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日々是ダンス。踊る心と体から無節操に→をのばした読み物


2008年6月号 京都の暑い夏2008ドキュメント


               いったいあれはなんだったんだろう……

                                     レポーター:大藪もも

Creation C-1 4/26(土)〜5/5(月・祝) 全9回
*5/6(火・祝) 17:00 ショーイング
[概要] 今年6月に香港にて発表予定の新作ソロ作品のためのアイデアを、参加者とともにリサーチしていきます。作品コンセプトは「東洋医学における身体観」! 激動する現代社会と、揺れ動くアジアの身体との関係性について、ダニエル・ユンならではのウィットとユーモアに富んだ考察を共にすることができるでしょう。





 
  ダニエル・ユン(中国/香港)香港コンテンポラリー・ダンス界の鬼才。ウィットとアイロニーに満ちたダンスが特徴の彼は、ダンスする「身体」を現代の社会、科学、芸術の文脈の中に批評的に位置づけて行く。大学で西洋絵画と中国音楽を専攻。'00年リヨン・ダンス・ビエンナーレ、ビッグ・トリノといった著名なフェスティバルに招聘され一躍注目を浴びる。'02年、'05年と「香港芸術節」の委託を受け、高嶺格、ムギ・ヨノ(インドネシア)、藤本隆行(dumb type)といったアジアのアーティスト達とのコラボレーション作品を発表し、話題を呼ぶ。(提供:京都の暑い夏)
 

 今年もいくつかのクラスを受講していたけれど、このC-1は9日間と一番長かった。最終日にはショーイングもあった。受講者は5人と少なかったかったこともあって、過ごした時間は濃かった。でも、私にはダニエルが何を求めているのか、その芯の部分が最後まで良くわからなかった。だから、自分のショーイングが始まる前に他のクラスのショーイングを観ながら、いったい私はこの9日間何をしてきたのだろう、ダニエルはいったい何がしたかったんだろうと、自分でも意外なくらい感傷的な気分で考えていた。

 受講するクラスを選ぶときの決め手はフィーリングだったりする。ダニエルはまさにフィーリング受講だった。このプリティな写真をマイフォトとして出してくるあたり、かなり面白そうだ。きっと気が合うに違いないと自分勝手に想像を膨らませていたら、すっかり裏切られた。いや、気が合わなかったわけではないけど、もっとラフに動けるかと思っていたのに……。
 

 
                                       Photo: 古後奈緒子


 1日目から4日目まで、ワークの始めはひたすら呼吸を感じながら立っていた。その時間なんと20分。微動だにせず、ひたすら立っている。膝は軽く曲げて、腕は身体の前でボールを抱えたような円を描く、肩にも肘にも力は入れず、呼吸は頭頂にある“百会(ひゃくえ)”と足の裏にある“湧泉(ゆうせん)”をめぐっていくという東洋医学や、太極拳の基礎にある呼吸を会得しようとする時間なのでした。長い20分が終わると、同じくらいの時間をかけて今度は同様の体勢、呼吸を保ちながら腕の動きを加えるワークが続いた。
 初日はいつ終わるねんと思いつつじっと耐えた20分。途中で眠くなってしまった。足の裏が下駄を履いて歩いた後みたいにペロンペロンになっていて痛い。何だこりゃ?
 2日目はやたら眠くて途中立ったままで舟こいでいた。ダメダメです。
 3日目は体調も万全であったのか、ずいぶん気持ちよく立っていられた。でも、気持ちよくといっても清々しい気持ちよさとはちょっと違う。何かこう周りの空気が妙に質感を持って重くて、自分の身体がものすごく遠くなって客観的に見つめているような感じと言えばいいかな。3日目にしてようやくこの20分が好きになってきた。
 4日目、ダニエルが用意して欲しいといっていたビデオを準備するのに手間取っていたら、いつの間にか会場に誰もいなくなっていた。皆どこに行ったん??? もしかして怒って帰った??? とか思って探し回ってたら、なんとこの日は外で立っていた。途中から加わったから、いまいち集中しきれなかったけど、青空の下はやっぱりいいなと思った。
 

 
 

 
 

 
                                       Photo: 森本万紀子


 5日目、今日もいつもの20分と思っていたら、無かった。出鼻をくじかれた上に、もっとも苦手な動き(ダニエルはこれは“振り”ではないということを強調していたので、ここでは“動き”としておく。ダニエルが“振り”ではないと言ったことの本意は、おそらく何らかの表現のために作られた型ではないという意味だろうと思う。つまりこの動きはラジオ体操みたいな、エクササイズのためのものだということだ)を覚えなければならないようなワークになった。大嫌いな“覚えるワーク”のとうじょう〜で、ますますやる気を失い、とうとう途中から見学に回ってしまった。
 6日目、今日も前日の動きの続きになる。私は呼吸を失わずに、でも動きは出来るだけ忠実にと言うダニエルの注文が飲み込めないでいた。あの呼吸を失わずにいようとすると、私としては殆ど動くことなど不可能で、ダニエルの作った激しい動きなんかとても無理だった。いったいどうしろと? 各自が動きをさらっているが、私は昨日サボっていたので、全然わからないし、呼吸と激しい動きの両方をこなす術も見いだせなくてイライラしていた。でも、ここにいるからにはやらなきゃと葛藤しつつ、傍目に明らかなほどイヤイヤやっていた。見かねたダニエルの個人レッスンが始まったけど、正直ほっといてくれーと思っていた。でも、このときやる気がないから覚えられないし、張りがない私に対してダニエルは絶対引かなかった。何度も、何度も、何度でも見本を見せながら同じことを「This!!」「This!!」と繰り返した。結局、私はダニエルの勢いに根負けして考えることをやめ、ただ、ただ動きを覚えることに集中することにした。私の疑問は解決しなかったけど、このダニエルの押しがなかったら私はきっとショーイングには居なかったと思う。
 7、8日目も歯に挟まったものがとれないような不快さを抱えながら、動きをさらっていった。ショーイングの流れが決まったのは8日目の終了間際のことで、当日も事前に全部を通すことはなかった。いったいこれから何が始まるんだろうと、人事のように思いながらショーイングの時を迎えてしまった。
 

 
 

 
                                        Photo: 山分将司


 ショーイングの時、何か全てがものすごくどうでも良くなっていた。動きと呼吸が上手く合わないことも、ダニエルが何を考えているのかわからないことも、たくさんの人が見学に来ていることも、全部どうでも良くなった。そんなことはどうでもよくて、見慣れたフリースペースの空間に、いつもの立ち方で馴染んだ5人がいるこの時間を大切にしたいと思った。不思議なくらい、ああーみんな居ているわと思える心地良さがあった。お互いそれほど熱く語り合ったわけでも、推敲を重ねて動きを作り上げてきたわけでもなかったのに、何がしか共有できている気がした。
 ダニエルが何をねらっていたのか、私は未だにその回路を紐解くことができないけど、ショーイングで感じた心地良さが全ての答えな気がするよ。C-1は私にとって今年もっとも暑いワークでした。

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