動きだったかを思い出して、出来るだけ忠実に想像
   してみる。ゆっくりでいい。
 4 パートナーを見つけてペアになり、次に相手の身体をマッサージしたりタッチしながら、
   ゆっくり床へ誘導して仰向けにさせるという作業が入りました。その次はパートナーに自分の
   手首を持ち上げてもらって、動きの感覚の差を確認するということを行いました。

 自分で動く・想像する・他者に動かされる、3つのワークを体感することで、自分の身体がとても立体的に観察できたなぁと思いました。


■ 意識の変化点をつかまえる
 

 
 

 
 ワーク内容としては、時間的に前後してしまうのですが、目を閉じたり開いたりしながら動くということもたくさん行いました。「カメラのシャッターを切るように」。ヌノさんはそんな風に説明します。目を閉じたり開いたりしながら動いていると、目を閉じている間に自分も他の人も状況が変わっています。さっきまでそこにいた人が遠くにいたり、逆にまだその場に立っていることもあります。目を開くまで分からないという感覚と、なぜか見えていないけど予測がつくという感覚が混ざった状態で自分に生じてきます。それは発見の連続とも言えますし、発見によって変化していくことだとも言えます。前半にじっくり時間をかけて自分の感覚と向き合った後の動きは、とても研ぎ澄まされた感じがして、動けることに新鮮さがあります。ワークショップがはじまる前には寝転ぶことにも戸惑いがあったのに、自分でも不思議なくらいに楽しく動けていました。自分の身体を知ること=動くことへの戸惑いが消える……。もしかしたら、関係があるのかも知れないと思いました。


■ フェルデンクライスとコンタクト・インプロビゼーション。2つを体感することで見えたもの

 ヌノさんのワークショップは、大きく分けて2つの柱がありました。1つはフェルデンクライスというメソッドに基づいた自分の身体を観察すること(身体との対話)と、2つめはコンタクト・インプロビゼーションというメソッドを元にした動きのワーク。参加者の様子を観察しながら、いろいろ試すようにワークを進めていったヌノさん。観察するということが、参加者の身体それぞれにも行き渡っていたんですね。これって、自分の生活環境にも使えないかな……。いや、日常って実はこれの積み重ねなのかも知れませんね。それがうまくいかないことも多いと感じますけれど。

 2つのワークを自分の身体で体感して感じたのは、

 1 普段いかに自分が身体を意識していないか
 2 自分の身体を知ることは楽しいことにつながりそうだ

 という2点が大きなところです。2に関しては、まだまだこれから自分で持ち帰って試しつつ、「自分の身体を知ることで、とっても楽しいことが出来る!=それがダンスなんだ」と実感することが出来ると思います。

 このワークショップに参加できて、とっても良かったなと思います。都合で3回しか参加できなかったのが残念ですが、得たことを元に日常生活にも楽しく活かしていこと思いました。ヌノさん、参加者のみなさん、スタッフのみなさん、ありがとうございました。

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